現場の安全性向上を目的とした行動観察
 
製造業や建築業の仕事には、工事現場や製造現場など"現場"があります。現場作業において、安全性向上は切り離せない課題です。安全性向上のために現場の作業者や責任者、安全担当部署、業務改善部署などさまざまな人や部署が関わり合いながら、日々改善に取り組んでいます。
しかし、改善によって一定の効果が見られるものの、事故が減らないといったお悩みをお客様からよく伺います。
「改善」は起こってしまった事故に対する対応策にはなりますが、その内容によっては根本的な解決には結びつかないことも多々あります。それは、その事象のみに着目してしまうためだと考えます。オージス総研では、起きた事象の解決だけではなく、そのもとになった原因を見定め、根本的な解決をお手伝いしています。そして、そこで用いるのが行動観察です。
本コラムでは、オージス総研が安全性向上で実施している行動観察の内容の一部や、根本的に解決するために実施していることについて紹介します。
現場での観察を始めるために行っていること
安全の領域で、お客様からオージス総研にいただく依頼の多くは、安全における問題の発見と施策案の提示です。上述したように、さまざまな人や部署が日々改善に取り組んでおられますが、事故が依然として起こり続けるのは、お客様ではまだ気づいていない問題があるためです。その問題をオージス総研が発見し、安全性向上につながる施策案を提示します。
問題発見のためにオージス総研は、現場での行動の観察や、管理者や作業の責任者へのインタビューを実施します。行動観察とインタビューを併せて実施することで、人と場を深く理解します。人や場ではないもの、例えば、ルールや手順などで見えてくるものもありますが、そのルールや手順を実施するのは人であり、その現場で行われるものです。ルールや手順書は記述のされ方で解釈の余地があることもあり、実施する人によって、解釈は異なってくるので、人と場の深い理解が必要となってくるのです。
オージス総研の調査では現場にいきなり行って観察やインタビューを行うことはありません。詳細な設計を行った上で現場に向かいます。それは調査を実施する上で「観点」が大切になるからです。調査で把握するポイントを整理することで、現場でより多くの気づきが得られます。事前に観点を得るために、お客様が実施している安全活動、現場で使用される手順書、作業者の体制や役割分担などが書かれた、お客様資料や公開文献を調べます。現場観察やインタビューで、それらに関連する実態を把握できるよう、さまざまな角度から観点を検討します。
 
詳細な行動・ヒアリングと安全の関係性
「観察」というのは、ただ漫然と見るのではなく、現場で行われる行動をつぶさに把握しています。例えば、作業現場では朝礼時に危険予知活動をしています。危険予知活動はその日に行われる作業を共有し、その作業に潜む危険と対策を考える活動です。オージス総研の観察では、危険予知の内容がどうかだけでなく、それを誰が考えているのか、どのような方法で共有しているかまで把握します。それは、これら一つ一つの安全に関わる行動が、及ぼしている影響を知ることにつながるからです。
具体的には、責任者に危険予知活動を実施している理由を聞くと「安全のために必要だから」という当たり前の回答になります。しかし、詳細な観察を踏まえて「どうして1人ずつ発表するやり方で危険予知を実施しているのですか?」と聞くと「現場のリスクを全員が考え、高い安全意識で作業してほしいから」などを把握することができます。これは責任者の意図を把握することにつながり、「責任者だけが周知する」場合と、「全員がリスクを考えて発表する」場合で、作業者にとって現場に対するリスクを考える癖が身につく/身につかないの差が生じます。このように安全に影響を及ぼすことが把握できるので、つぶさに把握することが大切になるのです。
比較検討による気づき
行動観察調査では、現場の不安全なところだけでなく、安全上の工夫など良い面についても把握していきます。
例えば、整理整頓ができている現場とできていない現場を観察したとします。現場環境を整えるというのはルールとして存在しますが、具体的に「道具の整理整頓」や「通路上に躓いたり滑ったりする原因となるものを置かない」などは書かれていないことが多いです。このように、ルール以上のことをやっていることに着目することで、責任者の作業者への周知の仕方や教育方法を考えるきっかけになります。こういった、責任者間の方針の違いが問題発見につながる場合があるため、良い面にも着目することが大切になります。
安全に好ましい影響を与えると考えられる行動についても気づきを得ながら、比較を通じて背景要因を究明していきます。
背景要因の把握と解決策検討
オージス総研では、目の前で起こっている事象だけでなく、その周辺にある要因を背景要員と呼んでいます。背景要因の究明にあたっては、コミュニケーションの取り方や作業者の意識、管理者の考え方などにも着目し、広く気づきを収集しています。ただし、「問題となる行動をとった作業者個人の安全意識が低い」といった個人の要因に帰結しないことを心掛けています。個人の安全意識を向上させようとすると、「ルールを徹底するよう厳しく指導する」など、これまで社内で行ってきたであろう解決策と同じになってしまいます。
そうではなく、「責任者が問題となる行動をなぜ注意しなかったのか」、あるいは「責任者への安全管理教育を会社としてどのように行っているのか」といった点に踏み込みます。そうすることで、原因は1つではなく、複数の原因が複雑に絡み合っていることが見えてきます。このように背景要因を究明していくことで、より効果的な解決策を考えることができます。
お客様の目指すゴールまでの伴走
 
現場で得られた事実をもとに、背景要因と解決策をお客様と一緒に考え、アイデアを練っていきます。お客様が単独で実施できる施策もありますが、特に安全の領域では人の意識や行動の変化を求められる場合が多く、お客様だけでは実施が難しいものもあります。
そこで、オージス総研には心理学や組織開発の知見を持ったメンバーがいますので、その強みを生かした支援を提供しています。
例えば、責任者の安全管理上の課題に対しては、下記の方法を提供しています。
・コミュニケーション力向上を目的とした研修
・安全課題の解決に向けたワーキング
さらに、『課題解決の取り組みと振り返り』、『上長によるサポート』などを含めて組織的な活動にするなどの「仕掛け」をしています。
研修やワーキングといった施策は一時的で、一度だけ実施しても効果が得られにくいです。そのため、現場を訪問して研修やワーキングで策定した施策の実施状況を把握し、施策の成果と課題など効果を検証しています。そこからさらに、施策の定着に向けた提言や改善提案を行い、これを繰り返しながら、お客様のゴールに近づいていきます。
まとめ
このように、オージス総研では、安全性向上のために、
・入念な準備をし、
・詳細な観察や、比較をすることで背景要因まで考え、
・効果的な解決策で組織に安全が文化として定着する
ようにお手伝いをさせていただいています。
安全に特効薬はありません。改善を繰り返しながらゴールに向かう地道なステップが求められます。オージス総研は、行動観察とインタビューによって得た深い気づきと、学術的な知見を踏まえた分析をベースに、背景要因の導出および現場に沿ったソリューションの提供を行っています。現場を知っているからこそお客様と真の意味で伴走できるパートナーであり続けたいと考えています。
2023年11月6日公開
※この記事に掲載されている内容、および製品仕様、所属情報(会社名・部署名)は公開当時のものです。予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。 
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