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「証券STPの進展 第一回」

2010.05.01 株式会社オージス総研  有間 博道

 「証券STPの進展」「ISO20022の活用拡大」に向けて、ITベンダーも、もっと、積極的に情報発信をすべき。と言う箴言を「保管振替機構のポストトレード・サービス部」の方々から頂き、確かにその通りだと痛感していました。
 まずは、「証券STP」に関する筆者なりの考察をし、自社のWebページでかつ拙いものではありますが、少しでも情報発信できればと思っています。 尚、本文中、意見にわたる部分は、筆者の私見であることを予めお断りしておきます。
 又、STPは、金融業務全般にわたって適用できる概念ですので(保険業務におけるSTPなども存在します)、ここでは、証券業務に特化した「証券STP」を論点としたいと思います。

 「証券取引のT+1化」の必要性が声高く叫ばれ、その実現手段として、「証券STP」の実現検討が活発に行われた1990年代後半から、既に十年以上の歳月が経過しました。
 その間、「T+1化」の必要性・重要性は認識されながらも、乗り越える壁の多さ・高さ(コスト面、法制度面、人材面、参加者の調整面など)と、取り巻く環境の変化(マーケットの低迷、同時多発テロの発生など)により、凍結状態が続いていました。
 しかし、「STP化」に関しては、証券決済インフラの整備を中心とした証券決済制度改革が着実に実行され、その中で、事務処理のSTP化の実現が推進されてきました。

 日本の証券STP化は、欧米先進国に比べ、遅れているとの指摘もありますが、 証券決済インフラが整備され、
 ●振替決済機関の統合
 ●清算機関の創設
 ●ペーパーレス化促進
が、実現されてきた今、証券STPの更なる進展に向けた土台が整ったと強く感じています。昨年1月、「株券電子化」により、日本の主要有価証券は、全てペーパーレス化されました。 参加者が多く、取引量も多い、株式の電子化を成し得ている国は、フランスと日本だけです。
 今後、加速する(加速しなくてはいけない)、日本の証券STPの進展に向けて、少しでも多くの情報をSIの現場からお伝えできればと思っています。
 「証券STP」に関する論点は多いので、考察は、数回に分けて実施して行く予定です。 

 今回は、まずは、「証券STP」の定義から始めたいと思います。
 それは、証券STPの参加者(関連登場人物)により、定義が微妙に異なるからです。

 証券STP定義の明確な定義は、難しいと思いますが、幾つかご紹介させて頂きます。

  1. 証券取引の約定から決済に至る一連の作業が、標準化されたメッセージ・フォーマット(取引データをやり取りする際の形式)を用いて電子的に行われ、一度、入力されたデータが、人手による加工を経ることなく処理されること。
    (2004年 日銀が発表した 証券決済システム改革法案の補足資料より)
  2. 証券取引の発注・約定から照合・清算・決済までの一連のプロセスを、標準化されたメッセージ・フォーマット(電文形式)等により、システム間を自動的に連動させることによって、人手を介することなく、電子的な情報の流れとしてシームレスに処理すること。
    (中島真志氏、宿輪純一氏著「証券決済システムのすべて」 より)
  3. 業務プロセスの大半をシステムで自動処理し、複数システムにまたがる場合は、システム間を電子的に接続する。社外と情報を交換する場合は、プロトコルを決めて、プロトコルに準拠したメッセージを送受信する――といったことが必要になる。これらを、証券会社や運用会社などホールセールにかかわるすべての参加者を巻き込んで実現する。
    (NRI南 博通 氏のインターネット情報「IT-Pro」上での表現より)

 色々な文献やインターネット上の表現では、「約定から決済に至る一連の作業・・・」と、STPのスタートが約定プロセスにある様に表現されているものが多いのですが、これは、当初のフォーカスが証券決済システムに集まっていたからだと思います。 STPのメリットをより享受するためには、中島氏、宿輪氏が述べていられる様に「発注」を起点としたSTPの確立が重要だと考えます。南氏も、インターネットの文章中で、「顧客からの注文を受けること」からSTPの業務がスタートするように述べられています。
 発注をSTPに含める事で、享受するメリットは拡大しますが、当然ながら乗り超えるべき課題も増加します。 その一つが、標準メッセージの相違です。発注系の情報交換プロトコルではFIXプロトコルがデファクトスダンダードであるのに対して、約定照合や決済照合では、ISO15022やベンダー独自プロトコルなど、FIXとは異なるプロトコルが採用されているので、大きなメッセージ変換がSTPの途中で必要になる点です。 
 実際には、発注業務でも、ベンダー独自プロトコルを用いて発注を行うものも、まだまだあり、STPの全てのプロセスのおいて標準化されたメッセージを採用するのは、まだ、難しいのが実情です。
 又、個人的に、「大半をシステムで自動処理・・・」と言う南氏の表現に非常に共感させられます。(「全て」で無く、「大半」と表現されている部分)
 STPを実現する上では、全てをシステムで自動処理するのは、究極の目標であるかも知れませんが現実的では無いと思います。 どこからどこまでを、何故、何のために自動化するかを明確にし、自動化できないところ、自動化しないところは何故自動化しないか、自動化されないことによる留意点や対応策は何かを体系だって整理することがSTPを推進していく上でのポイントだと考えています。
 次回以降では、証券STPの概要、証券STPのメリット、証券STPにおけるメッセージ標準化のメリット、証券STPの課題、証券STPのシステムアーキテクチャなどについて、考察していきたいと思います。


*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報シス テム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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