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「行動観察とIT~前篇:顧客意図を把握するということ~」
株式会社オージス総研 行動観察リフレーム本部

2018年02月号
  • 「行動観察とIT~前篇:顧客意図を把握するということ~」
株式会社オージス総研 行動観察リフレーム本部   矢島 彩子

1.はじめに~行動観察はITのソリューション導出にどのように関わるのか~

現在、行動観察リフレーム本部では、大阪ガス行動観察研究所が整理した方法論、"Foresight Creation"をベースに、顧客とともに共創しながら新たな価値導出の仕事を行っている。ここ数年、私たちは、従来の新商品開発や、新たな事業形態導出だけではなく、業務の改革における改革ソリューションとして、人を中心とした改革に加えてAI、IoT、RPAなど、ITを利活用したイノベ―ティブな方向性を人・ITの両輪で施策を考え、新たな価値を出すことを求められている。お客様の現状を把握し、可視化することを得意とする私たちの行動観察は、答えのない問題に果敢に取り組み、言葉や組織文化など、文脈の異なる人たちとともに意識や言語をすり合わせながら、複雑な課題を解決する新たな価値、コンセプトや指針を提言しなければならない。
今回は、業務効率化のためのIT施策を例に、行動観察から新価値を含むIT施策へつなげるために必要な情報をとる部分であるヒアリング・インタビューの方法や観察で"気づく"にはどうしたらよいか、を中心にお話しする。

行動観察×IT プロセスの全体像
図1:行動観察×IT プロセスの全体像

2.背景:顧客内部で生じる課題

お客様が、"業務効率化のためにITをうまく活用したい"、と言われる背景は、それぞれの"層"によって描く課題は異なったままであり、またそれを明文化しない、できないという状況である。経営層は、「業務量が増加していることはわかる。しかし、人は増やせないが効率化を行い、生産性を向上させたい。IT化することで、本来現場がやるべきことをやる時間がとれるはずだ」と言い、現場部門は、「業務量が増加しても、やり方は昔のまま。新しいことをやるより"慣れた"かつ"わかっている現状維持で"業務を遂行したほうがコストもリスクも背負わなくてよい」と思い、システム部門は「現場が"やりたい"と言っているが、そもそも現場がどう使っているかがわからない」と各部門間や経営層と各部門間でのギャップは常に生じている。これらを解消し、各ステークホルダーと合意をするためには、現状を把握する=事実をとらえ、様々なことに気づき、仮説を生成しなければならない。

各層における課題のとらえ方
図2:各層における課題のとらえ方

3:事実を捉え、"気づく"ために必要な力~着観力と発問力~

行動観察における"気づく"とは、「既知の事実」と「新たな事実」をもとに、自分たちが知りえなかった現存のマーケットに依存していない潜在的ニーズを捉える"新たな気づき"を得ることまでを追求する。そのためには、人間の心理的要因(矛盾に打ち勝つ認知的不協和*1や基本的帰属錯誤*2など)に惑わされることなく、自由に観点を切り替えながら、現状を把握する。人が「何をしているか」「何を問題だと思っているか」だけではなく、「なぜ、そのようなことを行っているのか」「なぜ、そのような負担、困難を感じているのか」というところまでを把握しなければならない。
1)着観力
私たちが事実から気づきを得るために必要な10の観点を整理した。動きの5側面とココロの5側面である。動きは、ユーザビリティやデザイン人間工学(山岡 2015)をもとに、身体的側面/頭脳的側面/時間的側面/環境的側面/運用的側面など、動きや情報操作がしやすいか、かかる時間は適切かなど、ユーザビリティの視点から気づく側面である。一方ココロの5側面は、文化的側面/感情的側面/関係的側面/意思的側面/歴史的側面など、その人が行動している"場"において、どういう背景や文脈でその行動が起きているか、人を中心としたコンテキストの視点から気づく側面である。特に、ココロの5側面では、続く"問い"を創りだす力が重要となる。

動きの5側面、ココロの5側面
図3:動きの5側面、ココロの5側面

2)発問力
現状を把握するためには、実際に現場で業務を行っている人に、いろいろ聞かなければならない。その際に、私たちは、できるだけ行動や自分の思いを、"自分事"として語ってもらえるように問いを立てる。問いを創るにあたって、大きく以下の4つのステップを踏む。
(1)相手の人が構えることなく、現状を話してもらえるような関係性をつくる
  • ラポールを形成する
  • 自分が動き、話し、主張をするのではなく、相手の語りを引き出す
(2)認知面接法*3の4つの視点で人の話を聞く
  • 関係のない業務や行動についての話もすべて受容し、聞く
  • 様々な時間順序で行動を再生し、語ってもらえるように、時系列と順序を逆にたどる
  • 視点を変える(管理者の立場ならどうするか/担当者の立場ならどうするか)
  • その行動をとる際の気持ちや行動推移の理由を捉える
(3)閉じた質問(クローズドクエスチョン)と開いた質問(オープンクエスチョン)を作成し、人/時間/空間という3軸で、できるだけ開いた質問をする
(4)優先度の高い問いを選択し、実際に業務を行っている場に行き、観察し、話を聞く。
着観力でまとめた、動き/ココロの5側面の観点で、一人もしくは複数人で、さまざまなシチュエーションに自分の身を投じて、実際に行動を見聞きしながら、解釈を行い、具体的な施策の種を見つける。

4.おわりに~気づく力を鍛えるために~

今回は、顧客の現場課題を捉える際、最初の顧客前提-意図の理解や業務効率化のためにITをどう用いたいのか-を捉える方法と捉えるべきポイントなどをお話しした。行動観察は、システムの新たな価値を顧客に提供するために、現場・現実・現物をおさえ、仮説を生成し、顧客とともにコンセプトや指針の提言につなげる第1歩として用いることが可能である。そのためには、まず"気づく力"を鍛えること=顧客意図を把握することにつながることが重要である。
手始めに、同僚、先輩後輩、他部署、そして街へ出て関係のない人々などに対して、
  • 現場に行く&見聞きする。一人ではなく、複数で同じ状況を見聞きする
  • 自分がその状況や話をどう解釈をしたかを書きだしてみる。その際、事実と解釈は分けて記載する
  • 「なぜ自分はこういう解釈をしたのだろうか」と常に自分に問うこと、そして、その事実や変則性、違和感について自分が感じた/思ったことに、正面から向き合うこと
をやってみて欲しい。
次回は後編として、実際に上記のように、事実を捉えたところから要求分析をした内容を、システム開発者とどう摺合せ、仕様化するかというところをお話ししたいと考えている。

<出典>

*1:「心理学辞典」有斐閣 1999年1月
*2:「心理学辞典」有斐閣 1999年1月
*3: ロナルドフィッシャー、エドワードガイゼルマン 「認知面接―目撃者の記憶想起を促す心理学的テクニック」 関西学院大学出版会 2012年6月
レベッカミルン 他 「取調べの心理学-事実聴取のための捜査面接法-」北大路書房 2003年8月

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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