IoTセキュリティガイドラインとは?目的や概略、推奨されるセキュリティ対策を解説

IoT機器は私たちの生活や産業のあらゆる場面に広がり、利便性を高めています。しかしその一方で、不正アクセスや乗っ取り、サービス停止といったサイバー攻撃のリスクも増大しています。こうした状況に対応するため、総務省は「IoTセキュリティガイドライン」を策定しました。

本記事ではガイドラインの概要や目的を整理し、メーカーが取るべき具体的なセキュリティ対策を解説します。

    この記事で分かること
  • IoTセキュリティガイドラインの概要と役割
  • 策定目的と「セキュリティ・バイ・デザイン」の重要性
  • メーカーが実践すべき具体的なセキュリティ対策例

「IoTセキュリティガイドライン」とは?

IoT機器の普及に伴い、サイバー攻撃の対象が急増しています。家庭用機器から産業機器まで、インターネットに接続されることで利便性は高まる一方、外部からの不正侵入やマルウェア感染のリスクが拡大しました。こうした背景を受け、総務省は「IoTセキュリティガイドライン」を公表し、製造者やサービス提供者、利用者に向けて基本的な指針を示しています。

このガイドラインでは、IoT機器やシステム、サービスを提供する際に求められるセキュリティ対策のやり方を整理しています。例えば、設計段階からセキュリティを考慮することや、運用中に継続的なリスク管理を行うことなどです。また、利用者が安心してサービスを活用できる社会基盤の整備という観点も盛り込まれています。

本ガイドラインは法律で義務付けられているものではありませんが、今後法令対応しなければならない状況を見越して、IoT機器の設計をしておいた方が望ましいでしょう。さらに、ガイドラインを参考にすることで、メーカーやサービス事業者は必要な対策を具体的に整理しやすくなり、利用者にとっても信頼性の高い製品やサービスを選びやすくなる利点があります。

参考サイト(外部サイト):
総務省 | IoT セキュリティガイドライン ver 1.0
https://www.soumu.go.jp/main_content/000428393.pdf

「IoTセキュリティガイドライン」の目的

IoTセキュリティガイドラインの目的は大きく3つに整理できます。

  • 利用者が安心してIoT機器やサービスを利用できる環境を整えること
  • 「セキュリティ・バイ・デザイン」を推進すること
  • 関係者同士の情報共有や連携を促す材料を提供すること

それぞれの点について、説明を加えます。

第一に、利用者が安心してIoT機器やサービスを利用できる環境を整えることです。攻撃を未然に防ぐことで、日常生活やビジネスの基盤を守ることにつながります。

第二に「セキュリティ・バイ・デザイン」の推進です。サイバー攻撃による被害は短時間で拡大するため、事後対応では手遅れになるケースも少なくありません。そこで、IoT機器が被害を受けてから対策するのではなく、企画や設計段階からセキュリティ対策を組み込むセキュリティ・バイ・デザインの考え方を取り入れることで、サイバー攻撃によるリスクを低減させることができます。

第三に、関係者同士の情報共有や連携を促す材料を提供することです。IoT機器のセキュリティはメーカーや事業者だけでなく、利用者を含めた多角的な協力が不可欠です。国際的にも同様の動きが進んでおり、米国のNISTが公開しているサイバーセキュリティフレームワークなどと方向性を同じくしています。

このようにガイドラインは「義務」ではなく「推奨事項」として位置づけられています。セキュアであることを保証するものではありませんが、リスクを低減し、社会全体で安心できるIoT機器の利用を実現するための重要な指針です。

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「IoTセキュリティガイドライン」の概略

IoTセキュリティガイドラインでは、製造者やサービス提供者向けに5つの指針を定めています。

  • 【方針】 指針1 IoTの性質を考慮した基本方針を定める
  • 【分析】 指針2 IoTのリスクを認識する
  • 【設計】 指針3 守るべきものを守る設計を考える
  • 【構築・接続】 指針4 ネットワーク上での対策を考える
  • 【運用・保守】 指針5 安全安心な状態を維持し、情報発信・共有を行う

