【ルールエンジン コラム】
日本企業のグローバルビジネスにむけた挑戦
~ITテクノロジーとデジタルの活用~
第2章 グローバルな市場経済を意識して10年後存続可能な企業が進むべき展望
前回コラムでは、世界同時多発的に発生する不確実な状況下において、スピードのあるグローバル単位の経営判断が今の日本の企業がもっとも苦手とするものであるが、10年後に自社が経済的に存続可能であるように、グローバルな市場経済を意識して日本企業が進めていくべきことはなんなのか?
日本企業の変革の方向性~10年後存続可能な企業にむけて~
ここで、解決すべき問題をシンプルかつ本質的とするために、ここからビジネスにおける2つの本質的視点で熟考していく。
1つ目は、現状ある自社のビジネスの価値をどのように維持していくかであり、2つ目は、新たなビジネスの価値をどのように生み出すか、である。
我が国においては、これらの解決のヒントとなるのが、「2025年の崖」というパワーワードで有名となった、経済産業省が提唱するDX(デジタルトランスフォーメーション)であると考える。
経済産業省のDXの定義は、「企業がビジネス環境の激しい変化に対し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」である。
要約して「変動する市場ニーズをデジタルの利活用により適切にキャッチできる企業に変革し、IT技術とともに新化したビジネスモデルで競争力を確保せよ」と解釈すれば、日本版DXは1つの方向性を強く示している。
また、EUでは、2021年インダストリー5.0(第五次産業革命)の方向性の宣言がなされており、今後のグローバル市場における対応の手掛かりを図り知ることができる。
この宣言によると、ITをはじめとした各種テクノロジーは大きく革新的に進化し、各業務や事象をデジタルデータでリアルに分析できる状態となってきており、日本版DXと同方向を示している。
ビッグデータ、IoT、AIを中心に知的活動の自動化をうたった第四次産業革命に、「レジリエンス(回復力)」、「サステナビリティ(持続可能性)」、「ヒューマンセントリック(人間中心)」のコンセプトが盛り込まれたことは興味深い。今や、この3つのワードは企業経営に必要なものとして世界中で取り沙汰されているのである。
経済産業省が唱える日本版DXもEU版インダストリー5.0も、今後の産業界におけるビジョンを示すものであり、これらのストーリーのベースは、デジタルを中心としたITテクノロジーが強力に下支えして構成されている。
つまり、現状ある自社のビジネスの価値を維持していくにも、新たなビジネスの価値を生み出すにも、ITテクノロジーの最大限の利活用を避けて通れないということである。
今後、グローバルでビジネスの舵をとる場合、企業においてITテクノロジーの導入の推進や、デジタル化で構成されたデータを扱える器量がないと先へ進めず、スピードも不十分になるという懸念が強まることとなる。
日本企業の変革の障害~日本固有の問題~
高品質として世界的に名だたるMade in Japanであるが、現場中心のボトムアップで時間をかけて段階的な改善の積み重ねによって得られた差別化要素であり、日本独特の産業文化を形成してきた。
そのため、グローバル市場に変化が起こる渦中においても、日本の企業は品質をとても重要視しながら時間をかけて改善を続けた結果、バブル経済崩壊以降、過剰品質による価格競争力の悪化や製品ライフサイクルが長期化し、グローバルでの競争力を低下させていった経緯がある。
世界同時多発的に発生する絡み合った複合的な問題に対しての準備対策は、これまでよりも早く劇的な変革を実現する方法を見つけて優先度を上げて対応していかなければならない。すべてを現場で時間をかけてボトムアップで乗り切れない時代であり、改善ではなく変革を求めるのであれば、リーダーシップのあるトップダウン方式に切り替えることになるだろう。
日本企業固有の憂慮すべき特性がもう1点ある。日本企業の弱みとして、ITテクノロジーを有効的に利活用できていない、もしくは、恩恵を受ける状態に至っていない、という点である。
日本版DXの提唱後しばらくして、経済産業省からいくつかの課題を示す中間レポートが発刊された。
その中でITテクノロジーについては、多くの既存システムは、技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化等の問題が大きく、特に基幹システムの再構築にあたっては、高コストと長期化が予想され、戦略的にITテクノロジーへの投資に資金・人材を振り向ける決断がなされていない状況にあるとレポートされている。
このレポートは正しい日本の企業の状態をレポートしているものだが、急務となっている「DXの必要性」について誤解を生んだ面がある。この中間レポートを、「DXとはレガシーシステムを刷新することである」という誤った理解が一部で広まってしまったことである。また、同時に「市場競争力が現時点で確保されているのであれば、DXは後回し、もしくは不要なのでは」といった大きな誤解も生じた。
日本版DXを企業内で本格的に展開していく上では、DXでどのようにビジネスを変革するのかといった経営戦略のビジョンが極めて重要である一方で、企業内でデジタル化を果たして、ITテクノロジーの恩恵を受けるために、足元の維持コスト高となったままの基幹系既存システム群の取り扱いにおおいに憂慮する現実がある。
この取り扱いが分からずDX推進の速度が上がらないのだとするレポートもあり、大きな問題の1つであることには変わらない。
いずれにしても多くの企業が頭では理解しているのだが、実のところはITシステムをコストとしてとらえている状況は変わらない。
このコストへの意識として、日本の企業は、海外と比べてサンクコストの対処が弱い、と言われている。老朽化し刷新が必要とされているシステムの多くは、コスト回収の算段もつかず、今後、高い運用維持管理費をキャッシュアウトし続け、コストと使い勝手の点でビジネスの足かせ状態にある。この負のリスクは年々増大していくこととなる。
前述した日本のCEOが答えたアンケート「直近12ヶ月において自社業績は底堅く推移するけれども10年後に自社はない」の結果も、今後、競争力や生産性低下など他の負の要因も招き入れてしまう可能性が高いコスト構造であると、現時点で認識されての回答であると推測する。
では、10年後存続可能な企業にむけて、現在ある自社のビジネスの価値を維持し、新たなビジネス価値も創出するITシステムとは、どのようなものなのか?次回コラム「第3章 10年後存続するためのIT利活用戦略」に続く。
2024年7月31日公開
※この記事に掲載されている内容、および製品仕様、所属情報(会社名・部署名)は公開当時のものです。予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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