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「「サービス・イノベーションによるブランディング」と「おもてなしマインド」の関係について」

2017.01.23 株式会社オージス総研 行動観察リフレーム本部  松本加奈子


1.はじめに

見通しがきかなく、正解のわからないVUCAワールドだと言われて久しい現代。
(VUCA=Volatility 変動性、Uncertainty 不確実性、Complexity 複雑性、Ambiguity 曖昧性)
そのような時代だからこそ各企業は自社のアイデンティティや信念に忠実であることが求められているのではないでしょうか。その活動は「ブランディング」であり、「企業アイデンティティの顧客到達プロセス」だと言えます。
企業におけるブランディング戦略は、優位性、独自性、唯一性を追求し、顧客に高い付加価値を提供することで、顧客とのつながりを強固にすることでしょう。それを実現するサービス・ゴールとして、「イノベーションの創発」「エクセレンスの追究」があります。
サービス・ゴールを実現すべく、各企業は自社のアイデンティティや文化に根差した様々な活動を考え、実行されており、私たちも多くのクライアントさまから日々学ばせていただいています。

2.ブランディングにおけるレバレッジポイントとは

今回は、ブランディングにおける、これら2つのサービス・ゴールのレバレッジポイント的アクションと考えられる「顧客暗黙知の形式知化」について、考えてみたいと思います。

「顧客暗黙知の形式知化」とは、顧客自身も企業側もまだ気づいていない、顧客の思いや願望を抽出し言語化することです。
サービス・ゴールの「イノベーションの創発」「エクセレンスの追究」を実現することは、顧客や社会にさらに役立つ新しい価値次元をもたらすことであり、そのためには今までと異なる顧客の暗黙知(インサイト)を獲得することが効果的な機会となります。

3.「認知的アンテナ」の強度を高める

「顧客暗黙知の形式知化」の実践プロセスの最初のステップは、人々や現象の観察をおこない、発信している情報の中から今まで見落としていたような意外な事実に気がつくことです。

次に、それらの事実を解釈し、水面下にある人の言語化や認識されていないようなニーズ(インサイト)を仮説として導き出すことが求められます。そのニーズ(インサイト)は、その後、新たなサービスのコンセプトのコアとなります。(図1)
そしてコンセプトを体現するサービスをデザインし、顧客に新しい価値次元を提供します。

事実とインサイト
図1. 事実とインサイト

ここで重要なのが、導き出したインサイトが顧客の暗黙知的ニーズを真にとらえているかということです。この精度を高めるために重要な要素の一つが、そのインサイトを導き出す人の、明確でないものに対して無意識に歩み寄り感じ取る認知的アンテナのような「感受性」であると考えています。

他者の言語化されないニーズ(インサイト)を真にとらえるためには、「認知的アンテナ」の強度を高める必要があります。それには、個人だけの経験だけでは不十分で、他者の経験からも学習することで、さらに受信領域を広げることが可能です。

4.多様性の尊重と「おもてなし」マインドの重要性

「認知的アンテナ」の強度を高めるための他者の経験から学習するためには、どうすればよいのでしょうか?

まず、様々な場面での他者との会話を通じて、相手の考え・感情を受容し、理解するために、それを自分のものとして想像してみて、自分であればどう感じ、どう考えるだろうか、どのようにしたいだろうか、何が必要だろうかと自問します。
そして可能であれば、相手が良い状態になるような行動をとる。そして相手の反応を観察し、さらにできることは何なのかを考え、行動する。
このようなプロセスを繰り返すことは、他者の「認知的アンテナ」に自分のそれとの距離を縮めるのを助けると考えます。
人は、自分と異なる意見・価値観に触れた時に違和感を持つのが普通で、それを受容することは、実はそれほど簡単なことではありません。ですが、「多様性の尊重」という価値観を持っていれば、バリアーが低くなるでしょう。

実はこのプロセスを前提として活用しているのが、「おもてなし」サービスです。
「おもてなし」は、相手が言葉にされなくても、相手の気持ちやニーズを察知し、相手が気づく、気づかないにかかわらず、相手が少しでも快適な気持ちになるような行動をとることです。
そのような「おもてなし」には、「人の尊重」という価値観が基盤にあります。そして「人の尊重」は「多様性の尊重」を包含すると考えます。そうであれば「多様性の尊重」は「おもてなし」を提供するうえでの、潜在的前提条件であると言えます。

それゆえ私は「認知的アンテナ」の強度を高める方法の一つとして、組織における「おもてなしマインドの醸成」が効果的であると考えています。

さらにこの「おもてなし」マインドは、人々の関係性の向上にも効果がありますので、組織内であればコミュニケーションの質が向上し、前述のサービス・ゴールである「イノベーションの創発」「サービス・エクセレンスの追究」を実現する組織の体質づくりにも効果があると考えます。(図2)

サービス・イノベーションによるブランディング・プロセス
図2. サービス・イノベーションによるブランディング・プロセス

4.ブランディングは組織を健全にする

したがって、ブランディングにとって重要なのは、「顧客の暗黙知の形式知化」に取り組むと同時に、そのプロセスと結果を高めるための組織の体質づくりであり、それには「おもてなしマインド」の醸成が効果的であるという仮説をもっています。

ブランディングという組織のアイデンティティが顧客に到達することを目的とした活動経験は、その組織人の自己概念と自己経験が一致するプロセスです。たとえば顧客に「思いやり」を提供することをアイデンティティとしている組織であれば、従業員自身も他者からの「思いやり」を普段から頻繁に体験することが必要であり、自身の行動によって「思いやり」を体現しており、顧客はその「思いやり」を経験し、従業員がそのことを認識している状態です。
このプロセスは心理学でいう「自己一致」している状態であり、人と組織を健全な状態に導くと考えています。

5.まとめ

サービス・イノベーションによるブランディングには、顧客暗黙知の形式知化がレバレッジポイントとなります。そのためのインサイト抽出の質を高めるには、実践者個人の暗黙知を感じ取る「認知的アンテナ」の精度を強化することがキーとなりますが、それを普段からの習慣するために、意外かもしれませんが、組織内での「おもてなしマインド」の醸成が役立つと考えます。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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