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「「イノベーションを起こすプロセスとは」 ~ ITCAイノベーション経営プロセスガイドラインの紹介 ~ 」

2015.02.11 株式会社オージス総研  林 公恵

■はじめに

ITコーディネータ協会(ITCA)から、イノベーションを起こす経営のあり方について、基本姿勢とプロセスの面から解説した「プロセスで解き明かすイノベーション(イノベーション経営プロセスガイドライン)[1]」が、2014年5月20日に発行されました。
本稿では、この「イノベーション経営プロセスガイドライン(IPGL))」について紹介します。

■IPGLで取り扱う「イノベーション」

イノベーションという言葉は、ヨーゼフ・シュンペーターの「経済発展の理論」(1912)で、「物事の「新結合」「新機軸」「新しい切り口」「新しい活用方法(を創造する行為)」」と初めて定義されました。ITCAでは、時代の変化を踏まえて、イノベーションを「社会実態や環境の変化を洞察し、多様な分野とITを融合させ、新しい概念や技術・プロセスを生み出し、市場・事業・サービス・組織等を創出することにより、社会や顧客に新しい価値を提供すること。」と定義しており、IPGLでもこの定義を使っています。

また、ITCAではイノベーションを「科学技術イノベーション(技術革新)」「ビジネス・イノベーション」「ソーシャルイノベーション(社内的な問題への解決法)」の3つに類型化しており、IPGLでは主にビジネス・イノベーションを取り扱っています。
ビジネス・イノベーションとは、プロダクト・イノベーション(製品・商品・サービス開発)、プロセス・イノベーション(業務プロセス改革)、ビジネスモデル・イノベーション(ビジネスモデル改革)、イシ・イノベーション(意識改革・経営改革・組織改革)の4つです。
「イシ・イノベーション」は聞きなれない言葉ですが、従来、組織改革等として扱われてきた内容です。IPGLでは、「人の意識に関わる知」がイノベーションを起こす必要不可欠な要因であるとして「イシ・イノベーション」として取り上げました。経営者の高い意識や従業員全員の不断の改善改革意識、リーダーシップや柔軟でイノベーティブな組織風土などが該当します。

「イシ・イノベーションとイノベーションの関係」
図1.イシ・イノベーションとイノベーションの関係(IPGL[1]より引用)

では、企業がイノベーションを起こすための「イノベーション経営プロセスモデル」を見ていきましょう。

■イノベーション経営プロセスモデルの概要

イノベーション経営プロセスモデルは、図2のとおり「イノベーション認識プロセス」「イノベーション実現プロセス」「イノベーション環境・体質構築プロセス」の3つのレイアから構成されています。
「イノベーション認識プロセス」は、イノベーション活動において経営者が企業全体のイノベーションの方向性を示し、イノベーションに関する活動をマネジメントし、その成果を持続的に生かし、さらにスパイラル・アップさせるプロセスです。経営者がイノベーションを経営の持続的成長に生かすプロセスと個々のイノベーション・プロジェクトをマネジメントするプロセスがあります。経営者として行動するレイアです。
「イノベーション実現プロセス」は、イノベーションを起こして事業化するプロセスで、イノベーションを起こす個人・チームが行動するレイアです。後ほど内容を見ていきます
「イノベーション環境・体質構築プロセス」は、組織がイノベーションを持続的に実現させるための環境・体質を構築するためのプロセスです。イノベーション経営の基盤と位置付けられ、イノベーション認識プロセスとの強い関係を持つ組織のレイアです。

「イノベーション経営プロセスモデル」
図2.イノベーション経営プロセスモデル(IPGL[1]より引用)

また、イノベーション経営プロセスモデルは、「基本原則(基本姿勢)」と「プロセス(実行基準)」から構成されています。
「基本原則」はイノベーションを起こす時の価値基準であり、「基本姿勢」は各フェーズにおける具体的な基準です。なお、基本原則と基本姿勢の紹介については本稿では割愛します。

では次に「イノベーション実現プロセス」について見ていきます。

■イノベーション実現プロセスの概要

イノベーション実現プロセスは、図3に示すように、アイデアから顧客価値を生み出し、イノベーションを起こすプロセス(価値創出プロセス)とイノベーションの方向性の確認を踏まえ、これを事業化するプロセスの2つで構成されています。
価値創出プロセスは、アイデアの種を具体的なイメージにまとめてビジネスとして構築するため、必要に応じてフェーズの行き来があります。

「イノベーション実現プロセスの全体像」
図3.イノベーション実現プロセスの全体像(IPGL[1]より引用)

