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「SysMLによるシステムモデリングの実際 -システムモデリングに取り組む動機(1)-」

2016.01.20 株式会社オージス総研  時岡 優

・はじめに

システムモデリングに取り組む動機、取り組み内容、取り組み成果を、これまでの支援経験に基づき、数回にわたって紹介していきます。2015年7月23日に開催された「モデルに基づくシステムズエンジニアリング出版記念シンポジウム」での講演内容を基に紹介していく予定です。

・開発現場に生じている問題

これまでにOA・精密機器、建設機械、医療機器、航空・宇宙、自動車等の分野でシステムモデリングの支援を実施してきました。支援の動機となる問題はメーカー毎あるいはプロジェクト毎に様々です。
<複数ある方式から最適解を決めきれない>
「十分吟味したが、最後の決め手が見つからない」といった方式選択に関する問題です。複数の実現方式を比較するための観点や評価項目が明確になれば適切な方式を選択できます。しかしながら、その観点や評価項目をどのように獲得すれば良いのかが見えていません。
方式選択はシステムエンジニアリングの本懐とも言える重要な作業です。派生開発を繰り返していると、知らず知らずのうちに既成概念にとらわれ、偏った判断に陥ることがあります。また外部環境の変化などで前提が大きく変わった時に、いざその既成概念を取り払おうとしても、どのように考えてアプローチすれば良いのか分からないのです。
<怖くて制御モデルを変更できない>
引き継いだ制御モデルを十分に理解できていない開発現場が増えてきています。仕様変更や不具合対策などによる部分的な変更の繰り返しや、他機種に対する制御モデルの安易な流用などによって、制御モデルに対する本質的な理解が失われつつあります。電子制御化が広がる一方で、開発者がその制御モデルを制御しきれていないのは危険な状況です。
このような問題は制御の分野だけに留まらず、あらゆる分野で生じています。例えばメカや油圧の図面に刻まれている重要な数値の意味をスラスラと説明できる人は貴重な存在になってきています。
<仕様の漏れ、誤解釈による手戻りが減らない>
以前は仕様が多少曖昧であっても、あるいは不整合があっても、関係者同士が十分に議論して開発を進めることで品質の良いモノをつくり上げていました。しかしながら、最近は関係者同士が集まっても、核心を抑えた議論にならず、仕様の不備が後工程にすり抜けてしまっているという話を聞きます。また、自分たちが作っている製品を顧客がどのように使用しているのか把握できない開発者も出てきています。受け取った仕様の漏れに気が付かなかったり、誤解釈につながったりします。
<次世代製品のコンセプトが定まらない>
採用する技術が先に決まってから製品開発が進められることが良くあります。また競合製品とのカタログ上での比較で目標品質が定められることもあります。このようなアプローチが必ずしも悪いわけではありません。しかしながら、それらの目的や根拠が曖昧なことが多く、とくに顧客や市場が求めているものとかけ離れてしまう傾向にあります。また関係者の意見を集めたものの、落とし所が定まらないというケースもあります。市場の動向を的確に把握し、メーカーとしてどのような製品やサービスを提供していくべきなのかを判断できる力はとても重要です。
<システム全体で期待した性能が出ない>
コンポーネント単体では性能が出るが、全体を繋げたら期待した性能が出ないといったケースです。エレキとソフトが重複した機能を実装していたために、実行時間の条件を満たせなかったという例があります。またメカの仕様を覆すことができず、ソフトが苦労せざるを得なかったという話も聞きました。
<新機種のアーキテクチャ見直しに自信が持てない>
抜本的にシステムのアーキテクチャを見直したいが、既存のアーキテクチャから脱却しきれないというものです。アーキテクチャとはシステムの基本構造であり、システムに対する要求を満たすための実現方式です。その分野や製品への関わりが深く長いほど、既存のイメージを払拭するのが難しくなる傾向にあります。
上記のように、開発現場に生じている問題は多種多様です。みなさんの開発現場でもいろいろな問題が生じていないでしょうか?

これらは一見すれば全く別々の問題に思えます。しかし、いろいろなメーカーでいろいろな立場の方々と対話を繰り返すうちに、より本質的な問題が潜んでいると考えるようになりました。今回紹介したような問題は開発する製品や扱う技術が異なることによって生じる個々の問題であり、各企業が共通的に抱える問題に起因しているのです。次回、これらの本質的な問題について解説します。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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