オージス総研主催のソフトウェアアイデアコンテストOGIS-RI Software Challenge Award 「一度だけつかえるソフトウェアコンテスト」の本選と最終審査を2020年11月10日(火)にオンラインで開催しました。本レポートでは受賞した全6作品を中心に本選の様子をご紹介します。
第11回 OGIS-RI Software Challenge Award「一度だけつかえるソフトウェアコンテスト」
OGIS-RI Software Challenge Award(OSCA)はオージス総研が主催するソフトウェアアイデアコンテストです。今年は「一度だけつかえる」のテーマと関連するソフトウェアのアイデアを募集しました。
今年の本選はオンライン開催
本選の様子をご紹介する前に今年のコンテストの開催方法を簡単に説明します。
コンテストの開催のご案内を始めた6月は、新型コロナウイルス感染拡大を受けての緊急事態宣言は解除されたものの、多くの大学ではオンラインで授業が実施されてキャンパスには入れないような状況でした。このような状況の中で、本コンテストが学生の皆さんにとって少しでも楽しみなイベントとなってほしいと願っていたのですが一抹の不安も感じていました。蓋をあけてみたら、こちらの予想をはるかに上回る118件ものご応募をいただきました。これまでの当たり前の日常が変化するような状況にありながらも、本コンテストにご応募いただいたすべての皆さまにお礼申し上げます。
一次審査、二次審査は例年どおり応募書類による審査を行いました。一次審査では30作品が通過し、二次審査では30作品の中から6作品が選ばれました。そして、この激戦を勝ち抜いた6チーム6作品が本選に出場しました。
オンライン本選の様子
本選はオンラインで開催。本選出場チーム、審査員はそれぞれ別の場所から参加しました。本選では昨年度までと同様、各作品のプレゼン発表と質疑応答を行いましたが、プレゼン発表は事前に各チームに作成していただいたプレゼン動画をその場で視聴する形式を取りました。
本選出場チームには動画作成のご負担をおかけすることになりましたが、チームそれぞれ工夫を凝らした動画を作成し、作品をアピールしてくださいました。動画でのプレゼンになったことで、会場でのプレゼン発表では実現できなかったような見せ方もあり、観戦者一同、各チームのプレゼン動画に見入りました。
質疑の時間には審査員の質問にチームが答えたり、審査員から作品に対するコメントや提案などさまざまな意見が飛び交いました。どのチームも持ち時間いっぱい使い、大いに盛り上がりました。
全作品の発表終了後、約1時間の厳正なる審査を経て、受賞作品が決定しました。
審査はゲスト審査員の株式会社レッドジャーニー代表 市谷 聡啓様、当社社長、各方面で活躍する社員の8名で行いました。
ゲスト審査員の市谷様は、アイデアがビジネスになりうるか、対象の問題解決を必要とする人がどれだけ使えるか、という厳しい観点も含めながらご審査くださいました。
審査結果を発表する表彰式もオンラインで行いました。審査員長より受賞作品が発表され、当社社長、ゲスト審査員により表彰しました。
表彰式の後は、オンラインで懇親会。チームの方々と当社社長、審査員、社員らがコンテストを振り返りながら歓談しました。リアルでの懇親会とはまた違い、ゆっくり落ち着いて語り合えたように思います。
コンテスト本選出場チームの皆さんにとって、本選の一日が、少しでも今後のご活躍の糧になれば幸いです。
受賞作品のご紹介
ここからは本選の発表内容をもとに、受賞した全6作品をご紹介します。各作品の詳しい内容については、受賞チームの方々のご了承を得て「アイデアを説明する文書」を掲載していますのでご覧ください。
なお、本レポートでは各チームの発表内容を元に筆者の理解でご紹介しています。見出しも筆者がつけたものです。ご了承ください。
最優秀賞
チーム:DSP
作 品:ウォシュリー
和歌山大学大学院 北村 朋哉さん、北中 浩之さん
正しい手洗いできていますか?
