プロが解く観察力の鍛え方 第1回
「気づき力」を高めるために必要な2つのこと
「気づく」とは「それまで気にとめていなかったところに注意が向いて、物事の存在や状態を知る」と定義されます(デジタル大辞泉)。自ら何かに気づくこと、そして気づきの数を増やすことは、状況の変化を察知したり、発想の幅を拡げたりすることにつながります。「気にとめていなかったところに注意が向いて...」とあるように、気づき自体は意識のコントロールで増やすことが可能です。
当社のリサーチ業務にて日々活躍する社員の実体験を通じて「気づき力」の重要性と、インサイトを導き出す時に陥りがちな注意点を3回の記事でご紹介します。
【連載コラム】プロが解く観察力の鍛え方
第1回「気づき力」を高めるために必要な2つのこと
第2回気づきだけではまだ足りない~インサイトが刺さらない理由~
第3回あなたのユーザーインサイトはユーザーが見えるか?
今回のコラムでは、インサイトを導き出す第一歩、「気づき力を高めるために必要な2つのこと」をお伝えします。
「新しいアイデアにつながる気づきを日常から見つけたい。でも、なかなか見つからない。」 「使える気づきを見つけるには、元々の才能やセンスが必要なのでは・・・」 いざ、ご自身でデータを集め始めた時、そんな気持ちを持ったことはないでしょうか。
かく言う私自身も、以前はそう感じていました。しかし、今は違います。気づきは、才能やセンスがなくても、鍛えれば集められるようになるのだと実感したからです。本コラムでは、私がどのように気づき力を鍛えていったのか、ご紹介したいと思います。
気づきに出会えないのはセンスや行動範囲の違いだと思っていた
まず、私自身のプロフィールを簡単にご紹介します。 保育園児2人の子育て中で、基本在宅、かつ時短勤務です。仕事の実務経験が浅いため、経験を積んで気づき力を上げたい思いを持ちつつも、時間の都合で調査現場へ行きにくい状況にもどかしさを感じていました。
今年の初め、チーム内スキルアップ活動として、コロナ禍の生活者インサイトを出すために、一定期間、日々の出来事から気づきを収集しました。当初の私は、「これは!と思う気づきに出会ったらメモをしよう」の受け身の姿勢。しかし、行動範囲は家と保育園の往復+近所の公園程度です。狭い行動範囲の中で、あまり数は集まりませんでした。
他のメンバーの気づきを見て、 「さすが、感度がいいな」 「街に出れば、こんな気づきに出会えるんだ」 と感じていました。多彩な気づきを出せるのは、センスや行動範囲の違いだと捉えていたのです。
そんな折、観察力アップの1つとして、プロのイラストレーターから絵の描き方を学ぶ機会がありました。その後もトレーニングのために、受講メンバーで毎日絵を描き続けることに。定例ミーティング内の7分間程度でしたが、日々続ける中で、絵を描く視点がものの観察に応用できると実感し、気づき方にも変化があらわれたのです。
ユーザーインサイト関連の研修と資料をご紹介します

● 研修・トレーニング
ユーザーインサイト導出の基礎情報となる、ユーザー実態を収集する方法を学べます。
ユーザーの実態を紐解き、事実・実態の背景を掘り下げていくための実践知を学べます。
● 資料ダウンロード
「キッチンの商品開発に 関するエスノグラフィ調査」にて、ユーザー実態把握からインサイト、新たな製品アイデア導出までの事例をご覧いただけます。
気づき力を鍛えるために必要な2つのこと
私自身の変化から学んだ、気づき力を鍛えるために必要なことは下記の2点です。
1. 見かたの方法(工夫)を知ること 2. 学んだ工夫を日々の練習で実践し続けること
知るだけでもなく、やみくもにやってみるのでもなく、「ちゃんと知って、ちゃんと練習する」がポイントであると考えます。では、1つずつ詳しくご説明します。
1. 見かたの方法(工夫)を知る
描画から応用した例として1つ紹介します。それは、「1点に集中して、細部まで見る」という見かたです。
人の顔を描く課題で、まず目を描こうと決めました。そして、他のパーツを隠し、今、見えている目に集中します。すると、二重の形、まつ毛の生え方、黒目に映る光 等、顔全体の一部として目元を描いていた時には気づかなかったところにまで気づき始めたのです。
なぜ、最初は気づかなかったのでしょうか。視野に入るもの全てを眺めると、膨大な情報量になります。すると、絵を描くプロセスが、
1. 目の前のものを見る前に、「目ってこうだな」という思い込みが頭に浮かぶ 2. その確認として対象物を見る 3. 「やっぱりそうだった」と納得したことを絵にする