上記のような事業者に向けた指針の他に、一般利用者が守るべきルールも併記されており、IoT機器に関わるすべての関係者が参照できる包括的な内容となっています。ここからは、それぞれの指針とルールについて詳しく解説します。

【方針】 指針1 IoTの性質を考慮した基本方針を定める

IoTセキュリティを推進するには、経営者が主体的に取り組む姿勢を示すことが重要です。IoT機器は遠隔から操作可能であり、利用環境も多様です。そのため、システム担当者任せでは不十分で、経営者自身が方針を定め、組織全体に浸透させる必要があります。例えば、アクセス権限の明確化や監査体制の整備、社員向けのセキュリティ教育を行うことで、組織全体の意識を高められるでしょう。

こうした取り組みは経営者が意思決定を行うだけではなく、現場へしっかりと落とし込みを行い企業文化として定着させることが重要です。経営者が本気で取り組む姿勢を示さなければ、実際に役立つセキュリティ体制を築くことはできません。

【分析】 指針2 IoTのリスクを認識する

IoT機器の活用には多くの利便性がある一方、リスクの把握が欠かせません。まず重要なのは、守るべきものを特定することです。利用者情報、システムの安定稼働、サービス継続性など、守る対象を明確にすることで対策が立てやすくなります。

さらに、ネットワーク接続によるリスクを想定する必要があります。IoT機器は外部と通信することで、DDoS攻撃や不正アクセスの踏み台にされる危険性があります。サプライチェーンを経由した脆弱性拡大の可能性も軽視できません。

リスクを「恐れる」のではなく「認識し、準備する」ことが大切です。想定外の事態をなくすために、代表的な攻撃手口や外部要因を把握し、柔軟に対応できる体制を築くことが推奨されます。

【設計】 指針3 守るべきものを守る設計を考える

IoTセキュリティでは、設計段階からの取り組みが欠かせません。完成後に後付けで対策するのでは手遅れになることが多く、初期から「セキュリティ・バイ・デザイン」を実現する必要があります。

具体的な取り組みとしては、不特定多数の機器と接続しても守るべきものを守りつづける設計が求められます。例えば、特定のIoT機器が乗っ取られてサイバー攻撃の起点とならないようにするなど、周囲のシステムや機器に悪影響を及ぼさないようにする仕組みを組み込むことが重要です。さらに、開発段階で脆弱性検査やセキュリティ評価を行い、潜在的な弱点を早期に修正しておくことも欠かせません。

こうした設計上の取り組みにより、製品が出荷されてから長期間にわたりセキュアな状態を維持できる基盤をつくることができます。結果として、利用者の信頼を高めることにもつながります。

【構築・接続】 指針4 ネットワーク上での対策を考える

IoT機器はネットワークに接続してこそ本来の機能を発揮しますが、同時にリスクの入り口にもなります。そのため、接続時のセキュリティ対策は必須です。

まず、用途に応じて適切にネットワークを分離し、必要以上に外部と接続しないことが推奨されます。さらに、出荷時の初期設定を見直し、利用者がすぐにパスワード変更できるように設計することが重要です。

また認証機能を導入することで、不正なアクセスを未然に防げます。場合によってはVPNや専用ネットワークを活用し、セキュアな通信経路を確保することも有効です。これらの取り組みにより、IoT機器を利用する際の利便性とセキュリティを両立できます。

【運用・保守】 指針5 安全安心な状態を維持し、情報発信・共有を行う

IoT機器のセキュリティ対策は、製品が出荷された時点で終わりではなく、運用と保守の段階でこそ重要になります。IoT機器は長期間利用されるため、継続的にセキュアな状態を維持する取り組みが不可欠です。