皆さんは”正しい”手洗いができているでしょうか。
正しい手の洗い方は厚生労働省によって発表されています。手の平、手の甲、指の間、親指周り、指先と爪、手首を洗う6つのステップがありますが、6つすべてを意識している人はあまりいないのではないでしょうか。
子どもや家族の感染予防のために
ウイルスは様々な経路から体に侵入しますが、ウイルスが付いた手で目や鼻、口などの粘膜を触ることにより感染する接触感染での感染拡大が多いと言われています。
このため、さまざまな物を触る小さな子どもは特に接触感染のリスクが高くなります。また、子どもが手洗いできていないと家庭内での感染リスクも高まります。しかし、手洗い状況の調査によると、手洗い習慣のできていない子ども、正しい手洗いの6ステップができていない子どもがいることが分かりました。
このため、正しい手洗いができていない子どもが、正しい手洗いを自発的に行いたくなる環境を用意することが重要であると考えました。
帰宅すると一度だけ使える、正しい手洗い習慣支援システム「ウォシュリー」
「ウォシュリー」はスマートミラーを活用し、手洗いを楽しい体験にすることで習慣付けることをサポートします。ターゲットは2歳から6歳の子どもと、その子どもを持つ親です。
それでは「ウォシュリー」を使ってみましょう。
アプリを入れたスマホを持って子どもと出かけます。ウォシュリーはスマホのGPSデータからお出かけ先を取得。帰宅後、子どもはスマートミラーを設置した洗面台で手を洗います。スマートミラーに内蔵したカメラが洗っている手を判別し、手順を示しながら正しく手洗いできているか判定します。正しく手洗いできるとウイルスがダメージを受けて妖精に変わる様子がスマートミラーに映ります。
出会った妖精はアプリの図鑑に登録されます。
正しく手洗いすると現れる妖精はお出かけ先によって変わります。妖精の検索機能を使えば、どこに行けばどの妖精に出会えるか調べることもできます。
「ウォシュリー」は、正しい手洗い習慣を付けることに加えて、妖精との出会いによって親子でお出かけすることがより楽しみになったり、子どもが自発的に手洗いができて親の負担を軽減するなど、さまざまなメリットを提供します。
手洗いは案外正しくできていないものだと再認識しました。小さな子どもに正しい手洗いをさせるのは大変、という親の負担まで考慮されていて子どもを持つ親御さんに響くアイデアだと思いました。審査員からは手洗い以外の教育にも使えそうというコメントもありました。
アイデアを説明する文書
アイデアの詳細は応募の際に提出いただいた以下の文書をご覧ください。
アイデアを説明する文書「ウォシュリー」 (PDF: 約 2.1MB)
ゲスト審査員賞
チーム:相原
作 品:A Ring
東京造形大学 横山 賢志さん
特別なプロポーズの演出という新たな価値を
プロポーズに関する調査で、婚約指輪を渡さなかった人のうち36.7%が金銭的な理由である、というデータがあります。婚約指輪は値段で価値が判断されることが一般的です。
「A Ring」は、プロポーズリングにARを掛け合わせることで、プロポーズを2人の中で印象に残る小さなエンターテイメントにします。指輪の値段だけではない新たな価値基準を提供します。
「A Ring」でプロポーズ
「A Ring」でのプロポーズの流れを紹介しましょう。
プロポーズする人は、Webサイトでリングとケースを購入してリングにARを設定します。ARに設定できるものは、エフェクト、文字、写真、効果音、フィルターです。たとえば、Will you marry me?という文字とエフェクトを設定します。設定すると、プロポーズのときに使用するURLが発行されます。
プロポーズ本番、プロポーズする人は相手にURLを送信してプロポーズリングのケースを開きます。プロポーズされた人がURLを開くと「A Ring」のWebサイトにつながり、カメラをリングに向けるよう促されます。カメラを向けると、リングを基準にARが再生されます。
リングの上に再生されるWill you marry me?という文字。特別なプロポーズの演出です。
プロポーズ中は動画が録画されていて、あとで再生することができます。再生の際もリングで認証します。
リングの購入からプロポーズまでをスムーズなUXで
「A Ring」には、リングの購入、AR設定、プロポーズ、プロポーズの録画再生というサービスがありますが、これらを一貫して行うことができるスムーズなUXとするために、Webサイト上で実現することにしました。AR機能は専用アプリを必要としないWebARを用います。
リングは一つ一つ形が異なります。「A Ring」を利用する際のリングとAR設定の紐づけはディープラーニングによる画像認識で行い、ユーザーIDを入力するログインの操作は不要にしました。
プレゼン動画は美しいリングの映像から始まりました。人生の中で大切なプロポーズをこんな素敵な演出で思い出に残せるといいですね。プロポーズだけでなく記念日のプレゼントにも応用できるということでした。