という流れになっていたのです。しかし、他のパーツを隠し、目の前にあるものに集中する状況を作ったことで、思い込みが使えなくなり、今まで見えなかったものが見えてきたのだとわかりました。
2. 学んだ工夫を日々の練習で実践し続ける
私自身、絵画講座を受けた時点で、見かたの方法をわかったつもりになっていました。しかし、今振り返ると、それを日常のものの見かたにまで反映できていなかったと感じます。自分の身になっていなかったのです。講座受講後、毎日、絵を描き続けることで、「よく見れば、いくらでも発見はある」と実感しました。その体験を繰り返すうちに、新たな発見のためによく絵を観察するようになっていったのです。
そして、気づき収集も、「気づいたら書こう」という受動的な見かたから「気づこう」という能動的な見かたに変わっていきました。「気づきは待っていても出会えない、自分から探しに行くことで発掘できる」と日々のトレーニングから学んだのです。
ユーザーインサイト関連の研修と資料をご紹介します

● 研修・トレーニング
ユーザーインサイト導出の基礎情報となる、ユーザー実態を収集する方法を学べます。
ユーザーの実態を紐解き、事実・実態の背景を掘り下げていくための実践知を学べます。
● 資料ダウンロード
「キッチンの商品開発に 関するエスノグラフィ調査」にて、ユーザー実態把握からインサイト、新たな製品アイデア導出までの事例をご覧いただけます。
繰り返される日常から気づきを発掘する
「代わり映えのしない生活には気づきがない」と思っていましたが、見かた次第で見つけられるはずです。早速、実践してみました。
保育園の送迎時から気づきを発掘してみることに。毎日通っている門から教室前までのルートの中で、園庭に焦点を当て、絵画同様に集中して見てみました。
園庭で最初に気づいたのは、花壇に咲くチューリップでした(当時は3月)。昨日も咲いていたはずですし、去年も咲いていたはずです。しかし、全く気づいていませんでした。それは、今まで園庭を通る時、「教室にいる子供たちはどんな様子かな」「先生に○○を伝えておかないと」など、教室のことばかり考えており、見ようとしていたものも教室の中だけだったからです。園庭は視界に入っていたものの、見る意識がなかったので、そこあるもの1つ1つがわかっていませんでした。園庭を見る対象として意識したことで、今までぼやけていたものがありありと見えるようになりました。
これらの出来事から、「そもそも、チューリップが最初に目にとまったのはなぜ?」「その時の気持ちはどうして生まれたのだろう」と考えました。まず、自分の状況を振り返ると、以前は、街・店頭の大々的な飾りつけやシーズンごとのイベントから、「次はこの季節」という四季の変化を気づかされていました。しかし、街へのおでかけも、イベントもなくなり、家と保育園との往復の日々になったことで、派手な風物詩に触れる機会が減っていました。
そのような背景から、「まず、チューリップを見つけたのは、カラフルなものが一層鮮やかに映ったからではないか。そして、単調な日々の中で変化に飢えていたために、久々に感じた冬から春への移ろいが、より心に沁み、春の息吹を感じたことで、こわばっていた心がほぐれて、気持ちが一気に高まったのではないだろうか」と自分の心の動きを掘り下げることができました。
繰り返される日常や、些細な出来事の中でも、とことん丁寧に見つめることで、今まで気づかなかった事実を見つけ出せました。そして、その事実を深く考えることで、見過ごしていた自分の状況や欲しているものを実感するに至りました。
気づきは出会うのではなく見出すもの
「気づき」は見かたを工夫し、日々練習することで集められるようになります。私のように、時間や行動の制限があっても、日々コツコツと積み重ねていけば問題ありません。そして、気づきを見出すには「この場から気づきを見つけよう」という能動的な姿勢が大切です。工夫を学ぶこと、練習することの両方を実践することで、その姿勢が身になっていくと考えます。
(2021年12月16日 株式会社オージス総研 行動観察リフレーム本部 大出 絢香)
「何かに気づくのは見かたの工夫」というのは、至極当たり前のように感じられると思います。問題なのは、人間の認知的・社会的な仕組みは、大人になるにつれ「よく見る労力を節約する」ようにできていることです。気づきの量や種類を増やすためには、気づくための仕組みの理解とともに、新しい癖を身に着けるための練習・実践が必要です。
オージス総研の「高付加価値の実現に向けたDX実践基礎講座」
オージス総研では「気づき力」を高める第一歩を踏み出したい方を対象とした、実践的な研修プログラムをご提供しています。
