先月(7月)、経産省の方が基調講演の中で、「スマートグリッドは、数年のうちにステップを踏みながら普及していくと考えられます。」と述べられていました。そこで私は、やはり成熟度モデルのような段階的なモデルが必要であると確信いたしました。 1.スマートグリッド社会成熟度の基本的な考え方 それでは、まず、基本的な考え方から述べたいと思います。スマートグリッドをシステムとして捉えると、ハードウェア、ソフトウェア、(ハードソフトの)運用、ユーザインタフェイスからなると考えることができます。これにユーザ自身を含めたの5つを(SGMMのAreaに対応する)視点と呼ぶことにします。そして「需要サイドが重要」ということを考慮に入れて評価項目を設定しました。 このシステムの5つの視点を検討した結果、具体的な視点は下記になりました。 表1.5つの視点
1.1.分散型電源/熱源 スマートグリッドの重要なハードウェア要素に分散型電源及び熱源があります。太陽光発電、高効率給湯機及び蓄電池を想定しており、一戸建てあるいはマンションの敷地内に設置されます。太陽光発電は、マンション各戸に取り付けるのは難しいため一戸建てを対象としました。高効率給湯機として潜熱回収型給湯器(たとえばエコジョ―ズ)、CO2冷媒ヒートポンプ(エコキュート)、ガスエンジン給湯器(エコウィル)、及び燃料電池(エネファーム)を対象としました。発展途上である燃料電池は、高効率給湯機に分類されていないかもしれませんが、将来的に含まれると思います。蓄電池は、プラグインハイブリッド(PHEV)、電気自動車(EV)、定置用蓄電池を対象としています。 1.2.HEMS スマートグリッドのソフトウェア面の評価としてHEMS(Home Energy Management System)を対象としました。ハードウェア要素どおしで発電及び蓄電を簡単に制御でき、情報家電(エアコン、洗濯乾燥機、冷蔵庫が中心)の設定を優先順位などで制御できるものです。 もう一つのHEMSの重要な役割は(停電時)自立運転であると考えています。日本は、極めて停電時間が短いですが、災害時などに自立運転は大きな働きをします。太陽光発電の場合は、現在でも停電時に専用のコンセントに使用したい電気製品を差し込めば、発電している分の電気を使うことができます。分散型電源をHEMSと連動してうまく最低限の電源を賄うことができればよいと考えています。 1.3.地産地消 スマートグリッドの運用面からの評価として、電力自給率と熱融通世帯普及率を対象としました。電力自給率は、対象地域での電力の自給率割合で、一戸建て住宅を対象としました。時間帯別電気料金制度が導入され蓄電池が普及すると、うまくいけば電力の平準化も期待できます。これについては、後の号で解説します。世帯間の熱融通は集合住宅で普及することを想定しており[1]、温水使用の平準化が期待されます。これらの内容は、スマートグリッドの分野で地産地消と呼ばれています。 [1]「新しいマンションコージェネシステムの開発」大阪ガスホームページ、2009年6月 1.4.見える化 スマートグリッドのユーザインタフェイスとして、自宅のエネルギー消費量とエリア情報の見える化を対象としました。 1.5.住民の理解 ここでいうユーザとは、住民であり、スマートグリッド成功のカギとなるのが住民の理解です。住民に対する啓蒙の主催者は、エネルギー事業者、スマートグリッド推進者、自治体、自治会などが想定されます。満足度は、経済性、利便性、快適性などに関し、アンケートのような手段で調査をおこないます。 表2.スマートグリッド社会成熟度モデルの概要
2.スマートグリッド社会成熟度モデルの定義 前述の5つの視点からの評価項目を2項目ずつ選び出して合計10項目とし、SGMMと同じくレベル1~5に分け、達成すべき内容を定義しました。表2にスマートグリッド社会成熟度モデルの概要を示します。ここでは、SGMMと要点レベルでは、なるべく水準が合うように設定しました。 2.1.分散型電源/熱源 分散型電源及び熱源の評価基準は、環境省が公表した温暖化対策中長期ロードマップ試案[2]を参考に定めました。それによると、高効率給湯器が全世帯の80%、太陽光発電1300万世帯(一戸建て世帯の約50%に相当)を目指していますが非常に高い目標であるので、この普及率を最高レベル5としました。また、このうち潜熱回収型給湯器は、50%の普及率を目指しています。 レベル1は現状を考慮して目標値を設定、レベル2~5は等配分しました。 [2]「温暖化対策中長期ロードマップ試案」環境省ホームページ、2010年2月 2.2.地産地消 (1)電力自給率 電力自給率=Σ分散型電源(効率目標×普及率) で求めます。 - 現在の太陽光発電の各世帯電力自給率は55%、今後の2倍近い効率向上で効率目標は100%。