代表的な方法として、定期的なソフトウェア更新やセキュリティパッチの配布が挙げられます。脆弱性を放置すれば攻撃者の標的になりやすいため、利用者に対しても注意喚起や情報共有を行う必要があります。

さらに、関係者ごとに役割を明確にし、インシデント発生時に迅速に対応できる体制を整えることが必要です。メーカーが積極的に情報を発信することで、利用者の安心感も高まり、長期的な信頼構築につながります。

一般利用者のためのルール

IoTセキュリティはメーカーや事業者だけでなく、利用者自身の行動にも左右されます。そのため、一般利用者が守るべき基本ルールもガイドラインに示されています。

具体的には、IoT機器の購入・利用に当たっては以下のような点に注意しましょう。

  • サポート窓口がない製品の購入を避ける
  • 出荷時の初期設定をそのまま使わず、必ずパスワードを変更する
  • 使用しなくなった機器は電源を切る
  • 処分時には内部データを削除する

家庭用のスマートスピーカーや監視カメラでも、初期設定のまま利用するとサイバー攻撃の標的となるリスクがあります。利用者はこうした基本的な対策を欠かさず行い、セキュリティリスクを減らす責任を担っているのです。


IoTに潜むセキュリティ上の課題とは?

IoT機器は生活や産業の利便性を大きく高める一方で、従来のIT機器とは異なる特有のセキュリティ課題を抱えています。IoTセキュリティガイドラインの必要性を理解するには、そもそもIoT機器が従来のIT機器と比べてどのような弱点を抱えているのかを知っておかなくてはなりません。

ここでは、ガイドラインが策定される背景となったIoT機器に潜むセキュリティ上の課題をいくつか取り上げます。

管理が行き届きづらい

IoT機器の多くはパソコンやスマートフォンのように画面を持たず、利用者が直接監視することが難しいです。そのため、不具合や不正アクセスが発生しても気づきづらく、攻撃が長時間続いてしまう危険があります。

管理されない機器が勝手にネットワークに接続され、マルウェアに感染するケースも少なくありません。実際に、家庭用ルーターや監視カメラが踏み台となり、大規模なサイバー攻撃に悪用された事例もあります。

監視のためのログ収集やアラート通知などの仕組みが整っていないと、異常の発見はさらに遅れます。これは利用者の過失ではなく、IoT機器が本来持つ性質による課題です。従って、製造者や事業者はこの特性を前提に、遠隔監視や自動通知機能を備えることが求められます。

デバイスの処理能力や容量に依存する

多くのIoT機器は小型で、処理能力やメモリ容量に制約があります。そのため、パソコンのように強力なセキュリティソフトを後から追加することが困難です。これがIoT機器のセキュリティ対策を難しくしている要因の一つです。

さらに、IoT機器は機種ごとに異なるOSやプロトコルを利用しており、多様性の高さが一律のセキュリティ対策を適用しづらくしています。そのため現状では、デバイス単体で万全な防御をするのは容易ではありません。しかし、本来はデバイス自体が一定の防御力を備えることが理想であり、IoT機器におけるセキュリティ対策の目標とすべきところだといえます。

ライフサイクルが長い

IoT機器は、自動車や工場設備のように10年以上にわたり利用されることもあります。その一方で、導入時に施されたセキュリティ対策は時間の経過とともに陳腐化する可能性があります。

サポートが終了した古い機器は、脆弱性が修正されないままネットワークに接続され続けることになり、攻撃者の格好の標的になります。過去には、古い機器が大量に感染し、ボットネットとして悪用されたケースも確認されています。

長寿命製品には、定期的なファームウェア更新や、必要に応じた買い替えが欠かせません。メーカー側がサポート計画を示すことも重要です。「古い機器=必ず危険」ではありませんが、利用期間が長くなるとセキュリティ上の課題が放置されやすくなる他、摩耗や劣化といった故障リスクも高まる点を理解し、適切な対応を取ることが必要です。

