WEBマガジン

「トレーディング業務基礎(バイサイド編 第五回)」

2011.09.09 株式会社オージス総研  有間 博道

 

 今回は、国内株式の執行形態について、その種類と概要、コストについて記述したいと思います。

1.国内株式の執行形態(発注形態)の種類

 国内株式における市場への執行形態は、「指値」と「成行」と言う分類が基本となります。近年、オンライントレードの高度化により、「逆指値」や「ツイン指値」など複雑な執行形態も登場していますが、この基本分類の拡張であり、リテール分野(個人投資家)では、この基本分類が使われています。
 ホールセール分野(機関投資家など)では、取引量が多く、顧客が独自のシステムを有しているので、それに加えて、「計らい」「DSA」「DMA」と言う分類が重要となります。

※逆指値:
 株価が指定した価格以下になったら「売り」、指定した価格以上になったら「買い」という注文方法です。
 注文に一定の条件を設けて利益確定やロスカットを行う時に使います。
 その他に、これまでの値動きのレンジを抜けて上昇してきた時のための買い予約をいれておく等にも有効です。
※ツイン指値:
 「ツイン指値」は、タイミングを逃さず利益を確保し、思惑違いの相場にも素早く対応するための注文方法です。
 例えば、保有している株式の利益確定の売り予約注文を出すと同時に、想定外の下落に備えてロスカットの「逆指値」を設定します。
 ツイン指値は、はじめに指値注文として発注し、「XXX円以上(以下)になれば」というトリガー条件に達すると注文を訂正し逆指値となります。

2.ホールセール分野での執行形態

 機関投資家からの注文は、個人投資家の注文に比べて、注文数量や銘柄数が多いので、相場の状況に影響され、注文を完結させるのが難しい場合があります。
 機関投資家と証券会社は、注文を確実かつ最良に執行するために、成行や指値に加えて、
「計らい」「DMA」「DSA」などの執行方法を駆使して注文執行を行います。

 

機関投資家と証券会社の執行形態別注文
図1 機関投資家と証券会社の執行形態別注文

(1) 機関投資家のトレーダーは、ファンド毎の売買案件をと纏めて、執行計画を策定します。
(2) 策定された執行計画を元に、証券会社の選定や計らい、DSA、DMAなどの執行方法を確定します。
(3) 機関投資家内部で、事前コンプラインスチェックを行います。
(4) コンプライアンスチェックで問題が無かった取引は、各種方式(電話、メール、FIX接続など)で証券会社に発注されます。
(5) 証券会社では、注文を受け、それぞれの執行方法に基づいて、市場(取引所、PTS、ダークプールなど)で注文を執行します。
※PTS(Proprietary Trading System) :私設取引システム
 取引所外での証券取引システムで、主に機関投資家や法人を対象としますが、個人での参加も増えてきています。1998年12月に有価証券取引の取引所集中義務撤廃に伴い解禁されました。電子通信技術の発展や金融技術の革新を背景に、取引の迅速性や匿名性など取引ニーズが多様化していることからPTSが活用されるようになってきています。スマート・オーダー・ルーター(SOR)取引の必要性、重要性が高まる中、PTSは、より重要な市場となっていく可能性が高く、日本では、ネット証券や大手証券、又は複数証券の連合でPTSを設立しています。
※ダークプール (Dark Pool)
 取引所外取引の一種で、東証などの取引所を通さず、投資家の注文を証券会社の社内でつけあわせて取引を成立させる取引のことです。
 ダークプールは、一般的に証券会社(特に外資系証券、大手証券)を中心としています。機関投資家のみが参加者となり、個人投資家は参加していません。
※PTSも、ダークプールも取引所外取引になります。投資家にとっては、取引所外取引を利用することで、より機動的な売買ができるようになったと言うメリットがあります。
1)計らい
 「計らい」を国語辞書で調べると、「判断、取り扱い、処置」と言う意味で、
 「粋な計らい」とか「特別な計らい」と言う用例が載っています。
 証券注文における「計らい」取引とは、「証券会社に売買注文を出す際、あらかじめ値段を決める指し値に幅を持たせて行う方法」で、証券会社のセールストレーダーの裁量で、事前に取り決めた、ある一定の枠内において注文執行の判断・取り扱い・処置を行う事です。
   例):
 AAA投信投資顧問が、BBB証券に対して、
 「日立製作所(6501)、10万株、買い」の注文を出す場合を考えます。

