課題粒度とAI・データ分析
1.変革とAI・データ分析
多くの人が認識されているように、変化や競争が激しい環境に身を置く企業は「変化し続ける能力」が必要です。これは、自らに継続的に変革を起こし続ける能力と言い換えることができます。
そしてAI・データ分析は、この変革を起こすトリガーの1つであることから、その重要性はますます高まっています。
しかしAI・データ分析という道具を使って、効率的にビジネス成果を上げていくためには、その道具を適用する領域をうまく選んでいく必要があると、我々は考えています。
我々が今までお客様をご支援してきた経験をベースに、最近お勧めしているアプローチは、企業の「新規事業・業務領域」と「既存事業・業務領域」を分けて考え、まずは後者の「既存事業・業務領域」からAI・データ分析を適用していくというものです。
「データサイエンティストだから分析やデータに詳しいだろう。だから、ターゲットとしている事業(新規事業・業務領域)のデータがまだ何もない状態であっても、ビジネスの成功に必要なデータや分析が分かるのではないか。」そう聞かれることがあるのですが、そんなことはありません。確かに過去に経験したプロジェクトやメディアで掲載されている情報で知っているものがあれば、何となく推測できることはありますが、個々のお客様が新しく考えられている事業や業務にしっかりと一致するものはほとんどありません。結局は、新しい事業や業務を開始し、ある程度のボリュームまでデータが収集できてから、データを実際に確認および分析していくケースがほとんどです。
ですので、まずはすでにデータが存在する「既存事業・業務領域」に対して、AI・データ分析を適用していくのが王道だと、我々は考えています。
2.適用アプローチ
我々が実践しているAI・データ分析のアプローチは、以下のように、「問題の発見」、「課題の設定」、「分析テーマの導出」の流れを取ります。
図1
ここで補足しておきたいことは「課題」という言葉の定義です。我々の考え方は書籍「データ分析・AIを実務に活かす データドリブン思考(河本薫)」の定義の通りですので、一部を引用させていただきます。
●「課題」とは、目標と現状のギャップを埋めるためにやるべきこと、すなわち、「問題」を解消するためにやるべきこと
3.AI・データ分析に適した課題の粒度
先ほどの図1のアプローチで実際に進めようとすると、多くのケースにおいて「ある不都合」に遭遇します。それは「課題」から「分析テーマ」をうまく導出できないというものです。この原因の大部分は、「課題の粒度」にあります。
我々は経験的にAI・データ分析がうまく適用できる課題の粒度があると認識しています。仮に、課題を「関係する業務プロセス」と「関係する組織」の軸で分類してみると、以下、図2のような形になります。
図2
経営課題は会社全体に関係する課題であり、粒度「大」の課題です。また、経営課題よりも小さな業務課題は以下のように分類できると考えています。
- ●プロセス横断型の業務課題:
さらに複数の業務課題にブレイクダウンが可能で、解決時にビジネスインパクトが大きい業務課題であり、粒度は「中」 - ●取り扱う業務課題:
組織内の単一業務プロセスの課題。ある程度の大きさのビジネスインパクトを持つ業務課題であり、粒度は「小」 - ●標準化・集約型の業務課題:
業務ルールを整理・標準化し、集約・アウトソースすることで解決が可能な業務課題、粒度「中」から「小」
また、個人レベルの生産性向上の課題は、粒度は「極小」であるため取り扱いません。
これらの業務課題のうち、「組織内の単一業務プロセスの課題」がAI・データ分析をうまく適用できる課題です。このような形になる要因として、現在ビジネス実用レベルに達しているAI・データ分析が「汎用型」ではなく、「業務特化型」であるからだと、我々は考えています。取り扱う業務課題が明確になることで、業務課題に直結する過去データやトレーニングデータが利用できる状態が条件になるからです。また「業務特化」の一例としては、「生産計画組織」の「生産計画プロセス」における需要予測ステップ(業務)などがあります。
そして、粒度の大きな課題については、以下の矢印のように適切な粒度までブレイクダウンしていく必要があります。経営やプロセス横断型といった、AI・データ分析の世界から見て粒度の大きな課題は、課題をブレイクダウンすることで小さめの複数の業務課題とし、これらの業務課題から導出した分析テーマを組み合わせて、解決を図ることになります。分析テーマが複数になった場合は、「データ収集をはじめとする準備」や「分析アウトプットの業務組み込み」といったことも含めて、作業計画に落とし込み、ロードマップ化しておきます。
図3
補足ですが、これらの課題とDXのデジタイゼーション・デジタライゼーション・デジタルトランスフォーメーションの関係は以下、図4のように考えています。
図4
出典: 経済産業省「DXレポート2(中間取りまとめ)」(外部サイト) (図4右側)
AI・データ分析を活用してビジネスに貢献する場合は、スタート地点に当たる「問題の発見」および「課題の設定」が大切です。さらに課題は、構造化と切り口を使ったブレイクダウンを行い、分析に適した粒度にもっていくことが重要です。
当社が提供するサービスの「データ分析業務活用道場」、「データ分析サービス」、「DataRobot 機械学習を自動化するAIプラットフォーム」、「データエンジニアリングサービス」は、このような考え方をベースとし、お客様のビジネス成果獲得の可能性を最大限、高める形になっています。
【参考文献】
河本薫(2022)『データ分析・AIを実務に活かす データドリブン思考』ダイヤモンド社
2023年3月9日公開
※この記事に掲載されている内容、および製品仕様、所属情報(会社名・部署名)は公開当時のものです。予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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