WEBマガジン

「<Part 2>人工知能技術の過去と現在(5)」

2018.11.12 株式会社オージス総研  乾 昌弘

1.はじめに

9月号に引き続き、今回は「Frame」に関係する3つのテーマを取り上げます。

2.「Frame理論、Frame問題、Reframe」

 「基本的な枠組み」を如何に作成するか、「従来の枠組み」に捉われない「新しい枠組み」を如何に作成するかが重要だと思います。

2-1.「Frame理論」

(1)Frame理論はMITのMarvin Minskyが提唱した理論である。「人間が何かを認識したり行動しようとする時、直接の対象だけでなく、それに関連した構造化された情報を想起しなければ、対象そのものの状況を理解することができない。」このような構造化情報をFrameと呼ぶ。
(2)Frame理論を具体化したFRL (Frame Representation Language)は階層構造になっており、あることがらの上位概念とはAKO (A Kind Of) リンクで繋がっている。また、If-Needed の部分で手続き的な知識を処理することもできる。

図1.FRLの基本概念
図1.FRLの基本概念

(3)下記の研究では、FRLをAI言語LISPで記述してシステムの要素として組み込んだ。FRLにより比較的複雑な世界でも表現でき、拡張性に優れている。
(4)このFrame理論とプロダクションシステム(ルールベース)の組み合わせが、1980年代の第2次AIブームを牽引した「エキスパートシステム」の主要構成となった。
※以下も参照のこと。

3.大学院時代の研究内容(1979年~2年間)

写真1.「参考」FRLを情報のマネジメントに使用したロボット(再掲)
写真1.「参考」FRLを情報のマネジメントに使用したロボット(再掲)

図2.「参考」メインフレーム(FRL等)ミニコン、マイコンで分担してロボット制御
図2.「参考」メインフレーム(FRL等)ミニコン、マイコンで分担してロボット制御

「参考文献」Goldstein & Roberts, "Frame Representation Language", 1977

2-2.「Frame問題」

 今回の人工知能のブームを契機に取り上げられる問題です。哲学者のデネットが次のような例を用いてこの「フレーム問題」を説明しました.
(1)「安全くん1号の悲劇
人工知能搭載のロボット「安全くん1号」は,人間の代わりに危険な作業をするロボットです。爆弾が仕掛けられている部屋から貴重な美術品を取り出してこなければなりません。「安全くん1号」は美術品の入った台車を押して美術品をとってきましたが、不幸なことに爆弾は台車にしかけられていたので、安全くんは爆発に巻き込まれてしまいました。
(2)これは「安全くん1号が」美術品を取り出すために荷車を押せばよいということは分かったのですが、そのことによって,爆弾も一緒に取り出してしまうということは分からなかったためでした。
(3)「安全くん2号の悲劇
そこで、この問題を改良した「安全くん2号」が制作されました。「安全くん2号」は、美術品を取り出しに部屋に再び向かいました。しかし、美術品を運び出すには台車を動かせばよいと思いついた後、台車を動かしたときの影響を

 ○もし台車を動かしても,天井は落ちてこない.
 ○もし台車を動かしても,部屋の壁の色はかわらない.
 ○もし台車を動かしても,部屋の電気は消えない.
 ○もし台車を動かしても,壁に穴があいたりしない.
 ‥‥‥‥

と順番に考えているうちに爆弾が爆発してしまいました。
(4)これは、べつに台車を動かしても天井は落ちてくるという影響は生じないのですが、一応考えてみないと、影響があるかどうか分かりません。しかも,台車を動かしても影響を受けないことは無数にあるため、考えるのに時間がかってしまうためです。
(5)「爆弾と美術品以外の関係のないことは考えなくてもいいのではないか?」と思うかもしれません。しかし、この場合も、壁、天井、電気などありとあらゆることについて、爆弾や美術品と関係があるかどうかを考えているうちに爆弾が爆発してしまいます。
※(1)~(5)は、以下から引用しました。
人工知能学会、人工知能の話題:フレーム問題」

図3.どこまで考えればよいのか?
図3.どこまで考えればよいのか?

※いろいろな「環境、情報」から、これからやろうとすることに「関係する事柄だけ」を取り出すことが如何に難しいかがわかります。会社で言えば「新入社員と熟練者との違い」と言えるかもしれません。

2-3.「Reframe」

(1)Reframeは、一般的に「再構成、見直す」という意味で、いろいろなところに使われていると思います。
(2)当社のWebサイトをみると
-Reframe for the Future:-リサーチ&コンサルティングで未来を創る―
それまで常識とされてきた枠組み(フレーム)を、新しい視点・発想で前向きに作り直し、新たな仮説、新たな価値を生み出します」
と表現されています。
(3)行動観察などで得られたデータ、知見などをもとに、現場で作られた固定概念を現場の関係者と一緒に見直し、新しい価値を創造することは非常に重要です。
以下も参照のこと。
オージス総研 行動観察リフレーム本部

図4.Reframe
図4.Reframe

「余談」

1.25年前のパンフレットが見つかりました。

写真2.約25年前に販売していた「音声認識システム」
写真2.約25年前に販売していた「音声認識システム」


※この音声認識システムを利用した「英会話教育システム」は以下を参照。
3.音声認識を利用した英会話教育システム

2.Session Chair と研究のプレゼン

下記のプレゼンと同じSessionで、Session Chairもお願いされたため、結構忙しかった思い出がある。
※M. Inui: "Fundamental Research on Simulation Based Intelligent Tutoring Systems" The World Conf. on Expert Systems 1991, Florida USA.

写真3.Session Chair と研究のプレゼン
写真3.Session Chair と研究のプレゼン

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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