ロボットのいる社会から人の社会を見る
2015.09.03 行動観察リフレーム本部メンバー
ここ数年、テレビやCMなどでいろいろな人型のロボットが多く取り上げられています。テレビの番組で、楽しそうに会話している場面も放送されたりしています。でも、もし、実際に街中にロボットがいたとして、あなたはどう振る舞うでしょうか?そして、その経験からどういう気付きを得るでしょうか?
私はロボットに興味があって、イベントなどが開催されていると、ちょっと足を延ばしてイベントを見に行ったりします。3年ほど前に参加したイベントは、ショッピングモールで行われていたものでした。
そのイベントでは、ショッピングモール内の通路をロボットがうろうろしていて、ロボットの視界に人が入ると、近づいてきて会話をするというものでした。実際に、ロボットの視界に入ってみると、ロボットは「こんにちは」とか「握手しよう」と言いながら近づいてきます。心の中で「おぉっ!ちゃんと認識して動いてる!!」と技術の進歩に感心しながら、ロボットの言うことに従って、「こんにちは」と返したり、ロボットと握手したりしました。そして、最後まで会話を続け、お互いに「バイバイ」と言って終了です。そのイベントでは会話をするだけで終わったのですが、イベントによっては、ショッピングモールに売ってある商品を「この商品はとてもお似合いです。」と、勧めたりするロボットもいるようです。
私は、ロボットと触れ合えて楽しくイベントを終えたのですが、ここで考えてみてください。もし、このロボットが人間だったとしたらどうでしょう?「こんにちは」「握手しよう」と近づいてきて会話が始まる。そのあと会話して、商品を売る。私は少し心構えしてしまいますし、そもそも、イベント自体参加するかもわかりません。
では、人とロボットの違いとはなんなのでしょうか?いくつかありますが、ここでは2点紹介します。
1点目は目的意識です。
イベントに参加する手前の段階ですが、その時点でロボットないしその人に対する興味が違います。ロボットの場合、おそらく多くの人は、「ロボットと会話する」ことを目的としてイベントに参加します。人の場合はどうでしょう?「人と会話する」ことは、その人が有名人・芸能人であれば目的になるかもしれませんが、多くの場合、「人と会話する」ことを目的としてイベントには参加しないでしょう。
2点目は人とロボットの距離です。
人と人とが会話をする場合、「パーソナルスペース」がお互いに存在していて、初対面であれば、ある程度の距離を取って会話をするでしょう。人は、密接距離や個体距離などの親しい人にのみ許される空間に人が入ってくると不快感を覚えます。この距離は個体差があるため、コミュニケーションを取りながらその距離を調節し、お互いにとって快適な距離をとります。
ロボットの場合、人にぶつからないための安全な距離はあるかもしれませんが、ロボット自身は当然パーソナルスペースを持ちません。会話をするその人が、その人の取りたい距離で会話をすることができます。そのため自分の個体距離内に入ってこられて不快に思うことはなく、初めて会話するその時点から、快適に話をすることができます。
他にも、ロボットの情報は正しいといった先入観を持っていたり、ロボットに対して「このロボットは商品を売ろうとしている」などの裏の意図を勘繰らないなど、人とロボットの接し方の違いは多く存在します。
このように、人と話すときに「ロボットの場合はどうだろう」とか、ロボットのイベントに参加して「人の場合はどうだろう」と、人とロボットの違いを考えてみるだけで、普段何気なく見えている日常も変わって見えてくるでしょう。また、今回は人をロボットに、ロボットを人に置き換えてみましたが、これはみなさんの日常生活やビジネスでも有効です。たとえば、思考するときに、前提となっている"何か"を別の"何か"に置き換えてみるだけで、新しい発見が得られると私は思います。
※この記事に掲載されている内容、および製品仕様、所属情報(会社名・部署名)は公開当時のものです。予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。
関連記事一覧
