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「<オージス総研をとりまく>人工知能技術の過去と現在(1)」

2017.04.17 株式会社オージス総研  乾 昌弘

1.はじめに

2017年4月にオージス総研でAIテクノロジーセンターが発足いたしました。今から約30年前に弊社でAIセンターがあったことを思い出し「歴史は繰り返す。古きを温ね新しきを知る」という観点からも、私なりに歴史をふりかえりたいと思います。ただし、記録や記憶が残っていないものも多数あり、学生時代を含めて私の経験を中心に記述してまいります。

2.人工知能技術の変遷

話しを始めるにあたり、人工知能の歴史の概要をまず述べたいと思います。

2-1.第1次AIブーム

私は経験していない時代です。
(1)人工知能という言葉が生まれ、夢が語られたが技術が追い付かなかった。
(2)人工知能言語であるLISP、Prologが誕生し、その後の人工知能に関する研究開発に寄与することになる。LISPは比較的小回りの利く言語に対して、Prologは述語論理を基本とするいわゆる高級言語でBack Trackingを頻繁に行うので、興味深い反面デバグがしにくかった印象がある。
(3)第1次AIブーム及びその後の冬の時代は、比較的インパクトが小さかったのでないかと思われる。
(4)機械翻訳は日本で特にニーズがあり、京都大学の長尾真教授(後の京大総長)を中心に英日・日英の機械翻訳の研究開発が続けられることになる。

2-2.第2次AIブーム

(1)1980年代半ば、後半を通してエキスパートシステム(核はルールベース)が、1980年代後半を通してニューラルネットワーク(Back Propagation)がブームとなった。また、Prologを核とする第5世代コンピュータの開発が日本で行われ、世界中から注目された。
(2)1990年代に初めには、ニューロ、ファジー制御搭載のエアコンや洗濯機などが続々と発売された。
(3)人間は常識を含め広い知識、深い推論によって物事を判断するが、エキスパートシステムは知識をすべてコンピュータに埋め込まないといけないために限界が露呈した。ルールベースはその後、BRMS(Business Rule Management System) として生き残っていく。
(BRMSは下記URL参考)
http://www.ogis-ri.co.jp/solution/1216105_6793.html
(4)ニューラルネットワークは中間層(隠れ層)が多い場合、Back Propagationが後ろまで伝わらないという欠点もあり、中間層は1層~2層が中心であった。AIブーム後もデータ解析(機械学習)の一手法などで使い続けられることになる。
(5)エキスパートシステムやニューラルネットワークのブームが去った1990年代後半に冬の時代を迎える。それまでは、かなり広範囲の技術に関して「人工知能で開発した」という記事や発表が頻繁にあったが、冬の時代を迎え、ピタッと人工知能という言葉が使われなくなった。

2-3.第3次AIブーム

(1)現在がそのブームの真っ直中である。50歳以上の人は「またブームが来たか」と思っている。
(2)AIブームの中心は、ディープラーニング機械学習である。知能ロボット、自動運転、自然言語理解、機械翻訳も含まれる。
(機械学習を含む統計解析は下記URL参考)
http://www.ogis-ri.co.jp/pickup/bigdata/index.html
(3)まず、入力層と出力層に同じデータを対応させるAuto Encoderを応用した教師なし学習によるディープラーニングが有名になった。
その後、教師あり学習が主流になっている。その代表格が、1979年大阪大学福島邦彦教授が提案したネオコグニトロンを原型とするCNN(Convolutional Neural Network) である。
ニューラルネットワークのノードの出力に用いられる活性化関数に、Rectified Linear Unitsを採用したのも、Back Propagationによるディープラーニングが可能になった一因である。
(4)ビッグデータ、クラウド環境の威力が技術革新に大きく寄与している。人工知能を実用化する時に豊富な計算機資源を用いることができる。第2次AIブームを経験した私にとっては、夢のような世界である。
(5)特に1対1対戦のゲームの世界は、ルールがはっきりしているうえに相手の手がわかるので、計算力が増すに連れてコンピュータが必然的に強くなっていく。昔からゲームの理論としてMiniMax、αβなどが知られている。オセロは既にコンピュータが先手必勝の状況となっている。探索空間が比較的狭いからである。
個人的には「ゲームは人間が楽しむものであり、コンピュータが勝ったからといって、大きな意味はない」と思う。

第3次AIブームの具体的な内容(詳細)は後の号で述べます

人工知能の歴史
図1.人工知能の歴史
(「特集3最新『人工知能』の核心」NIKKEI SYSTEMS 2016.9 P59を参考)

