今年10回目を迎えるオージス総研主催のソフトウェアアイデアコンテストOGIS-RI Software Challenge Award 「焦らないソフトウェアコンテスト」の本選と最終審査を2019年11月18日(月)にオージス総研東京本社で開催しました。本レポートでは受賞した全5作品を中心に本選の様子をご紹介します。
第10回 OGIS-RI Software Challenge Award「焦らないソフトウェアコンテスト」
OGIS-RI Software Challenge Award(OSCA)はオージス総研が主催するソフトウェアアイデアコンテストです。今年でちょうど10回目を迎えます。
区切りのよい10回目ですので、ここで少し、これまでのコンテストを振り返ってみたいと思います。
本コンテストは、ちょうど10年前にオージス総研が企画して立ち上げました。IT人材不足に悩む中、IT業界をもっとわくわくする魅力的な業界にするには、学生の方々がチャレンジし、活躍できる場を作ればよいのでは、というオージス総研の思いがきっかけでした。
コンテストのテーマは、若い方たちの発想力を存分に発揮できるユニークなものにしようと、社員の有志が何度も集まってアイデアを出し合い設定しました。第1回以降、毎年異なるテーマを設定し、そのテーマと関連するソフトウェアのアイデアを募集しています。
2010年に開催した第1回コンテストのテーマは「青いボタンで...」。初めての開催なので、主催者である私たちも、応募があるのか、どのようなアイデアが出て来るのか、期待と不安が入り混じる中コンテストをスタートさせたことを覚えています。
けれどもいざ始まってみると、予想を超えてさまざまなアイデアの応募が届きました。そして本選の審査では、本選出場チームがすばらしいプレゼンでアイデアを提案してくださり、審査員、スタッフ共々、大いに刺激を受けました。今ではコンテスト本選の名物となった、寸劇を交えたプレゼンや独自デバイスを持ち込んだデモは第1回の本選から登場しました。
その後も、「3人じゃないと使えない」「うつる」「無駄なようで無駄じゃない」など一見変わったテーマを設定し、毎年コンテストを開催してきました。今回は難しいテーマかもしれない、と思っても、学生の皆さんは毎年、審査員をうならせるような独創的なアイデアを提案してくださいました。そして、毎回、本選では熱戦が繰り広げられ、審査員は接戦であるが故に悩みながら審査を行ってきました。
第1回から第10回までの応募チーム総数は約330チーム!本当に多くの方々が参加してくださいました。あらためてお礼申し上げます。ありがとうございました!
さて、10回目となる今回のコンテストのテーマは「焦らない」。焦らないソフトウェアって・・・?一体、どのようなアイデアを提案していただけるのか、関係者一同、楽しみに応募を待ちました。
今年の応募総数は37作品。書類による一次審査、二次審査を通過した5作品が本選に出場しました。本選はプレゼンによる審査です。審査員の前でアイデアをプレゼンしていただき、その評価に基づいて最終審査を行い受賞作品を決定しました。
それでは、ここからは、本選の様子と全受賞作品をご紹介します。
本選の一日
コンテスト本選は2019年11月18日(月)オージス総研東京本社で開催しました。本選は、各チーム25分(発表20分、質疑5分)の持ち時間で審査員の前でプレゼンを行います。ゲスト審査員には 株式会社レッジ CMO 中村 健太様をお招きし、当社審査員6名を加えて全7名で審査を行いました。
ゲスト審査員の中村様は株式会社レッジでAIコンサルティング事業の統括と、企画プロデュースのプレイングマネジャーをされています。今回の本選では、AIを利用したアイデアが複数ありました。すべてのアイデアに対して、中村様から、具体的な課題、現状の技術を使って日本でアイデアを実現するためのより適した実現手段など様々なご助言をいただきました。
全チームの発表終了後、全審査員は別室で審査に入ります。審査時間中は本選出場メンバと当社若手社員と懇談の時間を持ちました。
約1時間の審査時間を経て最終審査の受賞作品が決定。審査結果を発表する表彰式の時間となりました。表彰式は本選中とはまた違って緊張する時間です。皆が見守る中、審査員長より受賞作品が発表され、当社社長、ゲスト審査員より受賞チームに表彰状、トロフィー、目録が授与されました。また、受賞後にはチーム代表者による受賞コメントをいただきました。チームメンバーや周りの人たちへの感謝の思いを話す方が多かったのが印象的でした。
表彰式の後は、懇親会で交流の場を持ちました。本選中は質疑の時間は限られているためゆっくりと話せませんが、懇親会はたっぷり時間があります。会場のあちこちで審査員とチームの方が熱く語り合っている様子が見られました。たくさんのフィードバックを持ち帰っていただけたならうれしいです。
