パリのメトロにて:サービスの「主語」は誰か?

2015.11.09 行動観察リフレーム本部メンバー

 こんにちは、オージス総研の海老原です。
自他ともに認める旅行好きのわたくしですが、この夏、休暇をいただきフランスのパリに行って参りました。
パリといえば、数々の名だたる美術館や建築がある街。見どころだらけで、何を見るか選ぶのも大変!ですが、実は意外にコンパクトで、その大きさは山手線の内側くらいだそうです。そして、滞在中の足は、その街に網目のように張り巡らされたメトロがとっても便利。毎日欠かさず乗っていましたので、日本のメトロと比べて得られた気づきについてご紹介したいと思います。

 まずひとつめは、メトロのホームの電光掲示板で、次の電車が来るまでの待ち時間が表示されることです。次の次の電車までの時間もわかります。

 皆さん、ふだん乗っている電車の電光掲示板はどうなっていますか?東京メトロでは主に電車が到着する時刻そのものが表示されています。「10:57 ●●行き」といった具合ですね。大阪市営地下鉄では、時刻の表示はなく、次の電車が隣の隣の駅に到着した時点から、今どの駅にいるかわかるようになっています。「●●(2つ前の駅)→△△(隣の駅)→」という表示で、矢印も含めて、今電車がいる場所が点滅する仕組みです。
パリメトロの表示はそのどちらとも異なりますが、私自身はとてもわかりやすく、落ち着いて電車を待っていられたと感じました。なぜでしょうか。

 理由を考えてみて気づいたのは、パリメトロの表示だけ、主語が「乗客」になっているということです。「乗客があと何分電車を待つか」だけに特化した表示なんですね。だから乗客にとっては、表示を見ればそのまますっと理解できて、思考のムダがほとんどありません。日本の場合は「電車がいつ着くか」の表示ですから、主語は「電車」と言えます。いやいや、「自分がいつ電車に乗れるか」とも考えられるから、主語は乗客だ!と思われる方もいらっしゃるでしょう。確かにそれは否定できませんが、乗客にとって電車に乗る時間は未来のことであり、自分が「今」何をしなければならないのかわかる、というのが重要だと思います。ですからパリメトロの表示の方が、より乗客の立場に立った情報になっているのではないでしょうか。

 さて、ふたつめですが、切符の券売機で、クレジットカード・コイン・お札のどれが使えるものか、後ろからでも見える上部に図で書かれているものがありました。

 ふだん私はICOCAを使っているのですが、チャージするとき、1万円や5千円しか持っていないのに、券売機の前に立って、お札の入り口を見てはじめて「千円札」しか使えないことに気づいてがっかりすることがあります。この券売機のように誰でも見える場所に図で書いてあると、並ぶ前に手持ちのお金やカードが使えるかをパッと知ることができて、助かりますね。まさに「ユニバーサルデザイン7原則」の4つ目、Perceptible information(認知できる情報:必要な情報がすぐにわかること)にあたる事例だと思います。

 ここで先ほどのサービスの「主語」の話を思い出してみます。私が使った日本の券売機の場合、主語は誰でしょうか。表示は券売機のすぐ前にいなければわからない訳ですから、「券売機のすぐ前にいる乗客」と考えられます。一方、パリメトロの券売機の場合は、誰からでも見える位置に表示がありますから、「券売機で切符を買う必要のある乗客すべて」ですね。このように考えてみると、主語の設定次第で、サービスデザインというのは大きく変わると改めて気づかされます。

 さて、以上の気づきから、私は2つの問いを見つけました。
・皆さんが今提供していらっしゃるサービスの「主語」は誰でしょうか?
・それは想定しているお客さまと一致しているでしょうか?

サービスを提供する側が主語になっているサービスよりも、「お客さま」自身が主語となっているサービスの方が、当然ユーザビリティが高いものになります。さらに、券売機の事例のように、サービスを利用する可能性のある方を正しく「お客さま」として捉えられているかも重要です。
皆さまも、サービスをデザインするときに、ぜひこの問いを思い出してみてください。それだけで、「普通のサービス」が「ケアの行き届いた使いやすいサービス」へとレベルアップできるかもしれません。


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