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インタビュー

ひっくりかえるソフトウェアコンテスト優勝者インタビュー

研究室13人でアイデアを実現!
インタビュー/写真 オージス総研 技術部企画室 OSCA事務局 木村 めぐみ、川北 京子
2025年1月28日

昨年11月12日に開催したオージス総研主催のソフトウェアアイデアコンテストOGIS-RI Software Challenge Award 「ひっくりかえるソフトウェアコンテスト」で最優秀賞を受賞したチームちいばやしのインタビューをお届けします。信州大学工学部に訪問し、優勝者インタビューに加えて、メンバーが在籍する小林研究室の小林一樹教授からもお話を伺いました。

目次

はじめに 受賞作品について

「ひっくりかえるソフトウェアコンテスト」で最優秀賞を受賞したチームちいばやしの作品「習慣省年マンガ」は、録音した会話の発言をもとに、会話を再現した漫画と、発言者に対する助言を生成するアプリケーションです。視点をひっくり返すというコンセプトのこのアイデアは、生成された漫画と助言を見て、自分自身の行動や発言を客観的に振り返ることを可能にします。

11月12日に開催されたコンテスト本選では、チームメンバー3人がスライドとデモ動画による発表を行い、後半には審査員との会話をもとに実際に漫画を生成するデモを実演しました1

作品の詳細は応募時にお送りいただいた書類審査向けの資料「アイデアを説明する文書」をチームのご了承を得て掲載しておりますのでご覧ください。
アイデアを説明する文書「習慣省年マンガ」(PDF: 約 1.3MB)

本選終了後の12月某日、ちいばやしチームの方から直接お話を聞くため、長野駅からほど近い信州大学工学部にお邪魔しました。ここからはインタビューの様子をお届けします。

信州大学 長野(工学)キャンパス
インタビューに訪問した信州大学 長野(工学)キャンパス

優勝チームインタビュー

ちいばやしチーム 信州大学大学院 三野 耀大さん、菊池 悠さん、武田 一磨さん、花形 優斗さん、松本 千里さん、ZHAO YIHONG さん、隠岐 和輝さん、篠原 智さん
信州大学 石澤 圭さん、木了 悠貴さん、齋藤 恵さん、芝崎 彩奈さん、原 匠さん

チームちいばやし
後列左から、篠原さん、花形さん、石澤さん、武田さん、菊池さん、原さん、ZHAOさん
前列左から、松本さん、芝崎さん、木了さん、三野さん、隠岐さん、齋藤さん

メンバー紹介 コンテストでの役割

── あらためまして、この度は最優秀賞おめでとうございます。本選には発表者の3人に来場いただいたのですが、今日はメンバー全員とお会いできてうれしいです。早速ですが、お一人ずつ学年とお名前、コンテストでの役割を教えていただけますか。

三野さん

三野- 修士1年の三野 耀大です。チームちいばやしの代表を務めました。事務局の方との連絡や、セクションを分けて開発したものを最終的にまとめて仕上げる仕事をしました。