コンテスト本選出場者の皆さんにとって、本選の一日が、少しでも今後のご活躍の糧になれば幸いです。
受賞作品のご紹介
ここからは本選の発表内容をもとに、受賞した全5作品をご紹介します。各作品の詳しい内容については、受賞チームの方々のご了承を得て「アイデアを説明する文書」を掲載していますのでご覧ください。(お名前に◎を付けた方はチーム代表者です。)
なお、本レポートでは各チームの発表内容を元に筆者なりの理解でご紹介しています。見出しも筆者がつけたものです。ご了承ください。
優勝
チーム「roro」
タイトル「ココイル」
和歌山大学 ◎泉 瑠々子さん
ターゲットユーザーは団体行動の引率者
ツアー旅行など集団で旅行したことがある人なら、自由行動後の集合時間に間に合わない人がいた、移動中にいつのまにかはぐれてしまった人がいた、というようなケースに出会ったことがあるかもしれません。このような状況になると、次の予定が遅れたり、乗る予定だったバスや飛行機に乗れなくなる可能性があり、責任者である引率者は非常に焦ります。特に、近年は時間の制約が厳しいLCCを利用するケースも多く、集合時間の遅れによる影響がますます大きくなっています。
「ココイル」は、このような、次の予定があって遅れられない団体行動の引率者が、次の予定に間に合わないのではないか、と焦るような状況になるのを防ぐアプリです。
ターゲットユーザーは団体行動の引率者である、ツアー旅行の引率者、修学旅行生を引率する学校の先生、部活動の合宿の引率者などです。プレゼンではツアー旅行の引率者を例に説明がありましたので、以降の説明もこれに倣います。
ツアー旅行の移動、自由行動、集合で焦る状況を防ぐ
ココイルの利用シーンをツアー旅行中の移動、自由行動、集合の流れで説明します。
まずは、移動中のトラブルをサポートするはぐれ防止機能。集団で移動していると、本人も気付かないうちに引率者から離れてしまうというケースが起こり得ます。ココイルは、移動中、あらかじめ設定した距離以上に引率者から離れると、引率者と、はぐれた本人に通知してくれます。このはぐれ防止の通知によって、引率者が把握できないまま同行者がはぐれてしまうリスクを減らします。
類似したサービスに、位置情報を共有する子供の見守りアプリがありますが、これは見守る場所が限定されています。ココイルは人の周りを範囲とするので場所を限定しません。
次に、自由行動の範囲を超えて遠くに行き過ぎることを防ぐ機能があります。ココイルで行動範囲を設定しておき、自由行動の際に、一定時間、設定した行動範囲の外にいるとまず本人に通知が届き、それでも範囲外にいる場合は引率者に通知が届きます。行動範囲は、設定する地区を入力するか、アプリの地図に範囲を書き込んで設定します。
もう一つの機能が、臨機応変なタイムキーパー。あらかじめ行動予定や集合時間、場所を設定しておくと、状況に合わせて通知が入り、集合時間に間に合わないという状況を防ぎます。今から移動を開始しないと集合に間に合わない、など教えてくれる便利な機能です。
Google APIを活用して実現
引率者と同行者の距離の把握では、GPSの緯度情報から住所への変換をGoogle Maps API V3のGeocoderクラスで、距離の算出をGoogle Maps Platform のDirections APIで行います。自由行動の範囲設定はGoogle Maps API のPolygonで、現在地が設定した範囲内かの判定はGeometryライブラリのcontainsLocation()で行います。すべての機能が持つ通知機能はActions APIを使用します。
ココイルの提案はツアーコンダクターのように多くの人を引率するような方のニーズに強く刺さるものだったと思います。また、そのようなニーズを持つ人は日本だけに限りません。市場性が非常に高いものだと思います。
質疑の場では、審査員から、ニーズを分析し、使われるシーンを限定していること、現在当たり前に出回っている安価な技術を組み合わせているので実現可能性が高いことなどが評価されました。ほかの利用シーンもありそうだと質疑の場も盛り上がり、今後の展開が期待される作品でした。
アイデアを説明する文書
アイデアの詳細は応募の際に提出いただいた以下の文書をご覧ください。
アイデアを説明する文書「【21】ココイル」 (PDF: 約 1.1MB)
ゲスト審査員賞
チーム「TOTB」
タイトル「CARS」
大阪工業大学 ◎宮内 知暉さん 内藤 寛子さん
車の安全装置が作動しても焦らない
