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「何故システムモデリングが必要か」

2010.06.11 株式会社オージス総研  青木 淳

1.何故システムモデリングが必要か

 システムモデリングを一言で説明すると「システムエンジニアリングの一環として行われるモデリング」です。モデリングの種類は要求、構造、振る舞いなど多岐にわたり、表現方法も図や数式など様々です。
 また、システムエンジニアリングの分野は情報システムのみならず、業務システム、生態システム、組込みシステムなど様々な対象に対して行われます。製造業における商品開発では、機械系・電気系・ソフトウェア系など様々な分野の技術が必要となりますが、図 1に示すようにこれら分野別の検討を始める前の商品システム全体を検討する段階がシステムエンジニアリングです。


図 1 システムエンジニアリングの位置づけ


 ものづくりにおいて、システムモデリングは別段新しい試みではありません。造船や建築などの大掛かりなものづくりでは昔から組織的なシステムエンジニアリングが行われており、その中では当然様々なモデルが使われています。MBSE(Model Base System Engineering)と横文字を並べると何やら高尚で新しい感じを受けますが、私は「モデルを使わないで組織的なシステムエンジニアリングができるのか?」と思います。

 小規模なものづくりではどうなのでしょうか。一人ですべて検討できる範囲のものづくりであれば、そこにはシステムモデリングという意識は無いかもしれません。しかし、ものをつくっている以上、検討している個人の頭の中では何らかのシステムモデリングが行われているのです。制御モデルの数式など、普段モデルとして意識していないものもモデルなのです。

 このように考えると、システムモデリングは意識的にせよ無意識的にせよ行われている活動であり、今更取り上げる必要の無い分野のように思えます。なぜ今、システムモデリングが注目されているのでしょうか。

 個々の商品開発において、システムモデリングは必ず必要という訳ではありません。まったくの新商品の場合はシステムモデリングを実施しますが、既存商品の後継機種を開発する場合は既存商品のシステムモデリング結果を元に機械・電気・制御・ソフトを初めから個別に開発するケースが多くなります。

 そのため、しだいに商品開発からシステム領域の検討が消えていくことになるのです。組織的なシステムエンジニアリングの手法が確立している場合は、機械・電気・制御などの切り分けが開発プロセス中に規定されるようになり、後継機種開発では各分野に割り振られた担当者は自分の担当分野に特化していきます。小規模開発では、最初にシステムモデリングを行った時は1人で検討ができる規模だったシステムも、後継機種での機能追加により一人では対応しきれない規模となり、機械担当、電気担当、制御担当と担当が細分化されていきます。どちらの場合も、時間の経過とともに一人が担当する範囲がより狭く深く専門化していくことになり、システム全体をモデリングする能力が欠如していくのです。

 それでも市場要求や技術トレンドが大きく変化しない範囲では、分野間の多少の不整合は「すり合わせ」開発をする事により埋め合わせが可能であり、それが日本のものづくりの強みでもありました。しかし、エンジン駆動の車がモーター駆動になる、環境負荷軽減の要求が高くなり部分最適では対応し切れなくなるなど、トレンドが大きく変化する局面では「すり合わせ」では対応し切れなくなります。このような局面ではシステムモデリングが必要となるのですが、開発組織が特定の商品開発に最適化すればするほどシステムレベルの検討ができなくなっていくのです。

つまり、システムが大規模複雑化し、市場要求や技術トレンドが変化し易い現在、忘れ去れていたシステムモデリングが再び必要となってきているのです。

 このような状況の中でMBSEを実践しようとすると、ではどのモデルでシステムモデリングをするか?という問題が出てきます。機械担当は機械図面、電気担当は電気図面、制御担当はブロック線図、ソフト担当はUML・・・。共通言語が無いと話がまとまりそうにありません。そこで表 1のように様々なモデリング言語が開発されてきました。

表 1 システムモデリング言語一覧


 次回からはこれらシステムモデリング言語の中で最上位レベルのシステムモデリングに適したSysMLを中心に話を進めていきます。


*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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