- 過去の燃料電池実証実験での電力自給率は約30%、発電効率の向上及び蓄電池の効果により、効率目標は70%。
- CO2冷媒ヒートポンプ使用の場合、電気使用量が33%増えると仮定。
- レベル2~5で、燃料電池とCO2冷媒ヒートポンプの普及率を同じとして計算しました。
- [※]小宮山宏先生の著書「低炭素社会」(GS幻冬舎新書)の中で「『エコキュート』と『エネファーム』。私はこの二つの製品が、世界の家庭にお湯を供給する基本の装置に今後なっていくと思っています。」と述べられています。
(2)熱融通世帯普及率 熱エネルギーはエネルギー量からみて非常に重要ですが、伝熱ロスや配管などの設備、料金の設定方法に課題があるため、レベル5で30%以上としました。 2.3.住民の理解 住民の満足度は、レベル3で50%に設定しました。 2.4.各レベルの概要 おもに2.1~2.2節の内容以外について説明します。 (1)レベル1 現在の取り組みの延長線上にあります。ただし、数値的に温暖化対策中長期ロードマップ試案は非常に高いため、太陽光発電の代わりに他の再生可能エネルギーにより目標を達成してもよいのです。例えば、日本には、すぐれた小型風力発電機[3]があります。 [3] ゼファー小型風力発電機 (2)レベル2 住民に対する啓蒙活動は重要であるため、レベル2でインターネットを含め何らかの方法で始まっている必要があると考えています。また、この啓蒙活動の結果が活かされるように、例えば15分~30分間隔で、電気(ガス、水道)使用量関連の内容が見られ、それを基に省エネ行動ができることが必要です。 (3)レベル3 レベル3では、低炭素社会のカギとなる内容が現れます。 - まず、前提条件として電力の時間帯別料金が設定されていることです。時間帯によって料金が違うと、高い時は系統電力はなるべく使わず、分散電源/熱源を効率よく使い、優先順位の高い情報家電だけを使います。安い時は優先順位の低い情報家電も稼働させ、また電気を貯める方向に消費行動が動くことになります。時間帯別料金は、シーズンオフピーク、オンピーク料金、逼迫時料金、逼迫時払い戻し金、昼間/夜間/深夜料金などがあります。
- 情報・アドバイス提供サービスが実施されていることが必要です。内容は、自宅の電気使用量が類似家庭と比べられる[4]、対象地域の平均的な使用量がわかる、天候や電力需要量など予測も含めてエリア情報が見られる。各家庭に合ったアドバイスが受けられるなどです。
- 情報家電の時間設定や優先順位の設定が可能なことです。例えば、洗濯乾燥機の稼動や冷蔵庫の霜取りの優先順位を下げる、冷蔵庫やエアコンの温度設定を上げるなどの機能が備わっていることです。
- 省エネ及びコスト削減が実行できるように蓄電池及び情報家電が普及していることです。定置用蓄電池は高価で場所も占有することからPHEVや電気自動車が家庭用蓄電池としても期待されています。また、蓄電容量が大きいため、エネルギーに対する影響度合いも大きくなります。(例:日産リーフ:24kWh、三菱MiEV:16kWh)
(4)レベル4 系統電力が逼迫した時に、自動あるいは手動で情報家電のコントロール(デマンドレスポンス)ができ、停電時、家庭内の分散型電源で最低限の電力が賄えることです。学習制御中心の制御系HEMS、見える化による表示系HEMS及びデマンドレスポンスがうまく連動して、効果的なエネルギーの使い方ができるようになります。 また、住民が省エネに関して、話し合う場(公民館、SNSなど)が提供されていることが必要になります。 (5)レベル5 レベル1~4について、さらに定量的、定性的な向上が図られていることが必要です。 住宅については、上記のほか断熱効果を高くするなどの手段でも、省エネが計れます。これらは、住民に対する啓蒙で促進されると期待しています。
そろそろ読んでおられる方々もお疲れだと思いますので、この続きは次号以降で行います。
以上の内容は、下記の文献をもとにやさしく解説しました。 (参考文献) 乾昌弘、宗平順己「低炭素社会をめざしたスマートグリッド社会成熟度モデル」経営情報学会2010年春季全国研究発表大会、2010年6月 執筆者略歴 乾昌弘 技術士(情報工学部門) 株式会社オージス総研 技術部 部長補佐 1979年:京都大学工学部精密工学科卒業 1981年:東京大学大学院工学系研究科修士課程修了 1981年:大阪ガス入社 1991年:オージス総研出向 2003年:財団法人エネルギー総合工学研究所出向 2006年より現職
*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。 |