隠岐さん

隠岐- 修士1年の隠岐 和輝です。審査資料と発表資料の作成を担当しました。また本選当日の発表を行いました。

木了さん

木了- 学部4年の木了 悠貴です。私も発表者として本選に参加しました。開発では漫画の生成 AI のサポートと資料用に図の作成を行いました。

花形さん

花形- 修士2年の花形 優斗です。私はおもにデモ動画の田中役に力を入れました。開発のところでは音声認識班を担当しました。

── あ、上司の田中さん!見覚えがあると思いました。

石澤さん

石澤- 学部4年の石澤 圭です。僕もデモ動画の俳優です。それから、音声認識班の開発に携わってそこの資料をまとめました。

芝崎さん

芝崎- 学部4年の芝崎 彩奈です。私も女優と、あとは漫画生成のお手伝いをさせていただきました。

── デモ動画にはチームメンバーの方々が出演されていたのですね。皆さん役柄にはまっていましたね!楽しめました。では続いてお願いします。

菊池さん

菊池- 修士2年の菊池 悠です。おもに音声認識のシステム部分の開発をしました。

篠原さん

篠原- 修士1年の篠原 智です。音声認識の議事録生成の班で、助言生成のAPIの開発に取り組みました。

武田さん

武田- 修士2年の武田 一磨です。漫画の生成を担当しました。

齋藤さん

齋藤- 学部4年の齋藤 恵です。審査資料と発表資料を作る資料班で、資料を作りました。

松本さん

松本- 修士2年の松本 千里です。資料を担当しました。

ZHAOさん

ZHAO- 修士2年のZHAO YIHONGです。他の皆さんと一緒に作りました。

原さん

原- 学部4年の原 匠です。バックエンドというサービスの骨組みを作る担当をしていました。

── ありがとうございます。それぞれ班が分かれていたのですね。

三野- はい。大きくは、音声認識班、漫画生成班、資料班に分かれていました。

── コンテストの応募動機をお聞きしていいですか?

三野- ご存じかと思いますが我々小林研究室は何年か前から応募していて恒例行事になりつつあります。今年も例年通り、活動の一環として応募しました。

── 2016年から毎年応募いただいていますよね。ありがとうございます!

「ひっくりかえる」をとことんアイデア出し

── 今回はどういうアプローチでアイデアを出されたのでしょう。

木了- 「ひっくりかえる」から連想できるところをブレーンストーミングでみんなで出し合って、そこから徐々に、興味があるところ、おもしろそうなところに絞っていきました。

── ブレーンストーミングは13人でされたのですか?

原- 最初は全体で出していたのですが大人数だと意見が出にくいので、小さいグループに分かれて話し合って、最後に各グループでこんなアイデアが出た、と共有する形で進めました。

三野- その時の議事録も残っているのですが、最初はもう思いつく単語をひたすら書いていきました。実現可能性も一切考えずに、単語や連想できるものを出していきました。

議事録
当時の議事録を見ながら。「ひっくりかえる」から連想されるいろいろな言葉や画像が記録されていた。


── 最初は発散させるところからスタートして、絞り込むところはどういう感じで進めたのですか?

原- 単語はいっぱい出てくるので、それを実際に使うサービスまで落とし込めるか、というところでふるいにかけた感じです。サービスにつながるものを1個か2個くらいに絞ったと思います。

隠岐- グループ毎に、これがよさそうだ、とまとまったものを教授に1回見てもらいました。

松本- でも、グループで絞るまでも何転かして、すごく長い時間がかかりました。

隠岐- (議事録を見ながら)7月9日の5回目で漫画と他2つほどのアイデアが出ていますね。

原- 他には自動でひっくりかえるフライ返しとか、カエル型のロボットが会議中にこけて笑いを取るとかありましたよね。

松本- フライ返しだったらヤケターナーとか名前込みで考えてました。

── 今回の作品名「習慣省年マンガ」もよく考えられていますよね。

原- まずここの3人グループ(原さん、花形さん、松本さん)から漫画という案が、なんで生まれたのか覚えてないんのですが唐突に生まれてきて。

── うまく漢字がはまっていてすごいなと、まずそこでやられました。

本選までの1ヶ月で自分たちのアイデアを実装!

── 今回、視点をひっくり返す解決策として、会話をもとに漫画と助言を生成するアプリを開発されました。漫画にするとなると実装も大変そうに思ったのですが、先ほどの話からすると、漫画というアイデアが出たからそれを実現したということなのでしょうか。

原- そうですね。アイデアの時点で、実現可能性は何も考えていなかったです。できたらおもしろいなぁというところから始まりました。

三野- 正直言って、応募資料の段階で実現可能性がどれほどあるのか、ある程度のところまでしか考えていなかったです。でも書類審査を通過して本選に行くことになったので、いざやるしかない、と。形にしたのはほんとに本選前の1ヶ月くらいの間でした。

編集注:コンテストのスケジュールは、8月30日に応募を締め切り、書類審査の結果通知が10月3日、書類審査を通過したちいばやしチームの作品を含め5作品が11月12日の本選に出場し、プレゼンによる審査が行われた。

── 漫画作成班と音声認識班があるということでしたが、班分けはどう決めたのですか?

三野- 自分がやりたい、とか、できるところで。

── もともとそれぞれ技術の経験はお持ちだったのですか?

全員- ・・・

── そこまで専門でやってますという方はいない?