現在、自動車には数々の安全装置が搭載され、運転者と歩行者の安全を確保しています。けれども自動車メーカーによって警告が表示される場所が違ったり、運転者にとっては必ずしもわかりやすいシステムではありません。このため、警告が出ても何の警告が分からず運転者を焦らせることもあります。もし、事前にどのような警告が出るのか安全装置を試してみようと思っても、安全装置を作動させるには大きな危険が伴い、運転者への負担がかかります。
このような状況を解決するため、自動車の安全装置を楽しみながら安全に体験できるシステムを考案しました。
ラジコンで楽しみながら安全装置を疑似体験
運転者はラジコンを使って安全装置を体験します。実際の自動車の運転に近づけるため、ラジコンの操作はステアリングコントローラーを利用、ラジコンから見た映像を見ながら運転し、VRゴーグルを用いて目視の再現も実現します。ラジコンからの視点で操縦するので景色が拡大され視線が低くなり、スピードを感じることもできます。
このシステムによって、危険な目に逢うことなく安全装置を体験できます。それと同時に、自分がおもちゃの世界に入り込んだような楽しさも体験できるシステムです。
実現方法
CARSのシステムはユーザ側ソフトウェアとラジコン側ソフトウェアの機能で構成します。
ステアリングコントローラーを操縦すると、ユーザ側ソフトウェアが、アクセル・ブレーキ、ハンドル切り角をコントローラの入出力制御用のAPIであるXinputを使ってデータとして取得します。入力データはラジコンに搭載したRaspberry Piに転送します。
ラジコン側ソフトウェアでは、Raspberry Piが受信したブレーキなどのデータをPWM信号に変換してラジコンを制御します。また、ラジコンに搭載した全方位カメラの画像を圧縮してユーザ側ソフトウェアに送信します。
ユーザー側ソフトウェアは全方位カメラの画像をUnityを使用して加工しVRゴーグルにラジコンに乗って運転しているような画像を出力します。
楽しみながら安全に車の運転を疑似体験できるというのがいいですね。審査員からは、実際の車の制御が変わるとそれをラジコンに付けないといけないのでラジコンで実現するのは無理があると思う、という厳しい指摘があった一方、運転する楽しさを体感するアミューズメントとしての用途など、本アイデアについて可能性がいくつか提案されました。
アイデアを説明する文書
アイデアの詳細は応募の際に提出いただいた以下の文書をご覧ください。
アイデアを説明する文書「【12】CARS」 (PDF: 約 1.4MB)
準優勝
チーム「TeamT」
タイトル「つむぐ」
和歌山大学 ◎温井 絵理さん 鈴木 舜也さん 山本 絢子さん 奥田 早咲さん
人をつなぎ安心をつむぐ
高齢の親と離れて暮らす家族が、ある日、親と連絡がつかなくなり心配が募ります。・・何かあったのでは?ところが実際は親は友達と旅行に出ていただけで大事はありませんでした。このように、日々の連絡不足が焦りにつながることがあります。
「つむぐ」はこうした離れて暮らす高齢者を持つ家族のための見守りAlexaスキルです。ターゲットユーザーは一人暮らしの高齢者、離れて住む家族、そして、近隣の友達です。
孫のように親しみを感じる存在
数々の見守りアプリがありますが生存確認が中心のものが多く、なかなか使用者のモチベーションが続きません。これに対して、つむぐは親しみやすく家族のように使ってもらえる存在を目指しました。
使いやすさのポイントは話しかけるだけの簡単な操作。会話するだけで操作できます。つむぐの話し方は「孫」をイメージし、親しみやすさを意識しました。
自分の予定を共有して見守りと交流
つむぐを使うのは見守られる高齢者。つむぐに予定を伝えたり、みんなの予定を聞いたり、電話をかけたりすることで、自分の予定を家族と共有したり友達と交流して生活を楽しむことができます。
見守る家族は共有された予定を見て、安心したり、会話のきっかけを得たりすることができます。
本選のデモでは、高齢者に扮して「つむぐ」を使う様子が再現されました。
つむぐ「こんにちは。つむぐだよ。今日は何するの?」
ユーザ「ショッピングに行くよ」
つむぐ「ショッピングに行く、の予定を登録する?」
ユーザ「おねがい」
つむぐ「ショッピングに行く、を登録したよ。エリさんの予定を聞く?」
ユーザ「おねがい」
つむぐが友達のエリさんと電話をつないでくれ、一緒にショッピングに行く約束ができました。
つむぐの仕組み
Alexaからの話しかけに応じてAWS Lambdaに用意した予約登録インテント、予約確認インテントを呼び出します。Googleカレンダーへの予約の登録と確認は、Google Apps Scriptを利用して作成したWebAPIをLambdaから呼び出して実行します。電話をかける機能はAmazon Connectを利用しました。
