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「サービスデザイン思考―顧客の真の要望(インサイト)―」

2015.07.21 株式会社オージス総研  竹政 昭利

1.はじめに

顧客に受け入れられる商品やサービスを作るには、まず顧客の課題や要望を明らかにする必要があります。そしてその課題や要望に対応した適切なアイディアを考え、実現していきます。
今回は、サービスデザイン思考において、顧客の課題や要望を明らかにする意義について考えていきたいと思います。

2.顧客ニーズに対する企業の対応の変遷

商品やサービスが希少ならば、極端に言えば顧客の要望を全く聞かなくても、商品やサービスは瞬く間に売れていきます。
フォード・モーター社を例にあげます。1908年に製造・販売を開始した自動車、T型フォードは、黒一色しかありませんでした。顧客に製品のバリエーションを選ぶ選択肢はなかったわけですが、製品を1種類一色にしぼることで、量産化を可能にし、多くの製品を安く提供できるようにしました。その結果1927年まで基本的なモデルチェンジを行わないまま、1,500万台以上生産されました。これを凌いだのは、唯一フォルクスワーゲン・タイプ1だけです。※1
しかし、多くの企業が同じような商品やサービスを提供しはじめると顧客はおのおの自分の好みにあった商品やサービスを求めはじめます。そのため企業は、顧客の要望が何かを知る必要が出てきました。そして要望に応えていると思われるサービスもあります。
例えばDELLのパソコンでは、顧客がWEBで部品を選択し、自分の好みにあった1台を作り上げて購入することができます。
顧客には多くの選択肢が与えられ膨大な組み合わせが実現可能です。それでも、顧客が選べるのはあくまでも企業側が用意した選択肢の中からです。その選択肢だけで顧客が求めていることが満たされているのでしょうか?
そして、そもそも顧客が求めているのが、どのような商品やサービスなのかを知る手段はあるのでしょうか?
アンケートや簡単なヒアリングでなら、知ることが出来るでしょうか?
かつてインターネットが存在しなかった頃は、多数人に対してアンケートをとるのは、時間と手間がかかりました。そのため、どの企業でもアンケートを実施できたわけではありませんでした。アンケートを実施できた一部の企業は、顧客の要望を具体的に知ることができ、その要望に対応する製品やサービスを作ることができました。
一方、インターネットが普及した現在においては、多くの企業がメールやWEBを利用して、幅広くアンケートを実施し、そこから顧客の要望を数多く取得することが可能になりました。
それでもアンケートは、顧客が"自覚している"要望を書くわけですから、同じような問いかけのアンケートならば同じような答えが返ってきます。競合他社同士同じようなアンケートをとっていれば、そこからすくいあげている要望も似たり寄ったりです。企業はその要望にそった商品やサービスを作ろうとしますので、顧客の要望が同じならば、同じような商品やサービスが市場にあふれることになります。顧客は同種の商品やサービスを比較検討することができますが、違いがないので最終的には価格で選ぶことになります。
せっかく顧客の声を聞いて、新しい製品やサービスを作ったのに、瞬く間にコモディティ化してしまう悲劇がおこります。
こうなると企業はどのような製品やサービスをつくったら良いのかわからなくなってしまいます。

3.顧客の真の要望(インサイト)

iPhoneやiPadは、大変人気ですが、顧客にアンケートをとったという話は聞きません。あれは顧客からiPhoneやiPadのようなものを作ってくれという要望があって作られたものではないのです。
iPhoneやiPadがでたばかりのころ、まだ実物に触れる前スペックだけを見て、たいしたことない、パソコンと変わらないので必要ない、と思っていた人がいるかもしれません。でも、実際にiPhoneやiPadを手にして使ってみると、まさにこれが自分が欲しかったものだと気が付いたりします。
そう、顧客は自分自身の要望を必ずしも自分で分かっているわけではないのです。
顧客が望んではいるものの、顧客自身気が付いていない真の要望をインサイト(洞察)と呼びます。この顧客の真の要望(インサイト)を捉えることが出来て初めて、適切な商品やサービスを提供することができます。
サービスデザイン思考では、DISCOVER、DEFINE、DEVELOP、DELIVERの4つステップを通して、顧客が求める商品やサービスを考え出します。その最初のDISCOVERのステップでは、顧客の真の要望(インサイト)を真っ先に捉える必要があります。DISCOVERのステップでは主に次のような手法で顧客の真の要望(インサイト)を捉えます。
ただDISCOVERのステップで得られた顧客の真の要望(インサイト)はあくまでも仮説にすぎません。顧客の真の要望(仮説)を前提にしたアイディアをDEFINEのステップで出していきますが、この段階では顧客はアイディアを実際に聞いてもまだピンと来ないかもしれません。顧客は、iPhoneやiPadを実際に手にして、使ってみて初めて良いと感じるのです。
しかし、この仮説だけで、実際にiPhoneやiPadなどの商品、サービスを作り上げてしまうのは、少々リスクがあります。仮説ですから、必ずしも正解ではありません。正解でない場合は、仮説を繰り返し立て直し試行錯誤しないとならないのです。
そこで、大掛かりに時間とお金をかけて製品やサービスを作る前に、DEVELOPのステップでアイディアをプロトタイプやアクティングアウト(寸劇)で何らかの形にして、すぐに試してみます。試してみることで、顧客の要望が実現されているかを顧客自身が感じることができます。

4.まとめ

今は不確実性が高く、顧客自身、自分の要望を理解していない時代です。
顧客の真の要望(インサイト)を捉えることが出来なければ、いくら良いアイディアを出しても、顧客に満足して頂ける製品やサービスを実現することができません。
つまり、顧客の真の要望(インサイト)を捉えることが、サービスデザイン思考の最初の重要な課題になります。
※1 フォード・モデルThttp://ja.wikipedia.org/wiki/フォード・モデルT

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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