菊池- そこまで経験はなかったです。これまでの経験の中でちょっと知っているなど、完全に知識がゼロということではないですが、そこまで専門ではなく、調べながら進めました。

── 班分けした後は、それぞれグループ毎に進めたのですか?

三野- はい。書類審査が通って本腰を入れてやることになった最初の回で、やらないといけないことを全部リストアップして、班に分かれました。

原- 各班がこれができればいい、というような区画が決まっていて、最後に全部くっつけた形でした。

精度にこだわるより利用シーンを踏まえて使いやすさを考慮した

── 書類審査の資料に採用技術が書かれていましたが、実装は書類審査通過後にされたのですよね。今回いろいろな技術を採用されていますが、どのように選定されたのでしょう。音声認識はどうでしたか?

石澤- 知っている技術を使ってうまくいくかどうか試して、無理そうだったら違う技術を使ってみるという方法で探しました。

菊池- これでいけそうだなという技術を絞り込んだらいったん実装に落としてみて、そこから一番使えそうなものを取捨選択する方法で徐々に実装しました。

── 試しながら進められたのですね。皆さんにはそれぞれ研究もありますし、コンテストだけに時間をかけられるわけじゃないですよね。

菊池- 音声認識はその中で分担できたので、私がおおまかな部分を作って、細かい精度の部分は他の方に調整していただいて、それぞれの時間を別々に持ってもらって進める形でした。

── 音声認識で苦労されたところはありますか? 本選のデモで、サンプルボイスを録って話者を特定したり、そこまで実装したのか! と驚いたのですが。

石澤- 話者のサンプルボイスと、分割した音声データを照合するのですが、そこが難しかったです。

発話分割
会話の録音から発話者推定までの概要(ちいばやしチームのプレゼン資料より引用)


── サンプルボイスの録り方を工夫したらできる、というようなことではないのでしょうか。

菊池- サンプルボイスに関しては、事前に話す人が分かっていて、サンプルボイスの数も録れていれば、それに合わせて学習することで精度は上がると思うのですが、今回のシステムとして、新しい参加者もいることを想定すると、少ないサンプルデータで実現できた方がうれしいと考えて実装しました。サンプルデータが少ない分、精度はなかなか上がりにくかったということになります。

── 本選でもほんとに一言くらいのサンプルボイスで利用できていましたね。実際の利用シーンを考えてのことなのですね。

利用した生成 AI について

── 漫画生成のところのご経験はどうだったのでしょう。

武田- 漫画生成自体の経験はないですが、使っている生成系 AI については少し知識があったので、その知識を活かしました。

── 漫画生成で採用した AI の特徴を教えてもらえますか。

武田- 画像生成 AI として Stable Diffusion を使っています。 今回は、Stable Diffusion のモデルを漫画の画像でファインチューニングして、漫画調のイラストが生成されやすいように調整しています。あとは、どういう風景か、男性か女性かをプロンプトに入れて、その場面に応じた画像が生成されるようにしています。

── 音声認識されたテキストをもとに、それらの情報をプロンプトで指示して生成させるのですね?

武田- はい。あとは、顔の表情を出すために感情認識も組み込んでいます。会話の内容からその人がどういう感情でしゃべったのかを組み込んで、よりリアリティを高めることを工夫しました。

── 感情認識というのは、テキスト化された会話の内容から認識するということですか?

三野- はい。WRIME という日本語の感情分析のデータセットを利用して実現しています。感情を8種類に分類するのですが、やってみると驚きの発言なのに笑顔が生成されるなど、感情と合っていない顔が生成されることがありました。

── そこはどうされたのでしょう。

武田- プロンプトの書き方を工夫しました。プロンプトエンジニアリングです。驚きと似た他の単語を入れてみて、どれが一番驚きの表情になるか試しました。

── 少し話が戻るかもしれませんが、漫画と一緒に助言を出すというところはどういう仕組みなのでしょう。

武田- Gemini という生成 AI に会話の内容を読み込ませて、各話者に対して助言を生成しています。こういう発言についてはもう少しプラス思考でもいいんじゃないか、というような、助言を受け入れやすい表現になるようプロンプトを調整しています。

── 助言までしてくれるとは、すごく考えられているなと思っていました。そういう細かな仕様はどの時点で考えたのですか?