IoTセキュリティ対策の具体例

ここからは、IoTセキュリティガイドラインで示されている内容を補足する形で、より具体的なセキュリティ対策を紹介します。ガイドラインでは理念や基本的な指針が示されていますが、実際にIoT機器を設計・運用する際には、それだけでは不十分な場合があります。ガイドラインで示されている指針を踏まえつつ、現場で役立つ代表的な対策を把握しておきましょう。

誰が使ってもセキュアに利用できるような設計を行う

利用者が必ずしもIoT機器やセキュリティ対策について詳しいとは限りません。そのため、万が一誤った運用がされても、一定のセキュリティを確保できる設計にしておくことが重要です。

例えば、IoT機器の出荷時の初期パスワードが一律に設定されていると、悪意ある攻撃者に狙われ、大規模な被害につながりかねません。このような事態を防ぐためには、製品ごとに異なる推測困難なパスワードを設定することが推奨されます。さらに、ユーザーによるパスワード変更を必須化し、入力されたパスワードの強度をチェックする機能を搭載することも有効です。加えて、一定回数以上のログイン失敗が発生した場合に機能を制限する仕組みを備えることで、不正アクセスを抑止できます。

問題発生を検知できるようにする

IoT機器には、異常を自ら検知する機能を持たせることが望ましいです。不正な挙動や動作異常を検知できれば、機能を一時停止したりネットワークから自動的に切り離したりといった自律的な防御が可能になります。

また通信相手のセキュリティ対策状況を確かめる仕組みも効果的です。例えば、接続する前に以下のような情報を確認します。

  • どのメーカーが作った機器か
  • いつ製造されたものか
  • サポート期限が切れていないか
  • どの通信規格に対応しているか

多くの場合、このような情報はあらかじめ機器に組み込まれた証明書などでチェックできるようになっています。これにより、古い規格しか使えない機器や信頼性の低い機器との接続を避けることが可能です。

物理的な不正操作を防止する

IoTセキュリティはサイバー攻撃だけでなく、物理的な不正操作への対策も必要です。機器が盗まれたり分解されたりしても、内部のデータやソフトウェアが流出しない仕組みを備えることが求められます。

代表的な方法として「耐タンパー性」を高める設計があります。耐タンパー性とは、機器やシステムが不正に開けられたり改ざんされたりすることを防ぐ性能のことです。耐タンパー性を高める具体策として、ICチップ内部に耐タンパー性を備えた専用回路を組み込む方法があります。これにより、不正な改ざんや解析を検知すると内部データを読み出せないようにすることが可能です。

まとめ

本記事では、総務省が策定した「IoTセキュリティガイドライン」の概要や目的を整理し、メーカーや利用者が取り組むべきセキュリティ対策について解説しました。IoT機器の普及により利便性が向上する一方、管理が難しい特性や性能制約、長いライフサイクルといった課題が存在します。設計段階からの取り組みや異常検知機能、物理的な不正操作への対策など、具体的な取り組みを一通り把握しておくことが重要です。

IoT機器のセキュリティを強化することは、利用者の安心感を高めるだけでなく、製品の価値向上や事業の継続性確保にも直結します。

ただし、ガイドラインで求められるセキュリティ対策を自社だけで網羅的に実行するのは容易ではありません。脆弱性の洗い出しや長期運用を見据えた仕組みづくりなど、専門的な知見が必要となる場面も多くあります。

そこで役立つのが、オージス総研が提供するセキュリティ診断やコンサルティングサービスです。組み込み機器やIoT機器に特化した診断を通じて、自社製品のリスクを客観的に把握し、改善の優先順位を明確にすることが可能です。

現在、IoT機器のセキュリティ性に課題を感じており、今後ガイドラインを実践的に活用したいとお考えの際には、ぜひオージス総研のサービスをご検討ください。

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2025年10月21日公開
※この記事に掲載されている内容、および製品仕様、所属情報(会社名・部署名)は公開当時のものです。予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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