会社内の「弱い紐帯(ちゅうたい)」
2016.07.22 行動観察リフレーム本部メンバー
 あなたが会社員だとして、会社のメンバーと夜のみに行くとしたら、誰に声をかけるだろうか?同じ部署で気の合うメンバー、部署は違うが個人的に付き合いがある友人、管理職の方なら日頃かわいがっている部下達など色々なパターンが考えられる。
 だが、多くの人は敢えて顔は知っているが普段接点のない人を誘うことは、してみたいと思ってもなかなか実行しないのが実情ではないだろうか。
 今回は弊社内で「とある飲み会」が盛り上がった話をぜひご紹介したい。
<きっかけのスマートフォンアプリ>
  飲み会のきっかけとなったのは1つのスマートフォンアプリだ。
当社では情報共有スマートフォンアプリのリリースに向けて社内で試行していた。社員の日々の気づきとそれに対する解釈、仮説、意見などを皆で投稿するという、いわゆる社内SNSのようなものである。
試行にあたっては社内連絡で「みなさん自由に試してください」とアナウンスがあっただけで、細かいルールはないし義務があるわけでもない。勿論これを企画・開発するにあたってプロジェクトメンバーはいるが、そのメンバーも使うノルマがあるわけではない。
試行3か月を経た現在の投稿状況は日に10件以上。内訳は頻繁に投稿するコアメンバー数名の投稿が8割を占め、あとは時々投稿するメンバーと1,2度だけ投稿メンバーの投稿が残り2割と、みごとに「80:20の法則」になっている。事業部内の社員数は100名程だが、更に閲覧するが投稿はしないメンバー、いわゆるROMメンバーもいるようで、裾野は思ったより広がっている。
投稿が活性化していく中で、人はどうしても対面でのコミュニケーションへの欲求が出てくるのか、「オフ会」をしようという話になった。それが「とある飲み会」である。
<不思議だった「とある飲み会」>
  不思議だったポイントの1つめはメンバーの構成。
 当日は9名のメンバーが集まったのだが、業務上の接点、社歴、役職、普段の人間関係を考えると全く集まりそうもない多種多様な顔ぶれ。また今回きっかけとなったアプリへの関わり度合でみてもコアメンバーもいれば見ているだけのメンバーもいるという濃淡構成であった。
 不思議だったポイントの2つめは話題。
 通常社内メンバーでの飲み会であれば会社や仕事や上司の話題が出るものだが、全くといっていい程それは出ない。最後は「今までの人生で一番美味しかったと思った料理とシーンを紹介しあう」というテーマで盛り上がるという、実に発想の広がる会であった。
何故このような飲み会が成り立ったのかを考えると、それはこの集まりが気づきをキーに社内にできた「弱い紐帯」のクラスターであるからと考える。
<弱い紐帯の強さ>
  アメリカの社会学者M・グラノヴェッターの「弱い紐帯の強さ」という有名な説をご存じの方は多いと思う。
 「紐帯(ちゅうたい)」とは文字どおり紐(ひも)や帯(おび)のことではあるが、転じて「二つのものをかたく結びつけるもの」また「 血縁・地縁・利害関係など、社会を形づくる結びつき」という意味がある。(「デジタル大辞泉」より)
  「弱い紐帯の強さ」とは『価値ある情報の伝達やイノベーションの伝播においては、家族や親友、同じ職場の仲間のような強いネットワーク(強い紐帯)よりも、「ちょっとした知り合い」や「知人の知人」のような弱いネットワーク(弱い紐帯)が重要である』という社会ネットワーク理論である。もう40年前に発表されたが、SNSが世の中を席巻するようになり再び注目をあびている。 
この言葉を知らない人でも、商品開発や新規事業などの検討あたって、部署間を超えて行う方がクリエイティブなアイデアが出るといった話には実感を持たれているだろう。我々もワークショップでよく体験する。
普段属するクラスターの人と接するだけでは、知識は深まるかもしれないが、枠を超えるのは難しい。新しい気づきは、広く気づかなかった視点の情報が集まった空間の中で、一旦全体を俯瞰してみた時に産まれてくるように感じる。
 職種や所属といった属性で構成された紐帯ははっきりと軸を持った分類的な「強い紐帯」でゆるがないが、「弱い紐帯」は類型的であり形も変える。 
 特にプロジェクト等をきっかけとせずとも、縛りのない「弱い紐帯」が社内に常時存在することで、リフレームの風が吹きやすい土壌が育つのではないかと思う。
<社内SNSの効果>
  しかし会社という組織の中では、逆に言えばプロジェクトでもなければ縦割りの組織がつきまとい「弱い紐帯」は自然発生的には出来にくい。
 今回のアプリのような社内SNS的サービスは、縦割り組織の中にあっても弱い紐帯を作るのに確かに有効かと感じている。
 既にインナーコミュニケーションにSNSを導入している企業もあるし、最近では「社内ミートアップ」というものを導入している企業もある。
 「ミートアップ」はもともとインターネットの世界から発展してきたイベントで、共通の興味を持った人が気楽に出会って話す「オフ会」のようなものである。
 企業内の場合は、「テーマについて部署間を問わず集まって意見交換をするカジュアルなミーティング」として取り入れられているようだ。
 「うちの会社って情報はあるのに、全く横の連携がないんですよ」といった声を、クライアントさんから時々お聞きする。
 無理して作る連携よりも、従来とは違った仕掛けの中で出来てくる緩い繋がりが、企業の中で潜在的なクリエイティビティを持つ「弱い紐帯」に通じていくと私は思う。
(参考文献)
 Granovetter, Mark;(1973)"The Strength of Weak Ties"; American Journal of Sociology, Vol. 78, No. 6., May 1973, pp 1360-1380. [マーク・グラノヴェッター(大岡栄美訳)「弱い紐帯の強さ」野沢慎司(編・監訳)『リーディングス ネットワーク論-家族・コミュニティ・社会関係資本』勁草書房,2006年]

※この記事に掲載されている内容、および製品仕様、所属情報(会社名・部署名)は公開当時のものです。予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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