三野- 助言は書類審査の時点で考えていました。

芝崎- 客観性を出すために、漫画だけだと不十分じゃないか、フィードバックがないと客観にはつながらないんじゃないか、という話から助言を入れたと思います。

木了- 視点をひっくりかえすという、主観と客観がひっくりかえっていることをより分かりやすい形で示すために入れました。

── 技術面だけに注力すると利用者の視点が見落とされることもありそうですが、このアプリではちゃんと使う側のことが考えられていますよね。実装するには難しいかもしれないけれど、これを作ろう、と実際にこの13人で作り上げたところが本当にすばらしいと思います!

資料にも力を入れた

── 書類審査の資料を私たちも見ていますが、表紙を見て、これおもしろい! って思ったんですよね。

隠岐- すばらしいものを作ってくださいましたよね。デザイン面は松本さんが作ってくれて。

松本- そうです。実は、私は信州大学は大学院からなのですが、以前の大学でこのコンテストに個人で応募していたんです。その時は一次審査を突破したのですが二次審査2で落ちて悔しい思いをしたという個人的なご縁があって、やっと優勝できてすごくうれしいです。やっぱり資料というのは人に見せるものなので大事なものだと思っています。例年の小林研が提出していた資料はアイキャッチがないなど論文に近いものもありましたが、他の過去の優勝作品は素敵なロゴデザインなど工夫して作られていたので、私も最後の年ですしどうしても資料に力を入れて優勝したいと思っていました。

書類審査用資料の表紙
書類審査用資料の表紙の一部(アイデアを説明する文書「習慣省年マンガ」より切り抜き)


── そうだったのですね。資料だけで伝わってくるメッセージ性は強かったですし、書類審査員に与える印象も大きかったんじゃないかなと思います。狙い通り、大成功でしたね。本選の資料はどう作られましたか?

松本- 本選の資料は資料班の3人で Google Slide を共有して文章など大部分のところを作りました。具体的なシステム図は各班にお任せしました。

── 本選の資料で他に工夫されたところはありますか?

隠岐- どうやったら見やすくなるか、文字サイズや、本選のプロジェクターに映るときに明るさによっては見づらくなったりすることを考えて、濃い目の色にするなど調整しました。当日は見やすくできていたのでよかったです。

── 発表練習はできました?

隠岐- それぞれ発表者3人で自分の発表箇所を練習しましたが、3人で通しの練習は1回しかやってないです。

── 本選は発表時間が15分、質疑が5分と持ち時間が決まっているので結構シビアかと思いますけど。

隠岐- 何をしゃべるかは決まっていたということと、しゃべる中でどの部分を何分くらいまでにすればいいか、事前に話せていたので、それだったら自分はここくらいまでかな、と考えて。

── スライドの発表に加えて、プレゼン後半にはゲスト審査員に実際にアプリに録音してもらい、三野さんが発表をする裏で漫画を生成して、最後に生成した漫画をプロジェクターに表示するという構成でしたね。

隠岐- デモの時間はほんとに読めなかったです。

三野- 僕が後半に発表する速度で調整するしかないと思っていました。

── でも、すごくぴったりでした。うまいこと合わせてるんだなと思っていました。

木了- 結果的には合いました。

隠岐- デモに使う時間は長めに取っていました。そんなに長い会話は想定していなかったので発表が終わるまでには絶対入るだろうと。

三野- 漫画生成のテスト自体は事前に何回かやっていたので、どれくらい時間がかかるかはわかっていたというのもあって、時間内に終わるだろうと思っていました。

本選で行ったデモの話

── もう少し本選のデモの話を聞かせてください。デモで、ゲスト審査員と発表者の木了さんの会話を録音して漫画を生成すると、二人の会話ではなく、合わせて一人の発言として漫画が生成されましたが、あれはどういう状況だったのでしょう。

三野- 木了さんの声とゲスト審査員の中居さんの声が音程的にちょっと似ていたみたいです。

── たとえば、高い声の人と低い声の人、だったらうまくいったのでしょうか。

木了- そこまで違えば音声認識も区別してくれると思います。実際、研究室でテストをする中ではちゃんと区別できていたので。

石澤- 録音した会話の発言がかぶってしまったみたいなんです。まず、音声認識した文字を分割するのですが、発言するタイミングの間隔が近すぎて、文字を分割できていなくて、一人が発言した文章として認識されて分割できなかった可能性があります。