3.大学院時代の研究内容(1979年~2年間)

 まずは学生時代の内容紹介ですが、第2次AIブーム以前で世間では人工知能という言葉が聞かれない時代でした(オージス総研の前身は1983年設立なので当時は存在していません)
 大学時代にアセンブラ言語、制御理論、システム工学、機構学など学んだ私は、大学院に進学して知能ロボットの研究をしました。

3-1.研究の目的など

(1)完全自動で動くロボットよりも、ユーザの簡単な命令だけで自律的な作業を行うロボットの方が実用的であると考え研究をおこなった。
(2)写真1のような7自由度のマニピュレータ及びTVカメラ2台を搭載した移動ロボットを用いた。具体的には目標物Aと複数の障害物などを認識し、部屋の空間で障害物を避けながら、目標物Aを掴み目標地点Bに目標物を移動させて帰ってくるという実験を行った。
(3)ロボット自体に、目標物が移動しても追従する機能があり、障害物が新たに見つかれば停止する機能もある。

3-2.Frame理論の応用

(1)MITのMarvin Minskyが提唱したFrame理論は、階層構造になっており、あることがらの上位概念とはAKO (A Kind Of) リンクで繋がっている。また、If-Needed の部分で手続き的な知識を処理することもできる。
(2)Frame理論を具体化したFRL (Frame Representation Language) をAI言語LISPで記述してシステムの要素として組み込んだ。FRLにより比較的複雑な世界でも表現でき、拡張性に優れている。ここでは、2台のカメラから入力される立体視のデータから得られた複数の障害物と目標物のデータ情報などをFRLでマネジメントさせた。

3-3.最短時間経路探索

(1)障害物を回避しながら作業して帰ってくるのに、最適化の一手法であるダイナミックプログラミングで最短経路を決定した。
 (目標物まで達すると、目標物を確実に掴めるように姿勢を微修正する機能もある)
(2)万が一、ロボットが移動中に通過不能になった場合は、再び経路探索して計画をたてなおす。

使用したロボット
写真1.使用したロボット

3-4.考察

(1)当時の研究は、如何にメモリーや計算処理を節約するかが一つの目標になっていたことも、1970年代に人工知能が実用化されなかった原因の一つだと考えられる。実際、研究室に初めてハードディスクが導入された時、たしか400MBで800万円したと思う。
(2)ここで使用したFrame理論と、当時提唱されていたプロダクションシステム(ルールベース)の組み合わせが、1980年代の第2次AIブームを牽引したエキスパートシステムの主要構成となっていく。
(3)その当時の大学院工学系研究科の講義内容を見ると、最適化はもちろん、情報の構造化と利用、機械的推論、知識工学と人工知能、神経情報の工学(神経回路網モデル)、遺伝情報の工学(自己増殖モデル)なども講義されていたことがわかる。


※次号では、第2次AIブームの時の内容紹介などを行います。

「参考文献」

1.「特集3最新『人工知能』の核心」 NIKKEI SYSTEMS 2016.9 P58-P59
2.乾昌弘、吉本助教授「M12 移動ロボットの計算機制御に関する研究」東大機械工学研究報告 第16巻(1981)
3.乾、吉本「移動ロボットの計算機制御に関する研究」第24回自動制御連合講演会(昭和56年)
4.東京大学大学院工学系研究科「講義要目 授業時間表」昭和55年度
5.「人工知能」 P.H.ウィンストン 著 長尾真, 白井良明 共訳 培風館 (1980)

(謝辞)この貴重な研究の経験をさせていただいた当時の工学系研究科(現在の情報理工学系研究科 知能機械情報学)研究室の関係者の方々に感謝いたします。

「余談」

1.最適化の講義で先生が「A地点からB地点まで、、、、、」と言うと、大学院生から笑いが起きたので、先生が変な顔をしたという記憶がある。当時はザ・ぼんちの「恋のぼんちシート」がヒットし始めた時であった。
2.知能ロボットの研究をしていた時、トランジスタを組み合わせてインターフェイスを作成していたのだが、ハンダ付けが下手で苦労した。また、参考文献5.の訳本が出る前は原書を読んでいたのだが、英語力と専門知識のなさで苦労した記憶がある。
3.ある家電メーカが洗濯機の宣伝で「ニューロ、ファジーの次はステンレス漕」と言ったので、「ガクッ」ときたことがあった。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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