アイデアを説明する文書
アイデアの詳細は応募の際に提出いただいた以下の文書をご覧ください。
アイデアを説明する文書「A Ring」 (PDF: 約 0.7MB)
優秀賞
チーム:With B
作 品:串カツ二度漬け禁止システム
大阪工業大学 重冨 敦紀さん、岡 宙輝さん、辻 隆輝さん
串カツ二度漬け禁止とは
皆さんは串カツ屋さんに行ったことはあるでしょうか。また、串カツ屋でのソースの二度漬け禁止のルールはご存じでしょうか。
串カツをソースに漬けると一部にしかソースが付かないので一度口に運んだ串カツをもう一度ソースに漬けてしまう人がいます。けれども、衛生面からそのような二度漬けは禁止されています。これが串カツの二度漬け禁止というルールです。
しかし、このような二度漬け禁止の注意書きがあるにも関わらず、平然と二度漬けする人もいます。
一度ソースに漬けた串カツは二度と漬けられないシステム
そこで、物理的に二度漬けを禁止すればよいのではないか、と考えたのが「串カツ二度漬け禁止システム」です。串カツ1本に対し、一度ソースを漬けると二度とソースに漬けられないようにします。これによって食べる人がなんの心配もなく安全に食事を行える環境を作ることを目的としています。
串カツ二度漬け禁止システムを使った串カツの食べ方
「串カツ二度漬け禁止システム」は、距離センサを用いたふた付きのソース容器と、重さセンサを用いた串入れで構成します。
串カツをふたつきソース容器に近づけると、距離センサが反応してふたが自動的に開き続けます。串カツにソースが付き、一定の距離を離れると距離センサが感知して、ふたが閉じロックします。
もう一度ソースに漬けようと串カツを近づけてもふたにロックがかかっているため二度漬けができません。
次の串カツを食べるためには、食べ終わった串を容器の横に設置した串入れに入れます。串入れの重さセンサが串1本分が増えたことを感知すると、ロックを解除し、2本目のソースを漬けられます。
誤動作でふたのロックが解除されると二度漬けできてしまうなど、想定される問題点も考慮して設計しました。
守りたい串カツの文化
串カツの二度漬け禁止は、古くから大阪にある絶対に破ってはいけない掟です。串カツの文化を守り、多くの人に素晴らしい串カツ文化を感じていただきたいです。
このプレゼンを見て串カツが食べたくなったのは私だけではないはず。審査員からは、あえて武骨にメカを見せるような容器にしても喜ばれるのでは、というコメントもありました。チームの皆さんの串カツに対する思いが十分に伝わってきた発表でした。
アイデアを説明する文書
アイデアの詳細は応募の際に提出いただいた以下の文書をご覧ください。
アイデアを説明する文書「串カツ二度漬け禁止システム」 (PDF: 約 0.9MB)
特別賞
チーム:UCL
作 品:走れジブン
名古屋大学大学院 挺屋 友幹さん、吉田 拓人さん
ちょっと怠け者の運動不足なあなたに
皆さんは普段ランニングをしますか?
健康な暮らしを実現するための3原則に食事、運動、睡眠がありますが、現代の日本人は運動と睡眠が不足する傾向にあります。このように運動が習慣づけられていない人がランニングをすると、まだ走れるけど途中で引き返したり、ランニング途中に歩いてしまうこともあります。
でもせっかく運動するのだから、サボらずに効果的な運動をしませんか?
ランニングを頑張れるアプリ
ランニングが辛くても頑張り続けるメンタル面を「走れジブン」アプリがサポートします。
「走れジブン」は、スマートフォンで鍵の開閉を操作できるスマートロックとランニングを管理する運動アプリ。ランニングの走行距離と目標負荷を設定したらスマートロックを作動させて鍵をかけてランニングし、ランニングの目標が達成できたらスマートロックを作動させ鍵を開けることができます。
サボったランニングをすると家に入れない、というプレッシャーをランニングの頑張りにつなげることができます。
「走れジブン」のシステム構成
ランニングのマップ情報はGoogle Cloud PlatformのMaps SDK for iOSから取得。ランニングの経路生成はDirections APIを使用して地図上に描画します。
ランニング中はスマートウォッチで心拍を計測してスマートフォンに送信、アプリ内で現在運動負荷を計算します。運動負荷はスマートウォッチで表示できます。
目標の運動負荷を達成し、サボらずしっかり運動できたと判定されたらスマートフォンからSmart lock control Serverにリクエストを送信しスマートロックを解錠します。
万が一、サボったランニングをしてしまい、家から閉め出されてしまったときの回復策としてTwitterに投稿してギブアップボタンを押すとロックを解除するという機能があります。
プレゼン動画では「走れジブン」を実装し、実際に使うシーンがムービーで紹介されました。外を走るデモは動画によるプレゼンならでは。利用シーンがとても分かりやすく伝わってきました。