三野- 普段の会話でこのシステムを適用するとなれば、日常にそのような場面は普通にあるので、そこは課題として挙がったという感じがしますね。

── 本選で実際に審査員の方に参加してもらうデモを行うということは、審査員にいい感触を持ってもらえる可能性がある反面、失敗するかもしれないという怖さもあると思いますが、そこはやってみようという感じでメンバーは同意されたのですか?

三野- 現地で実際にデモをするというのは、できたら万々歳だ、という感覚でいました。失敗してもデモ動画があるのでアプリの内容を見せられないわけではないですし。ただ、やっぱり気が気ではなかったです。

── それでもやっぱり最後にちゃんと生成された漫画が表示されると、本選でも本当に大喝采という感じでとてもよかったですよね。

研究室を見学
インタビュー後に研究室でアプリ開発の過程で生成した漫画の履歴を見せていただいた。


── 本選の感想を聞きたいと思います。本選はどうでした?

隠岐- おもしろかったです。ひっくりかえるってどうやって作るんだろうと思ったら、ほんとに多様なアイデアや攻め方をされていて、自分たちの発表が最後だったので、4チームの発表をちゃんと聞きながら、自分たちは大丈夫かなとドキドキしていました。

三野- 個性があってそういうアプローチもあるのかって刺激になりました。

── アイデアのバリエーションとしても一致するものはなかったですし、それぞれが専門とする知識分野もバラバラだったのかもしれません。

木了- そういう、研究室でやってることや、どの学部に所属しているのか、という背景が作品に表れていたのが結構おもしろいなと見てて思いました。

本選に参加した3人
本選に参加した木了さん、三野さん、隠岐さん


── 交流会で他のチームと話はできました?

三野- 今の技術どうやってるの?とかしゃべりかけてくれたりもしました。

木了- 興味を持ってくれてうれしかったです。

メンバーが13人いてよかったところ

インタビューの様子
インタビューの様子。画角に収まりきらなかったが手前には本選に参加した3人が座り、総勢13人でテーブルを囲んだ。


── チームの人数として13人は多いような気がしますが、よかったところ、大変だったところはありますか?

三野- よかったところは、分担してできるというところです。作業量があるので。

原- 一班一班がヘビーな作業量なのでそこに人数が割けたのはよかったです。

── 確かに、この短期間で実装したとは思いもしてなかったです。それは大人数ならではですね。でも分担すると結合するところがどうしても難しいのかなと思いますが。

三野- はい。最終的にそれぞれのシステムを統合させたのですが、パッケージのライブラリのバージョンが違うとか、こっちを変えたらあっちがダメになったりしたので、分担してやったことの影響はありました。

原- 使った AI 同士で競合したり。

三野- ライブラリを共通して使えないということが発生しました。それぞれ別の環境を作ってその間で通信するという形でごり押しで回避しました。

── それぞれの班がぎりぎりで作っていたら統合する期間もそんなに持てなかったですか?

三野- ほんとの最終仕上げは本選当日の昼に、会場近くでやりました。前日の段階で発表できるところまではできていたのですが、最後の微調整を。

── そうだったのですか!

研究室に置かれたマシン
研究室に置かれたマシン(右に写る黒い本体)。本選のデモはアプリからこのマシンに接続して漫画を生成した。


将来の夢

── では最後に、皆さんの将来の夢を聞かせてください。近い将来でも遠い将来でもいいです。

木了- 海外経験もあって英語もできて、といういろいろなバックグラウンドと、工学部情報科で学んだいろいろな知識を複合して世の中に貢献できたらなと思います。

原- 自分は興味あることがたくさんあって、いろいろなものに手を出してきたのですが、それを実際にどう将来に結びつけるか考えたことがなかったんです。ちょうど有名な方の話を聞く機会があったのですが、本当に自分がやりたいことを一生懸命本気でやるべきだとおっしゃっていて、じゃあ自分にとって本当にやりたいことって何なんだろう、というところで迷っているところがあるのですが、それでも研究室や今までの活動を通してできることはいっぱい増えてきたという自覚はあるので、その中でこれからゆっくりと探していけたらなと思っています。