イノベーション実現プロセスの各フェーズは以下のとおりです。

>>イノベーションの姿勢と方向性の確認フェーズ
価値創出プロセスをより効果的に推進するために個人・チームの立ち位置を確認し、イノベーションをどのように検討・実現するかの方向付けをするフェーズ
>>価値創出プロセス
アイデアに価値を与え事業化につなげるためのプロセスで、イノベーションのエンジン部分
>>価値発見フェーズ
イノベーションアイデアを生み出すフェーズ
>>価値設計フェーズ
イノベーションアイデアをもとに顧客価値を設計し、その実現のためのイノベーション(プロダクト/プロセス/ビジネスモデル/組織・人財)の実現方法を具体化するフェーズ
>>価値実証フェーズ
価値設計フェーズで論理的に組み上げたビジネスモデルを部分的に実環境で検証するフェーズ
>>価値実現フェーズ
実際にイノベーションを事業化し軌道に乗せるフェーズ

■価値創出プロセスについて

価値創出プロセスを構成している3つのフェーズの主要なアクティビティと創出する知(アウトプット)は表1のとおりです。

表1.価値創出プロセスの主要なアクティビティと創出する知(アウトプット)
価値創出プロセスの主要なアクティビティと創出する知(アウトプット)

この価値創出プロセスを別のプロセスモデルと比較してみます。

IT融合人材育成連絡会[2]の最終報告書「IT融合による価値創造に向けて ~IT融合人材の育成と組織の能力の向上~」の中に、連絡会で設定した「価値創造プロセス」とメタフレームワークの対比として、イノベーション経営プロセスモデル(図4)とデザイン思考(図5)が取り上げられています。

「価値創造プロセスとイノベーション経営プロセスモデルの対比」
図4.価値創造プロセスとイノベーション経営プロセスモデルの対比([2]p66より引用)

「価値創造プロセスとデザイン思考モデルの対比」
図5.価値創造プロセスとデザイン思考モデルの対比(IPGL[2]p6より引用)

連絡会では図4と図5より、価値発見フェーズはDefine:問題定義、価値設計フェーズはIdeate:創造、価値実証フェーズはPrototype:プロトタイプ・Test:テストにおおよそ対応すると考えられています。

また、筆者が価値創出プロセスについてアクティビティをベースに「THIS IS SERVICE DESIGN THINKING」[3] のサービスデザインのプロセスと、「d.school」[4]のデザイン思考の5ステップとの対応付けをしてみたものが表2です。

表2.サービスデザインプロセス・デザイン思考との対応付け
サービスデザインプロセス・デザイン思考との対応付け

この対応付けを見ると、実際にイノベーションを事業化し軌道に乗せるフェーズである価値実証フェーズは、サービスデザインのプロセスやデザイン思考のステップに対応するものがないものの、価値発見フェーズと価値設計フェーズは、ほぼ対応することが分かります。
IPGLではアイデアを創出するツールについてはあまり触れられていませんので、サービスデザインやデザイン思考で用いるツールを活用して進めていくのが有用でしょう。サービスデザインやデザイン思考で用いるツールについては、Webマガジン「UXから「サービスデザイン」へ その6 顧客経験価値を実装する」の中で、「表1 サービスデザイン/デザイン思考で用いるツール」としてまとめられていますので、そちらを参考にしてください。

なお、表2は、図4・図5からの対応付けとは若干違うものになりましたが、それはまだデザイン思考やサービスデザインが発展途上の領域でいろいろな捉え方があるためと考えています。

■さいごに

本稿では、主に価値創出プロセスについてプロセス・アクティビティを見てきました。そのほかにも、IPGLでは、イノベーティブ人財の育成や活用、イノベーティブ組織環境の構築、意識改革など、組織という観点でもプロセスが解説されています。今まであまり取り上げられてきませんでしたので、ご興味のある方はご一読されてはいかがでしょうか。

[参考資料]

[1]「プロセスで解き明かすイノベーション(イノベーション経営プロセスガイドライン)」,特定非営利活動法人ITコーディネータ協会監修,日経BP社、2014.5
[2]IT融合人材育成連絡会は独立行政法人情報処理推進機構(IPA)とITCAが、2013年5月に関連学会、業界団体、大手企業に共同で呼びかけを行い、有識者の参加を得て立ち上げられました。
[3]「THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics - Tools - Cases - 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計」, マーク・スティックドーン, ヤコブ・シュナイダー (著), 長谷川敦士, 武山政直, 渡邉康太郎, 郷司陽子 (翻訳)」, ビー・エヌ・エヌ新社, 2013.7
[4]スタンフォード大学デザインスクール(「d.school(Institute of Design at Stanford)」)

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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