将来的には地域のショッピングモールや自治体と連携してセールや地域のイベント情報の告知をしたり、生活リズムを観察していつもの行動パターンと異なるときに家族に通知する、という展望も考えているそうです。
他の見守りシステムと違い、高齢者同士がつむぐを使ってコミュニケーションをする様子を家族が確認することで、離れたところにいる親族が元気で楽しく暮らしていそうか把握できるようにするところがユニークです。
アイデアを説明する文書
アイデアの詳細は応募の際に提出いただいた以下の文書をご覧ください。
アイデアを説明する文書「【44】つむぐ」 (PDF: 約 0.6MB)
審査員特別賞
チーム「小さな侵入者たち」
タイトル「ムシノシラセ」
和歌山大学 ◎嶋原 百香さん 福地 ユキさん 才木 一也さん 山本 創大さん
虫が出てきてもアセラナイために
一人暮らしの部屋に帰ったら突然タンスの隙間から虫が飛び出した、なんていう状況になると誰でも強い焦りを感じるのではないでしょうか。虫が出てきたことに驚き、どう対処してよいのか焦り、慌てて対処しようとしたのに虫の逃げ先を見失ってしまうという悲しい結果に陥ることはありそうです。
そんな突然の虫の出現による焦りを緩和し、落ち着いて対処できるように対処方法を教えてくれるのが本ソフトウェアです。
虫を検知して通知、トラッキング、落ち着いて対処
「ムシノシラセ」は虫を検知すると、その虫の種類を判別してスマホに通知します。通知するだけでなく虫の行き先もトラッキングしてくれるので安心です。そして、虫の正しい対処方法をアナウンスしてくれます。
実現方法はカメラの画像認識。部屋に設置したカメラの画像をRaspberry Piに搭載した画像認識ソフトを用いて検知して、虫の種類を判別します。
虫の種類に応じた対処方法をアナウンスする機能では、ゲームのクエスト風にアナウンスすれば任務をクリアするという使命を感じて嫌いな虫でも楽しく駆除することができるのでは、ということでした。
会場ではデモ用のスマホアプリ版で虫(のおもちゃ)を検知するデモを実現してくださいました。
プレゼン冒頭で虫の出現に関する説明があったとき、会場のあちこちからざわざわと反応がありました。このような状況に出逢ったことがある人は多いのでしょう。虫に真っ向から向き合った本アイデアを気に入った人も多いようです。質疑の時間には虫を検知、認識する部分の実現方法に対して、審査員からいくつかのアドバイスをいただきました。
アイデアを説明する文書
アイデアの詳細は応募の際に提出いただいた以下の文書をご覧ください。
アイデアを説明する文書「【42】ムシノシラセ」 (PDF: 約 0.7MB)
審査員特別賞
チーム「犬猫派」
タイトル「LAYL:転んだ先の杖」
大阪工業大学 ◎西垣 凪紗さん 山元 真一さん
転んだ先の杖
想定外の出来事が起こった時、経験のない事であればどう対処してよいか分からず焦ってしまうことがあるのではないでしょうか。このようなとき、類似の状況で対処した経験があれば焦らずに対応できると考えます。
様々な焦る事象の対処方法をデータベースに蓄積し、焦る出来事が発生したときに検索して対応方法を提示するシステムを考えました。
困ったときの使い方
焦る事象に遭遇したときに対処方法を知りたくなったら、本システムに困った事象を入力します。たとえば「バスに乗り遅れた」など文章を音声またはテキストで入力すると回答が表示されます。あとは回答に沿って行動するだけです。
収集したデータは単語群に分割して蓄積
ノウハウのインプットとなるデータは、Webでの検索、掲示板などへの投稿、アンケートにより収集します。収集した質問と回答データは単語単位に分割して、単語群とデータの一部をデータベースに蓄積します。データベースを検索する際は質問で入力された文章を単語群に分割して単語を用いて検索し、結果を表示します。
審査員からは実現方法に対して課題を提示していただきました。何かが起こって焦ったとき、対処方法を教えてくれる人が必ずしもそばにいるわけではありません。このようなソフトウェアがあると心強いと思いました。
アイデアを説明する文書
アイデアの詳細は応募の際に提出いただいた以下の文書をご覧ください。
アイデアを説明する文書「【44】LAYL:転んだ先の杖」 (PDF: 約 0.8MB)
おわりに
本レポートでは2019年度に開催したソフトウェアアイデアコンテスト OGIS-RI Software Challenge Award の本選の模様と受賞作品をご紹介しました。アイデアを説明する文書の公開を許諾してくださった本選出場チームの皆さん、ありがとうございました。また、応募してくださったすべてのチームの皆さん、ご応募ありがとうございました!またどこかでお会いできることを楽しみにしています。