ウェアラブル端末導入による仮説生成

ウェアラブルデバイス利用の背景

　昨今のデジタルデバイスの進化は目覚ましく、中でもウェアラブルデバイスは、体表面に現れる生体情報を簡単に取得できるため、生体情報を利用した多くのサービスが生まれつつあります。特に、リストバンド型生体センサーは腕時計の一部になっていることで、生活行動の邪魔にならないため、広く普及してきています。脈拍を始めとした生体データは、多くの情報を含んでおり、今ではストレス値や、喜びや怒りなどの感情を推測することもできるようになってきました。

　一方で、ビジネスに目を向けると、DXやイノベーション、業務改革をしていくために、「新しい発見」や「創造」は近年特に必要とされてきています。この「新しい発見」や「創造」を進めていくためには、ユーザー起点、現場起点で考えることが大切であり、我々はこれに対し行動観察という手法を用いてアプローチしてきました。我々が行ってきた行動観察は、360度カメラなど様々な機器を活用していますが、主な手段は目視がメインであり、目視によって対象の行動やその周囲の関係性、環境の変化などを観察してきました。目視でしか捉えられないことも多々ありますが、一方で、細かな時間間隔での感情の変化を逐次捉えるのが難しいという側面もありました。

　本コラムでは、これまでの行動観察とウェアラブルデバイスを融合することで、ユーザーの行動や心理の理解を深化できないかと考えて行った実験をご紹介します。

ウェアラブルデバイス利用実験

　ウェアラブルデバイスが、行動観察をどこまで深化できるのか。また、仮説生成型調査の取得データに「生体データ」が加わることによって新たな価値や効果がどの程度生まれるのかを確認するため以下のようなテストをしました。

　対象者は、男性40代1名・男性50代1名の計2名です。対象者にはリストバンド型生体センサーを装着し、対象者の生活圏内を所有している自家用車で走行していただきます。その際、ファストフード店のドライブスルーを必ず利用することを条件としています。これら一連の様子をビデオで録画し、終了後にインタビューを実施しました。

　目視のみによる行動観察では図2上部のように、オーダー時に店員とのコミュニケーションエラーがあり「何度も同じことを言わされ、話が通じずイライラしている」や、前の車の状況が分からないことに対して「前に車が止まっているが、横幅も狭く、前に動くとぶつかりそうで不安を感じている」といった質的データを中心に取得しています。

　図2下部の折れ線グラフはリストバンド型生体センサーのデータとその解釈を表しています。リストバンド型生体センサーによって、細かな時系列ごとの快／不快データと、「ストレス・怒り」や「憂鬱・疲労」といった感情要素（＝新たなファクト）を加えることができます。「オーダー時に話が通じないことのイライラ」に関しては、目視のみによる行動観察からも店員との会話の様子からファクトを収集できますが、「ファストフードのオーダー前の不安さ」に関しては、表情に表れておらず、目視のみでは得られなかったファクトかもしれません。

　新たにファクトが加わったことによって、新たな解釈やインサイトが加わります。リストバンド型生体センサーを身に着けることによって得られた「オーダー前の不安」を、この対象者は同乗者との会話により低減しようとしています。「車中での何気ない会話」は、「ストレス緩和のための会話」というように解釈が変わってきます。心理学では、誰かに話を聞いてもらうことによるストレスからの解放を「カタルシス効果」と呼んでおり、まさにこの現象を捉えることができたと言えそうです。

おわりに

　今回は、運転というごく限られた状況での実験にとどまっていますが、ウェアラブルデバイスを利用することで、新たなファクトの取得と、そこから生まれる新たな解釈・インサイトが得られそうな予感が得られました。

　ウェアラブルデバイスは利用が容易なため、様々なシーンでの活用が見込まれそうです。業務改善における心理的負担の多い業務の抽出、安全性向上における不快な状況の改善、新に得たインサイトからの新規事業・新サービスの創造など、様々な展開が期待できそうです。

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