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「マネジメント 3.0 エッセイ第1回」

2021.05.31 株式会社オージス総研  藤井 拓

私がマネジメント 3.0に興味を持った理由

私は、定年後2年が経過した年寄りの技術者/研究者、その他であるが、私がここ4年ぐらいに興味を持っているテーマがアジャイルなマネジメント、特にJurgen Appeloが提案したマネジメント 3.0 [Appelo, 2010]である。本記事では、私のキャリアの特徴とその体験に基づく成果を出すための原則を説明し、それらとマネジメント3.0の関係について論じる。

■私のこれまでのキャリアの特徴


私のこれまでのキャリアの特徴を、以下の2点に集約できると思う。

A) 不確実性の高いテーマに取り組むことが多かった
B) 人に指示を出すということが苦手だった

A)は、少し変わったキャリアだと思うが、これまで前例のないテーマや新しい技術に自分なりのアプローチを決めて取り組んできたことが大半を占めてきたということである。B)は、技術者出身の管理職では比較的よくあることかもしれない。指示というのは受けた側にとっては考える余地を減らしてつまらないことかもしれないし、指示を出す方として指示を出すことにやりがいを感じなかった。さらに、いったん指示を出し始めると芋づる式に指示をさらに出す羽目に陥るかもしれない点が嫌だった。
とはいえ、30代前ぐらいからA)を一人で行うだけというだけでは許されなくなり、苦手意識を持ちながら管理職の役割を少しずつ担うようになった。そこから、何回か、いろいろな立場で管理職を担い、さらにいくつかのコミュニティー活動を経験させて頂いた。このコミュニティー活動での体験は、マネジメント 3.0につながるものだった。

■体験を通じて得た成果を出すための原則とマネジメント3.0


前述したような体験を通じて、自分なりに以下のような成果を出すための原則を見出した。以下の原則の順番は、自分がそれぞれを見出した順番である。

  1. PDCAの実行と中期のマイルストーンの設定(20代、個人レベル)
  2. リーダーとメンバーの関係性が大事(20代、チームレベル)
  3. 客観的な目標と時間枠でマネジメントできる(30代、チームレベル)
  4. 異なる観点を持つ人々との交流が様々な学びと展開を生む(40代以降、コミュニティーレベル)
  5. 思い通りいかないことから継続的に学ぶことが大事である(50代以降、チームレベル)
1.、2.は、自分がマネジメントの役割を担う以前に見出した原則である。2.は、自分自身が成し遂げたことではなく、周囲のいくつかのR&Dプロジェクトを見て、成果を出すチームの雰囲気として自分がいいなと感じたものである。それらのプロジェクトでは、リーダーが合理的な大きな目標設定をし、メンバーがそれぞれ専門家として自律的にR&Dを進めていた。すなわち、階層的な指示ではなく、チームの各メンバーが各々アイデアを出しながら成果を出していたのである。これらは、R&Dの分野で成果を出すため、つまり、不確実性の高いテーマに取り組むために有効なものだと私は考えている。
3.は、マネジメントの役割を担い始めた30歳前半(1995年ごろ)で試みたものである。指示を出すのが嫌だったのだが、自分自身の運命を成り行き任せにするのも嫌だったので、1.の自分の体験と反復開発のやり方に類似性を感じて、このやり方でマネジメントできるのではないかと考えた。メンバー次第かもしれないが、これも成果(=顧客に対する実質的な価値)を出すために有効だったと思う。この体験を通じて、反復開発(あるいは反復開発的マネジメント)は自分自身の信条の1つになった。
4.は、40歳頃からR&D的な役割に戻った際から現在に至るまで徐々に学んだことであった。最初は、社内の交流から始めたが、その後にいくつかの社外コミュニティーに参加した。これが、異なる観点を持つ人々と交流することで、様々な学びと展開を生んだのである。
5.は、50歳過ぎてから R&D をビジネスにつなげるための取り組みをしたことで得たものである。原理的には、リーンスタートアップ [リース, 2012]のように、仮説を検証するしかないので、一定の方針で動いてみる(潜在的な顧客との対話)のだが、なかなか前進が実感できない点で苦しい。当たり前の話かもしれないが、一定期間動いたら、動いて得られた体験に基づいて、自分の仮説を考え直す必要がある。まさに、 リーンスタートアップ であり、その過程で何かを学ばないと R&D をビジネスにつなげることができないと思う。
これらの原則で、1.、2.、3.、5.はアジャイル開発と共通する点が多い。但し、2.については、自分自身では、これまであまり実現できていていないと思うのが、残念なところである。4.については、アジャイル開発との関係性は低いと思うが、実は、R&D的な役割を持つマネジメントにとっては、非常に有効な原則ではないかと思う。
私は、マネジメント 3.0は、会社の組織中で2.と4.を実現するために有効な可能性が高いのではないと考えている。それは、マネジメント 3.0が目指すことが、情報からイノベーションを生み出すという組織の能力、すなわち「情報-イノベーションシステム」を高めることであるからである。

情報-イノベーションシステム
情報-イノベーションシステム(書籍『Management 3.0』の図に基づいて作成)

上の図において、中央の5つの歯車を囲んだ枠が組織を表す。情報-イノベーションシステムとは、組織が得た情報からイノベーションを生み出す姿を表している。別の言い方をすれば、組織のR&D的な能力をさらに、この図は、組織のイノベーションを生み出す機能は、知識、創造性、モチベーション、多様性、個性という5つの歯車の動きに左右されることを表している。

■マネジメント3.0とは


マネジメント 3.0は、これらの5つの歯車の動きを活性化するためのマネジメントに関する理論とプラクティスを提供するものである。Appeloのマネジメント3.0と従来のマネジメントとの違いの説明を、筆者なりに要約すると以下のようになる。

マネジメント 1.0 = 階層:科学的マネジメント、階層化された指示と統制に基づくマネジメントモデル
マネジメント 2.0 = 一時的な流行:マネジメント 1.0のモデルがそのままではうまく機能しないので、バランスドスコアカードなどが付け加えられたマネジメントモデル
マネジメント 3.0 = 複雑性:複雑系の科学から得られた「あらゆる組織は(階層ではなく)ネットワークである」という洞察に基づき、「マネジメントが(指示と統制一辺倒ではなく)主として人々とそれらの関係に関するもの」と考えるマネジメントモデル

マネジメント 3.0の理論とプラクティスは、以下の図の6つの視点で体系化されている。

情報-イノベーションシステム
情報-イノベーションシステム
(書籍『Management 3.0』の図に基づいて作成)

次回以降で、マネジメント3.0がまず土台としている線形の考えと非線形の考え、複雑系と複雑適応系の話を簡単に説明し、マネジメント3.0の視点について議論していこうと考えている。

参考文献
Appelo, Jurgen. (2010). Management 3.0: Leading Agile Developers, Developing Agile Leaders. Addison-Wesley.
リース, エリック. (2012). リーン・スタートアップ . 日経BP.

<つづく>

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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