- 新規事業成功のための行動観察を用いた顧客理解
~顧客理解=人間理解のススメ~ - 【イベント開催レポート】生成AIとエスノする!行動観察リサーチャーが今語りたいGPT-PJシェア会
- 【セミナー開催レポート】<三菱電機株式会社講演>勘・コツ・ノウハウを次世代へ!行動観察による技能伝承
- 「デザインリサーチ」で人の本質的なニーズを捉える~考え方・手法・注意点~
- 良いUXを考えるための土台となる、「UXリサーチ」の考え方
- 「レンゴー株式会社登壇|シェアNo.1企業が挑む、パッケージの新たな価値の創出」セミナー開催レポート
- 現場の安全性向上を目的とした行動観察
- 業務可視化を成功させノウハウや技術の伝承を実現する重要なポイント
- 新規事業立ち上げの成功ガイド:押さえておくべきポイントと秘訣
- 成功する商品開発のプロセスとは?6ステップで解説
- 「日本マクドナルド登壇 行動観察によりヒトを知り尽くせ!現場イノベーションセミナー」セミナー開催レポート
- 「島津製作所に学ぶDX時代における製造現場の品質維持の取り組み」
セミナー開催レポート(株式会社島津製作所様) - ウェアラブル端末導入による仮説生成
- 「生活者インサイトリサーチにおける新たな挑戦」セミナー
開催レポート(2)(ハウス食品株式会社様) - 「生活者インサイトリサーチにおける新たな挑戦」セミナー
開催レポート(1)(花王株式会社様) - プロが解く観察力の鍛え方 第3回
あなたのユーザーインサイトはユーザーが見えるか? - イノハブ開催レポート
- プロが解く観察力の鍛え方 第2回
気づきだけではまだ足りない~インサイトが刺さらない理由~ - Safety-Ⅱを用いた安全性向上支援 ~レジリエンス工学に基づく安全の取り組み~
- プロが解く観察力の鍛え方 第1回
「気づき力」を高めるために必要な2つのこと ミステリーショッパーのメリットと「現場の気づき」の重要性
- 安全性診断サービス
- 新規事業開発の成功プロセス「アイデア出しの3つの手順」
- 360度カメラ映像による行動観察
- DXによる事業課題解決に向けたプロセス ~「デザイン思考」と「アジャイル開発」~
- 行動観察×AI
- 「気づき」について考える【前編】
- 「気づき」について考える【後編】
- デジタルトランスフォーメーションの課題と実現に向けたアプローチ
- リスクマネジメントと現場の気づきの重要性
- ビジネスにおける行動変容のためのアプローチ
- カスタマージャーニーマップ作成のポイント
- 「働き方改革」の実現に向けた現場・現物・現実の重要性
- 成功するファシリテーションとは?ファシリテーターに求められること
潜在的なヒヤリハットの把握による安全性向上
- ワークショップによる本質的なソリューションの創造
- デザイン思考と新価値創造
- 新たな価値創造のための3つのヒント
- 安全品質の向上のための3つのヒント
- 鉱脈ナビ@美容市場 - 美容にモヤモヤ感を抱える未充足クラスター
- "型のマネだけにならない"ノウハウを可視化して現場に活かす - スキル・マインドの両面から -
- 鉱脈ナビ@お出かけ市場 - 「家ソト&街ナカの活性化」 に貢献する6ターゲット
- 自主調査レポート「鉱脈ナビ@家ナカ市場」
- コミュニケーションについての定性調査のデータを公開
- 日常の些細な定性情報から本質的なニーズを導く
- 70代を迎える団塊世代の兆しを探る
- リフレームに必要な3つの「マインドセット」
- アナログは今後どうなるのか
- 「わからない」に触れる価値
- 「リフレーム」について考える
会社内の「弱い紐帯(ちゅうたい)」
- 「インサイト」について考える【後編】
- 「インサイト」について考える【前編】
- 「返報性」のキャッチボール
- 赤ちゃんの泣き声を許せる自分になるには?
- グルメ口コミサイトに見る、サービスの事前期待と事後評価の重要性
- ブランディングとしての組織づくり
- パリのメトロにて:サービスの「主語」は誰か?
- 京都嵐山駅で見かけた、観光気分を盛り上げる配慮
- ジムとモチベーションと私
- 「ゆるくつながる」