「全銀TCP/IP・広域IP網」対応後に見えてきたEDI運用課題と、アウトソーシングという解決策

2024年1月、ISDN回線の「INSネット ディジタル通信モード」が終了し、全国銀行協会が推奨する新たな通信方式「全銀TCP/IP・広域IP網」への移行が完了した企業も多いと思います。

しかし現場では、「とりあえず移行は済ませたものの、運用は手探り状態」「トラブル対応に時間がかかる」「セキュリティー要件が複雑で専門性が求められる」といった声も少なくありません。
移行はゴールではなく、新たなスタートです。

今、求められているのは、"運用の最適化"。その解決策の1つがEDI運用のアウトソーシングです。

本記事では、全銀TCP/IP移行後に多くの企業が直面している課題や、アウトソーシングによって得られる効果、そしてそれを支えるサービスについて詳しくご紹介します。

全銀TCP/IP・広域IP網への移行で何が変わったか?

ISDN(INSネット)のサービス終了にともない、多くの企業がEDI(電子データ交換)の通信インフラをISDNからIP網へと移行しました。
特に金融機関との取引で使用される「全銀EDIシステム(ZEDI)」では、「全銀TCP/IP手順・広域IP網」への対応を求められるようになり、企業はこの新しいプロトコルへの対応を急ぎました。

この移行によって何が変わったのでしょうか。まず、通信インフラの大きな転換が起きました。従来のISDN回線は電話回線網を利用する閉域ネットワークでしたが、広域IP網への移行により、よりオープンなIPベースのネットワークが使われるようになりました。これにより通信の柔軟性は増しましたが、一方で外部ネットワークとの接続によるセキュリティーリスクが顕在化することにもつながりました。

次に、通信プロトコルの変化です。以前は「ベーシック手順」や「TCP/IP手順」が主流でしたが、現在では「TCP/IP手順・広域IP網」による通信が主流になっています。
この新しいプロトコルは、TLS(Transport Layer Security)による暗号化通信を基本とし、より安全性の高い通信が可能になりましたが、その分設定や運用の難易度が上がったという声があります。

さらに、これらの変化にともない、以下のような新たに求められる技術要件も発生しました。

  1. 電子証明書による認証
    IPネットワーク経由の通信では、なりすましや改ざんを防ぐために、SSL/TLS証明書による相互認証が必須です。これにより、証明書の取得・更新・管理といった新しい業務が発生しました。
  2. サーバーの常時稼働と監視
    以前のISDN通信では、決められた時間だけ接続する「点の通信」が一般的でしたが、IP通信では常時接続の「面の通信」が前提となります。そのため、通信サーバーやミドルウェアを24時間365日稼働させる必要があり、障害監視や稼働状況の可視化が不可欠になりました。
  3. セキュアな通信ログの管理
    IPベースの通信では、やり取りされるデータの量や種類が多岐にわたるため、通信ログの量も格段に増加します。特に金融取引では通信履歴の完全性やトレーサビリティが求められるため、ログの長期保管や検索性の確保が重要な課題となります。

このように、全銀TCP/IP・広域IP網への移行は、単なる「通信手段の変更」ではなく、EDI運用全体の在り方を根本から見直す必要がある大きな転機でした。その結果、EDI運用においては、これまで以上にITインフラに関する専門性やセキュリティーへの深い理解が求められるようになっています。

企業がこの変化にしっかり対応するためには、社内に十分な知見とリソースが必要です。しかし、現実にはISDN時代の担当者がすでに退職していたり、対応できる人材が限られていたりするケースも多く見られます。

アウトソーシングを含むEDIソリューション概要資料

EDIソリューションの概要資料です。EDIに関するサービス内容や、4種類の主なデータ伝送サービスの概要、Web-EDIサービス、データ変換サービス、帳票配信サービス、ネットワーク接続サービスをご紹介しています。

EDIソリューション資料をダウンロードする

全銀TCP/IP・広域IP網への移行後に見えてきた、EDI運用のリアルな課題

ISDNから全銀TCP/IP・広域IP網への移行は、多くの企業にとって大きな技術的転換点となりました。しかし、新しい環境に適応する中で、さまざまな「運用上のリアルな課題」が顕在化しています。

接続先ごとの仕様差と手間

多くの企業が悩まされているのが、銀行や取引先ごとに異なる通信仕様への対応です。通信プロトコルや証明書の種類、通信タイミング、暗号化方式など、接続先によって求められる条件が異なるケースが少なくありません。
このような仕様差を吸収しながら接続を維持するには、詳細な設定変更や事前検証が必要となり、担当者の負担は大きくなります。