ZHAO- 将来はもっと知識と技術をつけるよう学びます。あとは仕事をします。できればもっと日本語を勉強します。

松本- 私の将来の夢というか目標は、女性技術者として長く楽しく働き続けたいなと思っています。

芝崎- 私は理系ですが、理系がすごく苦手なんです。技術というのは理系が苦手な人には伝わりにくかったりするので、理系の中の文系として、理系と文系の橋渡し的な役割をできればなと思っています。

石澤- 僕はスキーがすごく好きで国体にも出場した経験があるので、これからもスキーをやり続けたいなと思っています。スキーをやりつつ、長野県内で社会に貢献できたらなと思います。

齋藤- 大学までいっぱい勉強してきたので今まで学んできたことを活かして仕事をできたらいいなと思います。

篠原- 僕は興味のあることがいっぱいあり、今までもいろんなことに手を出して学んできたので、様々な知識を活かせるような仕事や、自分の強みを活かせるような仕事に就いて、社会の役に立てたらいいなと思います。

武田- 来年就職というところで、特に AI に興味を持っているので、そういうところでそういった技術を使って日本の DX などに貢献できたらなと考えています。

菊池- 私は将来困っている人にすぐ手を差し伸べられる人間になります。よろしくお願いします。

花形- 自分は来年社会人で、直近の目標というわけではないのですが、将来の夢があります。将来は北海道でシチューを作りたいなと思っています。ぜひシチューを食べにきてください。

隠岐- 自分はなんでも表現することが好きで、表現の幅を広げたくて今までも歌や短歌なども触ってきたのですが、プログラミングは今では生成系 AI でほんとにいろいろなことを作れると思っています。自分の人生の目標として、仕事につながらなくてもいいので、自分にとっておもしろいものをいっぱい作れるといいなと思っています。

三野- 僕はほんとに小さいころからものづくりが好きで、この学問を志している理由としての原点にはものづくりがあるのかなと思っているのですが、僕もほんとにいろんなことに興味があるので、自分の興味のあることを極める、極めまくって、社会をよくしつつ、自分の生活もよくできたらいいなと思っています。がんばります!

ちいばやしチーム
受賞後、キャンパスにてチーム全員で。(写真提供:ちいばやしチーム)


── まっすぐに思いを話してくださって心が洗われる思いです。それぞれの道を歩んで行かれることを心から応援しています!

小林研究室訪問

インタビュー後、ちいばやしチームのメンバーが在籍する小林研究室にお邪魔し、小林一樹教授にコンテストに関してお話を伺いました。

小林教授
信州大学 工学部 小林一樹教授


コンテストについて

── この度は最優秀賞おめでとうございます。小林研究室は今回を含めて入賞が5回、そのうち最優秀賞が3回と好成績を残されていますね。

小林研究室のトロフィー
研究室に飾られた OSCA のトロフィー


── 先ほど皆さんに伺ったのですが、毎年コンテストに応募することになってるのですか?

小林- 形式的には文献紹介かコンテストか聞いていますが、毎年、コンテストがいいという流れになっています。

── 研究室全員で参加なのですね。

小林- 基本的にやるなら全員です。

── 先生から見て今年はどのような様子でしたか?

小林- 私からは、個人に負担がかからないようにしましょう、一人が全責任を負うような形にしないようにしましょう、くらいしか言っていません。学生たちから、アイデアを絞り込んだのですがどうですか、と聞かれて、どちらかと言うと考えさせるような、むしろ、迷わせるような発言しかしていない中で、あのアイデアに落ち着いたようです。

── 作品名もおもしろかったですね。過去の入賞作品を見ても小林研究室のアイデアは作品名を含めおもしろいですね。メンバーは変わってると思うのですが、自然とそういうことを考える方が集まっているのでしょうか。

小林- 決勝までいけないことも多いですし、学生も卒業してガラッと入れ替わっています。私はおもしろいことが好きなので、ゼミもとにかくおもしろくないと、と。共通しているとすればそれじゃないですかね。

── あの漫画のアイデアは先生もおもしろいと思われましたか?

