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「スマートグリッド社会成熟度モデル(1)」

2010.07.08 株式会社オージス総研  乾 昌弘

1.スマートグリッドとは、

 最近、スマートグリッドという言葉が注目を浴びています。直訳すれば「洗練された電力網」になると思いますが、文献[1]によれば、「スマートグリッドとは、対象となる地域や目的により様々な概念を持つが、概ね『従来からの集中型電源(火力、原子力、水力など)と送電系統との一体運用に加え、情報通信技術の活用により、太陽光発電等の分散型電源や需要家の情報を統合・活用して、高効率、高品質、高信頼度の電力供給システムの実現を目指すもの』を指すと考えられる。」と記述されています。
 エネルギーとITとの融合が計られ、将来的に多くのSEがこの分野で必要になると予測する人もいるくらいです。例えば、一軒の家庭でも現在と比べものにならないほどのデータが計測され処理されます。従って、多くの機能や大量のデータ処理/蓄積が必要となり、SOAやクラウドコンピューティングといった技術が用いられるようになると考えられます。 ただし、IT分野と異なりエネルギー分野では、目標やロードマップの到達時期を2020年、2030年、2050年においている場合が多いのです。要するに長期に渡って辛抱強く実施していくことが必要なのです。
[1]「低炭素電力供給システムの構築に向けて(総論)」低炭素電力供給システムに関する研究会報告書、2009年5月

2.米国と日本の取り組みの特色

(1) 共通点

 ではスマートグリッドに対する日米の取り組み状況は、どうなっているのでしょうか?まず、共通の目的は、石油の海外、特に中東依存から脱却です。それから、世界共通の目的である地球温暖化防止です。ちなみに日本は、2007年時点で石油由来の電力が13%、石炭由来の電力が25%つくられています。また、石油の中東依存は極端に多いのです。

(2)違う点

 米国は、電力の自由化が進み多くの企業が参入したため、長期投資を怠り電力系統が不安定です。事故による停電時間は日本の約10倍、つまり桁違いに大きいと言われています。ニューヨークの大停電を思い起こされた方も多いのではないでしょうか。従って、電力系統の安定化と信頼性の向上が大きな目標となっています。また、スマートメータ[※]が普及することによる料金不払い防止が期待されています。余談ですが、ヨーロッパや発展途上国では、盗電防止も期待されています。
 一方日本では、9電力(沖縄を入れて10社)会社しかなく、電力系統は安定しており「スマートグリッドは既に実現されている。」という意見すらあるくらいです。ねらいは、需要サイドの分散型電源(太陽光発電、電気自動車、燃料電池など)の普及と海外も含めたビジネス展開です。
 従ってIT分野では米国の後追いが目立ちますが、スマートグリッドの分野では日本独自のアプローチが必要になるかもしれません。
[※]スマートメータ:通信機能により刻々と使用量をセンターに送る。また、センターから電力を停止することもできる。

表1.日米のスマートグリッドに対する対応の違い
日米のスマートグリッドに対する対応の違い

3.Smart Grid Maturity Model

 スマートグリッドに関して雑誌などで取り上げられているだけでなく、日本国内でも多くの課題抽出や標準化議論、実証実験がされていますが、まだ必ずしも将来的な姿を明確にしているとは言い難い段階であると、私は考えています。
 そこで、将来の姿を段階的に明らかにするために、スマートグリッドに関する成熟度モデルのようなものができないかの検討を始めました。また、これと並行して調査したところ、米国カーネギーメロン大学のSEI(System Engineering Institute)が、Smart Grid Maturity Model(以下SGMMと略す)を発表していました。主にスマートグリッドを運用する事業者(ユーティリティ企業)が達成すべき内容が記述されています。詳細は“Smart Grid Maturity Model”, Software Engineering Institute, Carnegie Mellon Univ., July 2009を参照して下さい。
 しかしながら、スマートグリッドを実現するためには、事業者側だけでなく、社会としてどのような取り組みが必要かという観点からも、整理する必要があると思います。ここでは、来るべき低炭素社会に向け、客観的にどのような目標に向かって実現して行けばよいかのステップを示すために、日本独自の目標も含め、低炭素社会をめざした「スマートグリッド社会成熟度モデル」の作成を行いました。

4.スマートグリッド社会成熟度モデルの対象地域の絞り込み

 先程述べましたように日本は米国と事情が異なり、需要サイドでスマートグリッド化することが重要となります。需要サイドの状況は、平成22年4月より施行された省エネ法の改正により、工場やフランチャイズ店を含む店舗に対しては、規制が厳しくなりました。一方、家庭部門に関しては、エネルギー消費量が年々増加傾向にあるにもかかわらず、特に規制がなく、エコポイントなどを付与して省エネを促進しているというのが実態です。従って、特に住宅地域を対象にして目標とする内容の検討を行いました。

表2.モデリング対象の絞り込み
モデリング対象の絞り込み

 この続きは次号以降で行います。

 (参考文献)
乾昌弘、宗平順己「低炭素社会をめざしたスマートグリッド社会成熟度モデル」経営情報学会2010年春季全国研究発表大会、2010年6月

 執筆者略歴
乾昌弘 技術士(情報工学部門)
株式会社オージス総研 技術部 部長補佐
1979年:京都大学工学部精密工学科卒業
1981年:東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
1981年:大阪ガス入社
1991年:オージス総研出向
2003年:財団法人エネルギー総合工学研究所出向
2006年より現職

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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