複雑化する開発にMBSEを。いまこそ導入すべき3つの理由
本記事では、MBSE(Model-Based Systems Engineering)を導入すべき理由を、開発現場の課題と照らし合わせながら解説いたします。
なぜ今、MBSEが注目されているのか?
機能の複雑化と「属人化」の限界
近年、製品の機能は「機械(メカ)」「電気(エレキ)」「制御(ソフト)」の各技術が密接に連携する複合システムへと進化しています。たとえば自動車や産業機器は、機械的な構造設計に加え、ECUを中心とした電気回路設計、さらにソフトウェアによる高度な制御ロジックが一体となって機能します。
こうした高度なマルチドメイン(メカ、エレキ、ソフト)への連携が求められる中、従来の「経験」や「勘」に頼る開発スタイルは限界を迎えています。属人化した設計情報や、口頭や紙ベースでのすり合わせでは、全体の整合性を保つことが難しく、後工程での仕様不一致や設計ミスにつながります。
加えて、多拠点・多部門での共同開発が一般化する中、開発者間の共通理解の不足が、設計変更の遅れや再設計につながり、結果としてコスト増・納期遅延・品質低下を引き起こしてしまいます。
複雑化した開発においては、各領域の専門知識を一つの共通の「見える化された構造」に統合する手段が不可欠です。その解決策として、MBSEが求められています。
設計情報が残らない─ドキュメントに頼れない開発現場の限界
日本の多くの開発現場では、設計情報が体系的にドキュメント化されておらず、設計の意図や判断根拠が個々の開発者の頭の中に留まっているケースが少なくありません。
そのため、後工程の担当者や別部門が設計意図を正確に把握できず、開発途中や製品リリース直前になって仕様の齟齬が発覚する、といった問題が発生しがちです。
また、ドキュメントが存在していても、設計資料が点在していたり、更新が行き届いていなかったりするため、整合性を維持するのが難しいという課題もあります。
こうした状況では、要件変更に伴う影響範囲の把握も困難であり、設計ミスや再設計のリスクが高まります。
設計情報が形式知として共有・蓄積されないまま進行する開発体制は、属人化や品質低下、ノウハウの分断といった慢性的な課題を引き起こします。
MBSE ソリューションに関する資料のご紹介
MBSEとは?──「モデル」でつなぐ、次世代の開発手法
MBSEの基本概念
MBSEは、設計情報を文書ではなくモデルとして構築・共有することで、開発全体の一貫性と可視性を高めるシステムズエンジニアリングの手法です。
日本の現場では、設計情報がドキュメントとして残されず、担当者の頭の中にとどまったまま進む開発が少なくありません。こうした状況では、属人化や認識のズレが発生しやすく、後工程での手戻りや不具合の要因となります。
MBSEは、こうした「見えない設計」を、構造化されたモデルによって「見える設計」へと転換します。モデルは、要件・機能・構造・振る舞いといった情報を一貫性を持って表現できるため、全体最適を図りながら、関係者間の共通理解を築く基盤となります。
さらに、モデルを中心とした情報管理により、変更時の影響範囲の把握、レビューの精度向上、トレーサビリティの確保など、従来は属人的だった開発プロセスを仕組みとして支えることが可能になります。
SysMLによる共通言語化
MBSEの中核を担うのが、SysML(Systems Modeling Language)です。SysMLは、要求、構造、振る舞いといった複数の観点を、図として一貫して表現できるモデリング言語です。
例えば、要求図でシステムに対する要求やモデル要素との関係を表現し、ブロック定義図で要素感の関係を明示し、ステートマシン図やアクティビティ図で動作を可視化する──こうした体系的なモデリングにより、部門間の共通認識が格段に向上し、すり合わせの質が変わります。
MBSEを導入すべき3つの理由
① 暗黙知の形式知化と属人化の解消
従来、熟練技術者の頭の中にあった設計思想やノウハウは、属人化の温床でもありました。MBSEは、これらの「暗黙知」をモデルとして形式知化することで、組織にナレッジを蓄積・継承することができます。
設計意図や要件の背景をモデルで共有すれば、若手技術者の教育にも有効であり、ベテラン退職による技術のブラックボックス化リスクを抑制します。
② すり合わせの前倒しと手戻り削減
MBSEでは、「機械(メカ)」「電気(エレキ)」「制御(ソフト)」といった異なるドメインの要素を1つのモデル上で整合させることができます。これにより、実機を使った"現物合わせ"の前に、モデルによる事前検証で問題の芽を摘むことができます。要件変更や設計ミスも早期に発見できるため、手戻りが減り、開発の納期遅延やコスト超過のリスクを大きく軽減します。
③ 品質向上と開発プロセスの見える化
モデルによって、要件から設計・実装・検証までのトレーサビリティ(追跡可能性)が確保されます。これにより、不具合の原因特定が容易になり、再発防止やレビューの精度向上にもつながります。
さらに、開発プロセス自体がモデルで「見える化」されるため、開発の透明性と品質を同時に向上させることが可能です。
MBSE ソリューションに関する資料のご紹介
MBSE導入のハードルと、成功に導くポイント
導入時の課題とは
- MBSEを導入する際の主なハードルには、以下のようなものがあります。
- モデリングスキルの習得(SysMLに不慣れな開発者も多い)
- 教育やツール整備にかかる初期コスト
- 従来の開発スタイルからの意識改革 特にSysMLは、図の意味や構造を理解するのに一定の学習コストがかかります。導入を成功させるためには、組織として段階的にスキルと体制を整える必要があります。
導入を成功させる3つのステップ
- MBSEを理解し、モデリング言語を扱える人材を育成する
関係者全員がMBSEの重要性を理解し、一丸となって取り入れることが重要です。また、SysMLなどのモデリング言語を扱える人材を育成していく必要があります。 - パイロットプロジェクトで小さく始める
最初から全社展開を目指すのではなく、1つのプロジェクトやサブシステムで試行導入することで、成功体験とノウハウを蓄積していきます。 - モデル活用のルールと役割を明確にする
モデルの粒度や作成タイミング、レビュー方法など、共通ルールを設けることで属人化を防ぎ、プロジェクト全体でのモデル活用が進みます。
機能の複雑化で混沌とした開発現場にこそ、MBSEという解決策を
MBSEは単なる設計手法ではありません。機能の高機能化・複雑化にともなう開発現場が抱える課題を解決する仕組みです。
慢性的な属人化、すり合わせ不足による手戻り、品質問題──こうした根深い課題に対して、MBSEは本質的な解決策を提供します。いまこそ、開発のあり方そのものを見直す契機として、MBSEの導入を検討してはいかがでしょうか。
オージス総研のMBSEソリューション
- オージス総研では、現場に寄り添ったMBSE導入を支援しています。
- モデルを通じた"すり合わせ開発"の実現を支援
- 経験豊富なコンサルタントが現場コーチとして参加
- カスタマイズ可能なSysML研修による技術者育成
開発現場の流儀を尊重しつつ、MBSEによるすり合わせ開発を実践できるように支援いたします。
MBSE ソリューションに関する資料のご紹介
2025年7月8日公開
※この記事に掲載されている内容、および製品仕様、所属情報(会社名・部署名)は公開当時のものです。予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。関連サービス
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