エッジAIとは?活用事例や導入方法、メリット・デメリットを解説

AI技術の普及により、さまざまな業界でAIの導入が進んでいます。
このコラムでは、エッジAIの活用事例や導入方法についてわかりやすく解説します。

エッジAIとは

エッジAIとは、エッジコンピューティングとAIを組み合わせて作られたものです。エッジコンピューティングは、データをエッジデバイスで処理することで、通信遅延やネットワーク負荷の低減などを実現します。エッジAIは、エッジデバイス上でAIモデルを実行し、データ分析や推論を行います。これにより、データをエッジデバイスで即時に処理できることから、リアルタイムで解析や判断が求められる分野に向いており、通信手段がない(インターネットに接続されていない)機器でも、AIを搭載することができます。

それに対して、クラウドAIは、取り扱うデータが大きい、ある程度の遅延が許容される、などの条件下において採用されることが多く見られます。

エッジAIとエンドポイントAIの定義

エッジAIとエンドポイントAIのどちらも機器にAIを実装するということでは同じですが、Arm(アーム)社の定義(※)によると、エッジAIはインターネットに接続される高性能な機器でAIを実現して、エンドポイントAIはインターネットに接続しない比較的低性能な機器(例:マイコン)でAIを実現します。エンドポイントAIがインターネット接続を必要とする場合はエッジデバイスを介します。
このように、エッジAIとエンドポイントAIを区別しておくことで、製品に必要な構成が明確になります。必要となる技術や知識も異なる場合がありますので、導入検討の際は整理しておくとよいでしょう。

※IoTデバイス向けエンドポイントAI - Arm https://www.arm.com/ja/markets/iot/endpoint-ai(外部サイト)

エッジAIのメリット

1. リアルタイム応答
エッジデバイス内でデータ処理を行うため、通信処理による遅延が少なくなります。例えば、製造業の機械やロボット、音声認識や画像認識のようなリアルタイムで判断を求められる場合に利点が生きます。

2. オフラインで実行可能
エッジデバイス単体でデータ処理ができるため、クラウドへデータを送信する必要がありません。このため、ネットワークに依存せずにAIが実行可能です。

3. コストダウンの可能性
クラウドへの依存度が低いので、クラウドにデータを送信するネットワーク料金やクラウドサービスの利用料金があまり発生しません。クラウドAIと比べて、通信コストを抑えられる点で、経済的な利点があります。

4. ネットワーク経由での情報漏洩リスクの低減
エッジデバイス内でデータ処理が完結するので、個人情報や機密データが外部のネットワークを経由して送信される頻度を低く設計することが可能となります。データデバイス内で収集され、処理され、結果もデバイス内で利用されます。そのため、データがエッジデバイスから外部に漏洩するリスクが非常に低くなります。

エッジAIのデメリット

1. 物理的な制約
CPUやメモリ、などの制約により、エッジAIの性能が制限されます。そのため、複雑なAIモデルや大量のデータを処理する場合には、適していません。

2. 物理的な保守
エッジデバイスが大量に分散している場合は、アップデートの管理が困難になる可能性があります。その場合、適切な保守や管理体制などの費用や労力が必要になります。

3. ソフトウェアの保守
エッジAIはさまざまな場所に設置された機器で実現されているため、リモートでAIモデルを更新する場合は、OTAなどの仕組みが必要となります。エッジデバイス自身でモデルを更新する場合は、学習用データの保存領域の確保と、学習のための計算資源(GPUや高性能なCPU)、が必要となります。加えて、各個体がそれぞれ学習することになるため、個体差が発生することになります。

エッジAIの活用事例

1. スマートホーム
家庭内のスマートデバイス(照明、エアコン、など)に搭載され、生活習慣や嗜好を学習し、生活の質を向上させます。ロボット掃除機への音声操作など、すでに普及が進んでいます。

2. 産業用ロボット
エッジAIを搭載することで、ロボットに動作を教えるティーチングの負荷軽減、ロボットの経年変化による振る舞いの変化の検出、などの自動化が進むことで、保守と運用の負担を軽減します。

3. 監視カメラ
カメラにAIを搭載することでシステム構成がシンプルになり、可搬性に優れます。また、クラウドでAIを実現する場合に比べて応答性に優れ、通信量も削減できます。顔認証、光彩認証、などが代表的な事例となります。

4. スマート工場
カメラやセンサーを利用して、AIで欠陥を検出して製品の品質の安定化を図ります。また、機器の稼働データを利用して、生産プロセスの最適化や生産性の向上を達成します。その他にも、危険な状況を検出して工場内の安全リスクを低減するためにもAIが用いられています。

エッジAI導入のための3つのポイント

ポイント1 : 実行環境の確認
AIを搭載する機器の仕様確認は開発初期段階において重要です。理由は、機器の制約がAIモデルの選択やパラメータに大きな影響を与えるためです。具体的には、機器のROMサイズ、RAMサイズ、CPUクロック、GPUの搭載有無、の把握です。

ポイント2 : 開発環境の準備
開発環境はさまざまな環境での組み合わせで実施されるかと思います。具体的には、実行対象の機器(例:ラズパイ)では実行速度の計測に使用する、AWSなどのクラウドではモデルを開発する、など、環境ごとに何を開発・実験するのかを決めておく必要があります。クラウドで設計したモデルをラズパイで実行したら遅くて使い物になりませんでした、などの環境の違いによる問題に対処するためです。

ポイント3 : リリース後の運用
リリースした後の、運用ルールを決めておく必要があります。パラメータ更新手段や、パラメータ更新の時期、などが該当します。機器に通信機能がない場合は、SDカードで配布する、などの更新手段を検討しておいたほうがよいでしょう。

まとめ

エッジAIの活用事例や導入方法、メリット、デメリットを紹介しました。
エッジAIを最初に取り組む際には、Pythonを使って開発ができるJetsonシリーズなどの環境がおすすめです。これは、比較的クラウドに近い環境であり、GPUも利用できます。このような環境を選択することで、エッジAIの取り組みがスムーズに進められます。

また、この先NPU(Neural Processing Unit)搭載のエッジAIがリリースされた場合には、エッジAIに求められる内容も変わっていき、これまでは推論だけでよかったものが、学習についても検討が必要になります。

今後のエッジAI開発を見据えて、オージス総研では、開発のチェックポイントや必要な技術について資料にまとめましたので、ぜひダウンロードしてご活用ください。

2023年10月24日公開
2024年6月14日更新
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