 成行で10万株の注文を出すのは、機関投資家として、取得価格に対する責任が不足しており、又、決まった指値で出すには、数量が大きく、希望する数量の株を取得するのが難しくなります。この様な場合、「計らい」で注文を出せば、取得価格に責任を持ちつつ、より高い確率で希望する株数を取得できます。
 AAA投資顧問から「計らい」で注文を受けた、BBB証券のセールストレダーは、マーケットインパクトを抑えるために、「日立、10万株、買い」の親注文を、幾つかの子注文(相場に応じて適正な数)に分割(split)します。 そして、株価や出来高、他の証券会社の手口など相場・市況状況を見ながら、市場(主に取引所)に、子注文を執行していきます。 その際に、必要に応じて、注文条件を付加したり、子注文を更に分割して孫注文を作成して注文を執行します。 BBB証券のセールストレーダーは、出来る限り良い平均取引価格(買いの場合は安く、売りの場合は高く)で、出来る限り確実に早く注文の完結(顧客が希望する数量を全て取引する)を行う様にします。 最良の価格で確実・迅速に注文を執行する事で、証券会社は機関投資家からの評価指標であるブローカーポイントを上昇させ、取引量の増加、しいては、手数料収入の増加を目指します。
 一度だけで無く、繰り返し安定して注文執行サービスを提供する事が重要で、その為には、人だけでなくシステム、事務などをしっかりと整える事が必要となります。
 システムの整備は、DMA、DSA(特にDSA)でも非常に重要なポイントになります。DMA、DSAは、バイサイド、セルサイド、ストリートサイド、及び其々の接続など証券取引に関わるシステム全体の高度化(機能・性能)によって成り立っています。
2)DMA
 「DMAは、Direct Market Accessの略です。その名の通り、 バイサイド(機関投資家)のトレーダーが、セルサイドの証券会社を経由してほぼ直接、市場(取引所など)に注文を執行する形態です。
 機関投資家は、証券ブロカー免許を有していないので、本当に取引所などの市場に直結して取引を行う事は出来ませんが、証券会社は必要最小限のチェック(コンプライアンス中心)しか行いませんし、実際の執行も「機関投資家⇔証券会社⇔取引所」が電子的・システム的に直結され、FIXプロトコルを用いて自動で取引(発注・出来の管理など)が行われるため、セルサイド、ストリートサイドでは人手を介しませんので、あたかも、機関投資家が直接、市場で注文を執行したかの様になります。
 DMAはバイサイドのトレーダーの注文意図に沿った執行が出来るといったメリットがある分、バイサイドトレダーが 注文執行に関わる時間が長くなる可能性があります。
3)DSA
 DSAは、Direct Strategy Accessの略で、アルゴリズム取引がこれに当たります。
 アルゴリズム取引は、指定された戦略(アルゴリズム取引の種類:VWAPやISなど)とパラメータに則って、市況情報、取引状況などからシステムが相場を自動で判断し、注文の数量やタイミング、取引条件を指定しながら自動で取引を行う方法です。アルゴリズム取引は、機関投資家が自らのシステムを用いて行う場合と、証券会社が提供しているアルゴリズム取引(システム)を用いる場合があります。機関投資家が自らのアルゴリズムを用いてDSAを実行する場合、機関投資家は、自分たちの意図に沿った(自分たちが開発した)アルゴリズムを用いて取引を行う事ができ、パラメータもタイムリーに変更できると言ったメリットがあります。(手数料に関するメリットは後述)
 しかし、証券会社のDMAの仕組みを使用(経由)する分、出来の状況から即座に注文を変更したり、追加したりする場合など、証券会社でアルゴリズム取引を実行する場合に比べて、タイムロスが発生します。
 株取引には価格優先・時間優先の原則があり、ロットの大きなアルゴリズム取引の場合は、選択する戦略、パラメータにもよりますが、数100件/秒の注文トランザクション(新規、取消、訂正)が何分間か持続して発生する場合もありますので、少しのタイムロスが、平均取引価格や約定率に悪い影響を出す場合もあります。
4)手数料(コスト)の比較
 通常、証券会社に払う取引委託手数料は、取引形態の違いにより異なり、
  計らい > DSA > DMA 
 となります。
 それは、以下の理由が大きな要因となります。
● 計らい・・・セールストレダーの時間・手間を多く必要とする。
● DSA・・・証券会社のシステム(アルゴリズム)を使用する。
● DMA・・・証券会社のシステム使用も最小で人でも殆ど掛からない。
(機関投資家でDSAする場合は、証券会社ではDMAとなります)

※ご参考 : 執行方法別手数料水準

 計らい 13.3
 DSA 9.4
 DMA 8.3
単位:BP(ベーシスポイント 1/10000)
※※ 2009年NRI調査(運用会社42社)

 アルゴリズム取引は、色々な手法が存在し、ホールセール・トレード業務に力を入れている証券会社は、各種の手法を提供しています。

次回は、国内株式の取引の執行形態などの記述をしたいと思います。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

 

『WEBマガジン』に関しては下記よりお気軽にお問い合わせください。

同一テーマ 記事一覧

「トレーディング業務基礎(バイサイド編 第六回)」

2011.11.10 証券 株式会社オージス総研  有間 博道

「トレーディング業務基礎(バイサイド編 第四回)」

2011.07.01 証券 株式会社オージス総研  有間 博道

「トレーディング業務基礎(バイサイド編 第三回)」

2011.05.01 証券 株式会社オージス総研  有間 博道

「トレーディング業務基礎(バイサイド編 第二回)」

2011.03.01 証券 株式会社オージス総研  有間 博道

「トレーディング業務基礎(バイサイド編 第一回)」  

2011.01.01 証券 株式会社オージス総研  有間 博道

「証券STPの進展 第四回」

2010.11.01 証券 株式会社オージス総研  有間 博道

「証券STPの進展 第三回」

2010.09.01 証券 株式会社オージス総研  有間 博道

「忠臣蔵と元祖デリバティブ取引所 」

2010.08.01 証券 さくら情報システム株式会社  遠山 英輔

「証券STPの進展 第二回」

2010.07.01 証券 株式会社オージス総研  有間 博道

「証券STPの進展 第一回」

2010.05.01 証券 株式会社オージス総研  有間 博道