さらに、通信トラブルが発生した際に、どの取引先の通信が影響を受けているのかを即座に切り分けるのが難しいという声も多く聞かれます。

管理の手間と専門性の要求

EDI通信に用いるサーバーやOSの脆弱性管理も、企業にとって大きな負担となっています。Windows ServerやLinuxといった基盤OSに対しては定期的なセキュリティーパッチの適用が必要ですが、そのためには運用停止や動作検証など慎重な対応が求められます。

また、電子証明書の取得・登録・更新といった作業も定期的に発生し、更新漏れや設定ミスが通信断につながるリスクもあります。

こうした作業には高度な知識と経験が必要であり、単なる運用管理業務ではなく「ITインフラの専門性」が不可欠になります。

セキュリティー・監視の負荷増

ISDNと異なり、広域IP網を利用するTCP/IP通信では、外部ネットワークとの接続リスクが高まります。
これにともない、ファイアウォールの適切な設定、TLSによる暗号化通信の構築・維持、ネットワーク監視体制の強化といったセキュリティー対策が重要な業務となります。
特に金融EDIにおいては、情報漏洩や通信改ざんのリスクを極小化するため、リアルタイムでの死活監視や不正アクセス検知の体制も求められます。
これらは従来のISDN環境では求められなかった運用負荷であり、企業のIT部門に新たな負担をもたらしています。

通信ログの管理とトラブル対応の煩雑化

TCP/IPベースのEDIでは、通信のたびに膨大なログが生成されます。これを適切に保存・分類・検索できるようにしなければ、トラブル発生時の原因追跡が極めて困難になります。金融EDIでは、トレーサビリティ(履歴追跡性)の確保が強く求められるため、ログの完全性と検索性は業務継続に直結する要素です。加えて、複数の銀行や取引先と個別に接続している場合、それぞれのログを手作業で追跡する必要が生じ、業務の属人化や作業負担の増大につながっています。

社内に知見が不足/人的リソースが足りない

多くの企業が直面しているのが「人材不足」です。特にISDN時代にEDI運用を担っていたベテラン担当者が定年退職などで現場を離れているケースでは、TCP/IP環境での新たな課題に対応できる人材が社内にいない、または育っていないという状況が見られます。
結果として、表面的には「EDIが動いている」ように見えても、いざトラブルが発生した際に誰も対応できない、というリスクを抱えている企業が少なくありません。

EDI運用を最適化するために見直したいこと

全銀TCP/IP・広域IP網への移行を終えた今、多くの企業が次に直面しているのが「EDIの運用をいかに最適化するか」という課題です。移行そのものは一度限りの作業ですが、運用は日々続いていく業務です。継続的な対応が必要となる中で、限られたリソースや専門性の乏しさに課題を感じている企業は少なくありません。
ここで重要になるのが、「どこまでを自社で担い、どこからを外部に任せるか」という視点です。

EDI運用は、安定稼働・セキュリティー・監視・保守・障害対応・証明書の管理など、非常に多岐にわたる作業で構成されており、そのすべてを自社で内製しようとすれば、大きな負担とリスクをともないます。
特に、社内に専門知識をもつ人材が不足している場合や、担当者が限られている場合には、業務の属人化や対応遅れ、トラブル時のリスクが高まります。

こうした状況下では、運用体制の見直しが必要です。
まず、自社の業務を棚卸しし、「EDIの稼働に本当に必要な業務は何か」「自社でなければ担えない部分はどこか」を整理することが出発点となります。そのうえで、障害監視・復旧対応・電子証明書の更新・サーバーやネットワークのセキュリティー対応といった運用部分を、EDIに精通した外部の専門ベンダーにアウトソースすることで、運用負荷を大きく軽減することが可能になります。

活用効果(メリット)

EDI運用をアウトソーシングすることで、以下のような効果が期待できます。

  • 安定運用と迅速な障害対応: 専任のエンジニアによる常時監視と障害時の即応体制により、トラブルの早期発見と最小限の影響での復旧が可能になります。
  • 内部工数の削減: 障害対応や定常監視、定期的なソフトウェア更新・証明書管理といった業務を委託することで、社内リソースの余裕が生まれ、本来注力すべき業務への集中が可能になります。
  • 運用リスクの軽減: 属人化や対応遅れ、証明書更新ミスなどによるリスクを抑えることができ、継続的で確実な運用が実現します。
  • 拡張・変更にも柔軟対応: 新たな通信先の追加やEDI仕様の変更、法令改正などにもスムーズに対応できるため、将来的な変化にも柔軟に追従できます。