ユーザーインサイト関連の研修と資料をご紹介します

● 研修・トレーニング
ユーザーインサイト導出の基礎情報となる、ユーザー実態を収集する方法を学べます。
ユーザーの実態を紐解き、事実・実態の背景を掘り下げていくための実践知を学べます。
● 資料ダウンロード
「キッチンの商品開発に 関するエスノグラフィ調査」にて、ユーザー実態把握からインサイト、新たな製品アイデア導出までの事例をご覧いただけます。
※この記事に掲載されている内容、および製品仕様、所属情報(会社名・部署名)は公開当時のものです。予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。
関連サービス
関連記事一覧
安全を優先する組織文化を作るために
新規事業成功のための行動観察を用いた顧客理解
~顧客理解=人間理解のススメ~【イベント開催レポート】生成AIとエスノする!行動観察リサーチャーが今語りたいGPT-PJシェア会
【セミナー開催レポート】<三菱電機株式会社講演>勘・コツ・ノウハウを次世代へ!行動観察による技能伝承
「デザインリサーチ」で人の本質的なニーズを捉える~考え方・手法・注意点~
良いUXを考えるための土台となる、「UXリサーチ」の考え方
「レンゴー株式会社登壇|シェアNo.1企業が挑む、パッケージの新たな価値の創出」セミナー開催レポート
現場の安全性向上を目的とした行動観察
業務可視化を成功させノウハウや技術の伝承を実現する重要なポイント
新規事業立ち上げの成功ガイド:押さえておくべきポイントと秘訣
成功する商品開発のプロセスとは?6ステップで解説
「日本マクドナルド登壇 行動観察によりヒトを知り尽くせ!現場イノベーションセミナー」セミナー開催レポート
「島津製作所に学ぶDX時代における製造現場の品質維持の取り組み」
セミナー開催レポート(株式会社島津製作所様)ウェアラブル端末導入による仮説生成
「生活者インサイトリサーチにおける新たな挑戦」セミナー
開催レポート(2)(ハウス食品株式会社様)「生活者インサイトリサーチにおける新たな挑戦」セミナー
開催レポート(1)(花王株式会社様)プロが解く観察力の鍛え方 第3回
あなたのユーザーインサイトはユーザーが見えるか?イノハブ開催レポート
プロが解く観察力の鍛え方 第2回
気づきだけではまだ足りない~インサイトが刺さらない理由~Safety-Ⅱを用いた安全性向上支援 ~レジリエンス工学に基づく安全の取り組み~
ミステリーショッパーのメリットと「現場の気づき」の重要性
安全性診断サービス
新規事業開発の成功プロセス「アイデア出しの3つの手順」
360度カメラ映像による行動観察
DXによる事業課題解決に向けたプロセス ~「デザイン思考」と「アジャイル開発」~
行動観察×AI
「気づき」について考える【前編】
「気づき」について考える【後編】
デジタルトランスフォーメーションの課題と実現に向けたアプローチ
リスクマネジメントと現場の気づきの重要性
ビジネスにおける行動変容のためのアプローチ
カスタマージャーニーマップ作成のポイント
「働き方改革」の実現に向けた現場・現物・現実の重要性
成功するファシリテーションとは?ファシリテーターに求められること
潜在的なヒヤリハットの把握による安全性向上
ワークショップによる本質的なソリューションの創造
デザイン思考と新価値創造
新たな価値創造のための3つのヒント
安全品質の向上のための3つのヒント
鉱脈ナビ@美容市場 - 美容にモヤモヤ感を抱える未充足クラスター
"型のマネだけにならない"ノウハウを可視化して現場に活かす - スキル・マインドの両面から -
鉱脈ナビ@お出かけ市場 - 「家ソト&街ナカの活性化」 に貢献する6ターゲット
自主調査レポート「鉱脈ナビ@家ナカ市場」
コミュニケーションについての定性調査のデータを公開
日常の些細な定性情報から本質的なニーズを導く
70代を迎える団塊世代の兆しを探る
リフレームに必要な3つの「マインドセット」
アナログは今後どうなるのか
「わからない」に触れる価値
「リフレーム」について考える
会社内の「弱い紐帯(ちゅうたい)」
「インサイト」について考える【後編】
「インサイト」について考える【前編】
「返報性」のキャッチボール
赤ちゃんの泣き声を許せる自分になるには?
グルメ口コミサイトに見る、サービスの事前期待と事後評価の重要性
ブランディングとしての組織づくり
パリのメトロにて:サービスの「主語」は誰か?
京都嵐山駅で見かけた、観光気分を盛り上げる配慮
ジムとモチベーションと私
「ゆるくつながる」
ロボットのいる社会から人の社会を見る