小林- そうですね。漫画がおもしろいと思ったというより、うちの研究室はインターフェイスや人工物との相互作用みたいなことをするので、心理学も扱います。中には農業の研究をしている学生もいますが、全員で情報交換する中で、学生たちが今回のテーマでも心理面にフォーカスしました。客観的に見るメディアとして漫画はなかなかおもしろいと思いました。漫画生成の AI を見つけてきて、それである程度できることをつかんだようで、漫画として破綻しないように結構うまく作れたと思います。

── 初めて見たとき完成度にびっくりしました。心理学という知識もあって今回のようなアイデアがうまく出てきたのでしょうか。

小林- 学生たちは、人からどう見られてるのか気にしている感じがありますし、我々教員も相手がどう感じてるのか知りたいとは思いますね。少し時代を感じるものだと思います。

── 人から言われると気になるところを、ああやって漫画で伝えると負担にならない、というのが絶妙で今どきだと思いました。社内研修で使ってもおもしろいかなと思います。講師のフィードバックより客観的に見れて、言われたことを素直に聞けるかもしれません。

小林- 私もおもしろくて、むしろ学生目線よりは上司目線の方が絶対おもしろい、と。上司が出てくるデモ動画が結構ウケたという話を聞きました。

── はい、盛り上がりました。アイデアがおもしろく、それを実装までしたというところが評価されたのではないでしょうか。

小林- LLM(大規模言語モデル)もそうですが AI をうまく使っていたと感心しています。どちらかと言うとなんでも AI 任せになりがちですが、要素としてうまいこと組み入れて、それぞれの要素が発展すれば本当に実用的なサービスになるかもしれない、という可能性をすごく感じました。

── 実際に動くデモを本選でやってくださいました。

小林- 実際に動くというところはこだわって、絶対に何か動くようにした方が良い、と。高性能なマシンを使って動かしていました。

── 研究室の全員がコンテストに参加されているので研究に支障が出てるのではないかと少し心配もしたのですが。研究テーマとも異なりますし。

小林- バランスを取りながらやってもらおうと思っています。今月は学会があって4年生5人と修士1人が発表のスライドを作ったり原稿を書いたり、主要メンバーの4人も筑波で国際会議がありスライド発表をするのですごく忙しかったですが。

── 同時期にそんなに重なっていたのですね。テーマとの相性もありそうですが、毎年、応募していただいているのはありがたいです。

小林- 私としても OSCA はテーマがおもしろいので。テーマでむちゃぶりをしてもらって学生に考えてもらう、でも賞金が大きいので十分な見返りがある。いいバランスじゃないかと思っています。学生もやる気になりますし。

特にこれからは LLM でプログラミングはできてしまうので、プログラムが書けなくてもいいですが、アイデアは LLM に出してもらっても自分の価値観に合っていなければ仕方がなく、そこは自分が主導権を取らないといけません。自分がやりたいことをどうやって実現していくのか、テーマに合わせて何を一番重視すべきなのか考えていく能力は、コーディング能力よりもう少し広く使えるかと思います。両方やってほしいんですよね。言われたことを正確にできるのは大事ですが、それだけではつまらない。その能力を活かして自分のやりたいことに広げるには、アイデアと実現能力の両方が必要です。その両方を試せるというのはコンテストがすごくいい場だと思ってます。

── そういう場になっているのであればうれしいです。本日はお忙しいところありがとうございました。

インタラクションデザインに関する研究やアグリテック(ICT農業・IoT農業・スマート農業)に関する研究に取り組んでいます。

  • インタラクションデザイン
    人間と人工物(エージェントやロボット)との間で意思疎通を促進するために,時々刻々と変化する情報やりとり自体をデザインし,心理学や認知科学の知見を応用した新しいエージェントやロボットの研究を行っています.
  • アグリテック
    情報通信技術を活用し,AI (Artificial Intelligence)やIoT (Internet of Things)を応用した農園のモニタリングや,農業を支援するための研究を行っています.

  1. 本選の様子はひっくりかえるソフトウェアコンテスト本選レポートをご覧ください。 

  2. 過去の OSCA では書類審査が一次審査と二次審査の2回に分けて実施されていた。