「ゆるくつながる」
2015.09.17 行動観察リフレーム本部メンバー
最近、生活者インサイトを探索するプロジェクトでよく登場するキーワードに、「(人と)ゆるくつながる」がある。異なるテーマや年代を超えて、複数のケースでみられるのだ。
例えば、女子高校生のこんな事実。
・・・SNSを通じて、「友達」の数はどんどん増える。時には、自分の意思を飛び越えるスピードで「友達」の輪が広がるため、戸惑うことや神経を使うこともある。そんなときは「一人カラオケ」などでストレスを発散することも。一方で、SNSを通じて「自分は(ひとり)ぼっちではないんだ」という安心感もある。だから、つながりを切ることはしないで、たくさんの友達と「広く」「ゆるく」つながっている。(参照:ぷちインサイト@生活現場 vol.3)
また、都会のマンションに住むおひとりさま女性のこんな事実もある。
・・・女性一人でも夜安心して飲める近所のおしゃれな居酒屋で、名前も知らない地元の人たちとその場の会話を楽しむ。それ以上の踏み込んだ付き合いをするつもりはないため、これが彼女にとっての、ほどよく「ゆるく」つながる地域コミュニティであると言える。災害時などいざという時に困ったら助けあえるような気がする。それで充分なのだ。
さらに、シニア世代でも。
・・・・早朝の公園でのウォーキングを終えた70代前後のシニア男女が、約束するでもなく三々五々(昔ながらの)地元の喫茶店に集まる。身内のことなどプライベートな話題には踏み込むことなく、あたりさわりのない会話だけを楽しむ。ゆるい空気感が漂う喫茶店は、シニア世代にとってのオアシスとなっている。(参照:ぷちインサイト@生活現場 vol.4)
なぜこのように、人は適度な距離感を保ちながら、人と「ゆるく」つながっていたいのだろう?
現代社会は、人と人との互いの距離感をうまく測ることができないため、付き合い方が難しくなっている。誰しも孤立するのはイヤだと感じている一方で、他人が自分の心にズカズカと入り込んでくるのを恐れる気持ちもある。ほどよい「心の距離感」を保ちたいと思う、いわば心理的な「パーソナルスペース」を求めているのではないだろうか。
つまり、「パーソナルスペース」とは、目に見えるリアル空間だけではなく、目に見えない「心の距離感」を保とうとする心理にも存在するのではないか、という仮説である。
「短く張り詰めた」糸であれば、摩擦が起きればすぐに切れてしまうが、「心の距離感」を調節できる「ゆるい」糸であれば、摩擦が起きてもレジリエンス(=回復)へ向けることが可能である。人は傷つけ合いたくない。だから、「短く張り詰めた」糸ではなく、「心の距離感」を調節できる「ゆるい」糸でつながっていたいのではないか。
そう考えると、「ゆるくつながる」ことが、現代社会を「強く」生き抜くための人間の知恵なのではないかと思えてくる。目に見えない「心の距離感」をそっと測って、糸の長さを調節する感覚を知らず知らずのうちに身につけているのではないだろうか。
ただし、多くの友達と「ゆるくつながる」一方で、信頼できる特定の相手とはつながりを「確か」なものとし、心と心の距離をなくして、「心理的パーソナルスペースを埋めたい」、と思う気持ちも存在する。その両極のインサイトが同じ心の中で共存しているからこそ、人との関係性にメリハリをつけている。そうやって心のバランスを保ちながら人は生きているのだと思う。
(※「快適な距離感:パーソナルスペース」・・・他人との間に距離をとることで、快適な空間・距離を保つこと。個人差はあるが、一般的に親しくない人が120cm程度の距離より近い位置に入ると落ち着かなくなると言われている。)
※この記事に掲載されている内容、および製品仕様、所属情報(会社名・部署名)は公開当時のものです。予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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