アイデアを説明する文書
アイデアの詳細は応募の際に提出いただいた以下の文書をご覧ください。
アイデアを説明する文書「走れジブン」 (PDF: 約 1.3MB)
特別賞
チーム:Team Takenaka
作 品:Shiori
関西大学大学院 小山 凱丈さん、関西大学 関谷 侑希さん
SNSで簡単につながる今だから逃がしていること
現在、SNSや通信技術の発達により人と簡単につながるようになりました。一方、実際に会って話す機会は減っていませんか?便利になったからこそ失っているものがあるのではないでしょうか。それを一度だけ使えるソフトウェアで解決しようと思います。
タイムカプセルの経験をスマホアプリで
一度だけ、というテーマで注目したのがタイムカプセル。旅先の思い出をタイムカプセル入れます。タイムカプセルは旅行先の位置情報を鍵とするので、思い出を開くことができるのはもう一度その旅行先に行ったときだけ。不便であるからこそ得られる”不便益”が思い出をさらに特別なものにしてくれます。
このアプリがユーザーにとって人生の目印になればという願いをこめて「shiori」と名付けました。
フロントエンドはFlutterを使用しているのでiOSでもAndroidでも使用可能です。バックエンドはFastAPI、データベースはMySQLを使用して作成しました。
「shiori」を使った家族のストーリー
父、母、10歳の息子の家族は沖縄へ旅行してたくさんの写真を撮りました。撮った写真は「shiori」で撮影場所に紐づけてタイムカプセル化します。タイムカプセルを開けるのは息子が二十歳になる10年後に設定しました。
10年後、「shiori」からメールが届きます。再び家族で沖縄へ。思い出の写真を開いて息子の成長を感じ、家族旅行が特別なものになりました。
思い出シェア機能
「shiori」を使ってタイムカプセル化したアルバムを開くのは数年後になるため、アプリを継続して使ってもらうことが課題です。この課題の解決を期待しているのが思い出シェア機能。タイムカプセル化したアルバムを友達とシェアして、友達の旅行を楽しみながらこのアプリを使うことができます。
思い出を探しに旅に出る、というメッセージが心に響きました。プレゼン動画は、なるほど!動画だからこういう演出ができるな、と思わず唸るような出来上がりで、審査員からも好評でした。
アイデアを説明する文書
アイデアの詳細は応募の際に提出いただいた以下の文書をご覧ください。
アイデアを説明する文書「shiori」 (PDF: 約 1.9MB)
特別賞
チーム:MAX
作 品:一度だけ使えるプレゼントボックス
多摩大学 田島 宏基さん、谷萩 優一さん
ソフトウェアの力で誕生日を特別な日に
おめでとうございます!今日は誰かの誕生日です。私たちにとってなんでもない日でも今日という日が一生に一度の誕生日なのです。
ソフトウェアの力で、この特別な日をわくわく感と仲間との楽しかった思い出を詰めた愛が感じられる誕生日にします。
そうだ、総研くんに誕プレあげよう
あさって総研くんの誕生日であることを思い出したオージスくん。 近くの洋菓子店でプレゼントボックスを購入後、ECサイトでプレゼントを購入し、プレゼントボックスのQRコードに商品データを設定します。プレゼントボックスを総研くんに渡して合言葉を伝えました。
誕生日、総研くんはQRコードを読み込み合言葉を入力。すると、思い出の演出動画が再生されます。プレゼントは、ECサイトから配送され受け取ることができました。
思い出の演出動画はInstagramから取り込みます。プレゼントはECサイトから配送されるので大きなものや食品も可能です。
洋菓子を交換することで仲良くなれる機能も
プレゼントボックスには洋菓子を交換することで仲良くなれる機能もあります。心理テストによる相性の確認や、誕生日が近づいたら届くお知らせ、欲しいものリスト、匿名でプレゼントしたいものを相手が持っているか聞ける機能もあります。
誕生日を祝ってくれる仲間がいて、ものだけでなく思い出が詰まったプレゼントまでもらえたら特別な誕生日になるでしょうね。プレゼントを開いたときの動画の演出が素敵でした。
アイデアを説明する文書
アイデアの詳細は応募の際に提出いただいた以下の文書をご覧ください。
アイデアを説明する文書「一度だけ使えるプレゼントボックス」 (PDF: 約 1.2MB)
おわりに
本レポートでは2020年度に開催したソフトウェアアイデアコンテスト OGIS-RI Software Challenge Award の本選の模様と受賞作品をご紹介しました。大変な状況の中、コンテストに応募してくださったすべての皆さんに改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。本コンテストが今後の皆さんのご活躍の一助になれば幸いです。
このレポートを読んでコンテストに興味がわいた方は、ぜひ、今後のコンテストにチャレンジしてください。私たちは楽しみに待っています!