対象は「移行済」企業も

重要なのは、アウトソーシングの対象が「これから移行する企業」だけでなく、「すでに移行を完了している企業」にも当てはまるという点です。むしろ、「とりあえず動くようにした」状態で運用を続けている企業ほど、運用面での課題やリスクを抱えやすい傾向にあります。

特に、中堅・中小企業では、情報システム部門の人員が限られており、EDIだけでなく社内IT全体を数名で担っているというケースも珍しくありません。
そうした企業では、EDI運用に手が回らず、トラブルの対応やセキュリティー更新が後手に回ってしまうこともあります。

EDIは一度構築して終わりではなく、通信先や法令・業界動向の変化に応じて継続的な対応が求められるインフラです。その運用・管理に不安がある場合は、思い切って専門ベンダーに任せるという選択肢も、業務の安定性を考えるうえで非常に有効な手段となります。

オージス総研のEDIアウトソーシングサービス「eCubenet」

オージス総研が提供するEDIアウトソーシングサービス「eCubenet」は、全銀TCP/IP手順・広域IP網をはじめとした多様な通信プロトコルや業界標準に対応し、EDIに関わる運用業務をフルアウトソーシングで支援します。

金融EDIや化学業界(Chem eStandardsなど)を含む多くの導入実績があり、35年以上にわたってサービスを提供してまいりました。業界・業種を問わず、これまでに3,500社以上のお客様にご利用いただいています。

ご利用いただいているお客様からは、以下の点で「eCubenet」をご評価いただいています。

  1. ① サービスが安定しているので本業に専念できる。
  2. ② 「eCubenet」導入の際は、豊富な経験と実績をもった専門チームがお客様および取引先のニーズを聞き取り、最適な移行をサポート。
  3. ③ 有事の際、経験豊富な運用チームがトラブル対応やリカバリーサポート。取引先との通信エラーが発生した際は、高い専門性と調整能力をもって、原因を特定し解決している。

接続や設定の管理、監視、障害対応、電子証明書の更新・管理、脆弱性対応、さらには災害対策やBCP支援まで、EDIの安定運用に必要な要素をワンストップでご提供しています。
オンプレミス環境からクラウド環境への対応や個別カスタマイズも可能で、取引先ごとの異なる要件にも柔軟に対応可能です。

まとめ:EDIの安定運用こそが"次の課題"

全銀TCP/IP・広域IP網への対応が進んだ今、多くの企業が「移行さえ完了すれば安心」と捉えがちです。
しかし、実際にはその後の運用・保守の体制づくりこそが、本質的な課題になりつつあります。通信トラブルの切り分けや接続設定の確認、電子証明書の管理、セキュリティー監視や通信ログの保全など、ISDN時代とは比較にならないレベルの運用対応が求められています。

加えて、社内のEDI担当者がすでに退職していたり、複雑な運用を理解できる人材が限られていたりする状況では、いざというときの対応が困難になります。EDIは業務の裏側で動き続ける重要なインフラだからこそ、止めないこと・安心して任せられる体制を整えることが、これからの企業に求められる競争力の1つとなります。

オージス総研のEDIアウトソーシングサービス「eCubenet」なら、クラウドをベースに、EDIに関わる運用全般を専門家が一括で対応します。日々の煩雑な作業から解放され、障害時のリスクも軽減でき、本業に集中することができます。

EDI運用に少しでも不安を感じている企業様は、ぜひこの機会にアウトソーシングの活用を検討してみてください。

アウトソーシングを含むEDIソリューション概要資料

EDIソリューションの概要資料です。EDIに関するサービス内容や、4種類の主なデータ伝送サービスの概要、Web-EDIサービス、データ変換サービス、帳票配信サービス、ネットワーク接続サービスをご紹介しています。

EDIソリューション資料をダウンロードする

2025年6月12日公開

※この記事に掲載されている内容、および製品仕様、所属情報(会社名・部署名)は公開当時のものです。予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。

関連サービス

  • EDIアウトソーシングサービス

    オージス総研のEDIアウトソーシングサービスは、お客様のEDI(電子データ交換)を当社にお任せいただけるフルアウトソース型のサービスです。受発注業務をはじめとする、お客様と取引先の各種取引業務において、データの交換や変換等の各機能をご提供します。

関連記事一覧