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「サービスデザイン思考 ― 最初の一歩を後押しするヒント ―」

2016.06.29 株式会社オージス総研  仙波 真二

近年、「新しい製品やサービスのアイデアを考えたい」というお問い合わせをお客様からいただくことが多くなってきました。お客さまを訪問して、サービスデザイン思考のお話をすると、次の3つのことをよく聞かれます。「1.実施する価値があるのか?」「2.うまくいくのか?」「3.どのように実施するのか?」。そして次のステップとして「4.どのように継続するのか?」という課題が出てきます。

このような質問を受けた際、自分の経験をもとに説明したうえで、「実際に体験することが重要なのでまずはやってみましょう!」とお客様にご提案します。しかし、最初のアクションまでのハードルが高いのも現実です。そのような時に、Service Design Network Conference 2016 *1) での ジェイミン・ヘジマン(Adaptive Path)とカトリーヌ・ラウ(GE)の講演内容が、お客様の背中を押してくれるのではないかと期待します。以下、講演内容を引用しながら、この4点について記述いたします。

1. 実施する価値があるのか?

サービスデザイン思考は、実際に体験することが重要ということを前述しましたが、ジェイミン・ヘジマンもワークショップを行って価値を体感してもらっているようです。
食べたことがない物の味を聞いてその味を理解できないのと同様に、説明を聞いて頭で理解できるものではないということは言うまでもないですね。

2. うまくいくのか?

「先が読めない不明瞭な状況でパーフェクトなソリューションは必ずしもできるものではない」というカトリーヌ・ラウの発言からわかるように「うまくいくのか?」という問い自体が愚問なのかもしれません。つまり、不確定要素が多い社会状況であるからこそ新たなチャレンジをする必要があり、サービスデザイン思考は成功の確率を高めるためのアプローチであって、成功を保証するものではないということですね。

3. どのように実施するのか?

「ステークホルダーをチームに巻き込んで共創する」というのが両者に共通するキーでした。そして「組織と戦わない」というカトリーヌ・ラウの言葉が印象的でした。ここでいう「ステークホルダー」や「組織」は現場で業務を担当する人やサービスのオーナー側の人を指し、「チーム」はサービスデザインを推進する側を指します。

サービスデザインを共通言語として使用することで共創するメンバー間の意思疎通を図ることができ、サービスを素早く可視化することでゴールを明確にすることができる、などの利点については言うまでもないというニュアンスを感じました。プロセスや手法はオーソドックスなものを用いているので、それ自体に価値があるわけでなく、どのようにファシリテートしていくかというセンスや経験が重要なのだと思います。

4. どのように継続するのか?

ジェイミン・ヘジマンによると、ワークショップを実施するとステークホルダーの人たちは価値を実感してもらえるが、すぐに以前のやり方に戻ってしまうそうです。そこで、前述の「チームに巻き込んで共創する」という取り組みを1,2か月かけて行うそうです。また、「サービスを包括的に見ることができる責任者(SXO:サービスエクスペリエンスオフィサー)を置く」ということを提案していました。

カトリーヌ・ラウは「ステークホルダーをデザイナーにしていく」ということで、ステークホルダー側にサービスデザインを推進する人、サービスを設計できる人を増やしていくことの重要性を語っていました。

最後に

今回のコラムは、「サービスデザイン思考に対してある程度好感をもってはいるものの、いざ着手しようとするとあと一歩がでない」というお客様を想定して記述しました。一方、「これまでのやり方を変えたくない」という現場担当者からの反発や、「やってうまくいかなかったら誰が責任をとるの?」というサービスオーナーからの反発もあります。また、実際にお客様と会話していると「自分たちの所属だけでやりたい」という声もよく聞きます。そういう場に直面した際にも、ジェイミン・ヘジマンやカトリーヌ・ラウの発言が解決のヒントになるのではないでしょうか。

(参考文献)

*1)Service Design Japan Conference 2016
https://www.service-design-network.org/chapters/sdn-japan/events/service-design-national-conference-japan-2016

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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