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「「続」スマートグリッド社会成熟度モデル(第2回)」

2011.04.07 株式会社オージス総研  乾 昌弘

 この度の東北地方太平洋沖地震にて亡くなられた方々に対し、深く追悼の意を表しますとともに、被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。 被災地の皆様の安全と、一刻も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。

1.スマートコミュニティのねらいとスマートグリッド社会成熟度モデル

 では前号に引き続き、「新エネルギーセミナーin大阪」の内容を紹介したいと思います。パネルディスカッション[1]で、パネリストの経産省の方がスマートコミュニティのねらいを4つ挙げられました。個人的な意見と前置きされましたが、ポイントは以下のようです。

(1) 再生可能エネルギー導入コストの低減。
 再生可能エネルギーを導入すれば、時間的な変動が大きいため大量の蓄電池が必要になるなど、高コストになるため、コストを下げる必要がある。
(2)快適な生活
 電気が余っている時は洗濯機を回すなどエネルギーをうまく使い、電気料金・ガス料金を変動させて有効に利用する。
(3)新たなマーケットの創出
 電気、ガス、水道を総合的に管理して、安心サービスや広告サービスなどの新たなマーケットの創出をする。
(4)海外マーケットの創出
 日本でノウハウを蓄えて、輸出する。

 これをスマートグリッド社会成熟度モデルに当てはめてみましょう。「スマートグリッド社会成熟度モデル(2)」8月号にモデルの概要が載っています。[2][3]

(1) 再生可能エネルギー導入コストの低減
 10月号の第2章「施策及びサービス(ビジネス)による影響」で、分散電源の活用をうまくすれば、電力デマンドの平準化ができると述べました。また、蓄電池として電気自動車やPHEVが期待されています。
 12月号の第4章でも、再びデマンドの平準化について述べました。
(2) 快適な生活
 10月号の第1章「住宅地域でめざすスマートグリッド社会」の基本方針で「生活の快適性は維持する」と述べました。また、「HEMS」の項目で、時間帯別料金や情報家電の優先順位を述べました。
(3) 新たなマーケットの創出
 10月号の第1章の中の「付加価値サービス」で、例を述べています。
(4) 海外マーケットの創出
 11月号の第2章「目指すスマートグリッド社会と標準化との関係」で、標準化の重要性を説明しました。また、成熟度が上がるとノウハウも貯まって輸出しやすくなると考えられます。

2.実証実験の課題とスマートグリッド社会成熟度モデル

 上記パネリストで実証実験に参加している方が、課題を4つ挙げられました。

(1) 装置コストの低減
(2) 地域の最適化と需要家の最適化をめざした、インセンティブの考え方
(3) 実証後の運営を目的とした、ビジネスモデルの構築
(4) 環境に対する意識

 やはり、スマートグリッド社会成熟度モデルに当てはめてみましょう。

(1) 装置コストの低減
 10月号の第2章「施策及びサービス(ビジネス)による影響」で、施策について述べました。また、国は補助金を出して、高性能の装置の開発や補機類のコスト低減を促進しています。社会の成熟度が上がると大量の装置が必要になるので、学習曲線でコストは下がります。
(2) 地域の最適化と需要家の最適化をめざした、インセンティブの考え方
 9月号 の第1章「成熟度レベルアップのための方策」のレベル3で、時間帯別料金の必要性を説明しました。電力が余っている時に安く供給することにより、地域と需要家のエネルギー使用が最適化できると考えられます。
 同じ章のレベル2で、見える化に触れています。例えば、他の類似家庭との比較や順位がわかると地域での省エネにも繋がります。
 10月号の第2章「施策及びサービス(ビジネス)による影響」で、セキュリティについて述べました。地域でどのレベルまでの個人情報を共有化するかも、最適化に関係すると考えられます。
 現在、いくつかの地域で、省エネを努力した見返りにエコポイントが配布されています。京都エコポイントモデル事業などが有名です。エコポイントで擬似的に電気料金を変えているということも考えられます。
(3) 実証実験後の運営を目的とした、ビジネスモデルの構築
 実証実験は、例えば経済産業省から2/3の補助金をもらって運用されています。従って、実証実験中から自立してビジネスができる計画を立てなければなりません。現在、誰がビジネスを担うかは決まっていません。パネリストからSPC(Special Purpose Company)で運営するというアイデアも出されました。いずれにしても、採算が合わないと成り立ちません。
 余談ですが、コロラド州ボルダー市のSmartGridCityプロジェクトが、予算が足らずに失敗しそうだという話もあります。
(4) 環境に対する意識
 9月号の第1章「成熟度レベルアップのための方策」のレベル2で、啓蒙活動について説明しています。その他、Webマガジンで、たびたび述べて参りましたが、啓蒙活動が非常に重要です。「啓蒙なくしてスマートグリッド社会なし。」です。

「参考文献」

[1] パネルディスカッション「スマートコミュニティが創る未来のまちづくり」新エネルギーセミナーin大阪、2011年2月2日

[2] 乾、宗平「スマートグリッドが与える社会システムへの影響についての考察」2010年日本社会情報学会合同研究発表大会、2010年9月

[3] 乾昌弘、宗平順己「低炭素社会をめざしたスマートグリッド社会成熟度モデル」経営情報学会2010年春季全国研究発表大会、2010年6月

 執筆者略歴
乾昌弘 技術士(情報工学部門)
株式会社オージス総研 技術部 部長補佐
1979年:京都大学工学部精密工学科卒業
1981年:東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
1981年:大阪ガス入社
1991年:オージス総研出向
2003年:財団法人エネルギー総合工学研究所出向
2006年より現職

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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