プロが解く観察力の鍛え方 第2回
気づくだけではまだ足りない~インサイトが刺さらない理由~

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前回は「気づき力を高めるために必要な2つのこと」をご紹介しました。今回はその気づきデータからインサイトを導出する過程についてご紹介します。

「インサイト(洞察)」は、新価値創造・新商品開発のみならず、現場の問題解決等、ビジネスシーンのいたるところで求められます。英語には「in」、日本語には「洞」という文字が含まれるように、インサイトを導き出す作業は、現象の「内側に入る」ことが要求されます。
「内側に入る」というのも、言うは易く行うは難し。インサイトのためのより良いメソッドを探したくなるかもしれません。どのメソッドを試してみても、もう一つ腑に落ちない場合、「やり方」よりも、もっと重要なことを見落としている場合があります。 このコラムでは、当社のメンバーが試行錯誤しながら、「現象の内側に入る」ために本当に必要なことを理解していく体験を皆様に共有します。


はじめに

新規事業のコンセプトを検討するため、観察やインタビューで得られた気づきからインサイトを導き出そうとすることがよくあると思います。

我々が気づきからインサイトを導き出す時には、以下のステップで進めていきます。
 1.気づきデータを複数集める
 2.集めた気づきデータをグルーピングする
 3.全体を見ながら、インサイトを導き出す

同様のステップで進めても、何回やっても「ピンとこない、どこかで聞いたことがある」インサイトになってしまい、頭を抱えている方も多いのではないでしょうか。私も最初にインサイト導出を行った時、上司から受けたフィードバックは「なんとなく刺さってこない、二番煎じにしか聞こえない」でした。確かに自分でもしっくりこないと感じていました。

気づき自体はいいはずなのにうまくインサイトを導き出せない。そこにはいくつかの陥りがちなポイントがあったのです。「集めた気づきデータをグルーピングする」際に起きていたことを、以前私が行った"コロナに関する気づきデータからのインサイト導出"を元に振り返ります。

気づきからインサイトを導き出すには、丁寧な類型化が必要

インサイトを導き出すためのグルーピングは、データの整理ではなく、データの中にあるエッセンスを読み取って集めていくものです。これを当社では「類型化」と呼んでいます。

類型化で大事なことは、集めたデータからグループを作る前に、1つ1つの気づきを普段とは異なるレベルで丁寧に読み解くことです。
・そのデータの中では、どのようなことが起きているのか
・登場人物はその時に何を感じたのか
・最終的にどんな気持ちになったのか
など、想像力を働かせて読み解く必要があります。これらがデータの中にあるエッセンスになるからです。

せっかく"データ整理"ではなく"類型化"をしても、この読み解きが「なんとなく」になってしまうと、最終的にピンとこないインサイトになってしまいます。最初から「なんとなく」読み解こうと考える人はいないでしょう。しかし実際に読み解いていると、いつのまにか「なんとなく」やってしまいます。具体的に、どんな「なんとなく」が起こってしまうのか、自分の作業を振り返った時に、以下の2つが起きていたことに気づきました。

「なんとなく」の読み解きが、ピンとこないインサイトを生む仕組み

1.自分にとって共感できるところだけを、つまんで使う
2.細かいニュアンスに気づかず、どんぶりでまとめる

自分にとって共感できるところだけを、つまんで使う

私がコロナに関する気づきデータを使い「類型化」を行っていた当初は、基本に忠実に進めていました。まず、1つの気づきを読むたびに、データの書き手の気持ちを想像して追体験し、深く入り込みます。次に、入り込んだ上で、グループを作るためにどのデータと一緒にしたらよいかをじっくりと考えていきました。時間を十分にとって気づきと向かい合うことで、納得できる類型化ができていると大変満足していたのですが、そのうちに脳裏をよぎってしまったのです。
「これは、時間がいくらあっても足りないのでは・・・」
集めてきたコロナに関する気づきは約100個。気づきの読み解きだけでも、1つに5分の時間をかけると500分(8時間以上!)になります。その間、読み解いた気づきをどこにグルーピングするか考えるのにさらに時間が必要です。

終わりの見えない作業に焦りと疲れが出てきつつも、何時間か作業をするうちに類型化の速度も上がっていきました。
「慣れてくると意外と早くできるものだなぁ」
しかし、これは大きな間違いだったのです。

いったい何が起きていたのでしょうか。
実は、最初は気づきを一つのまとまりとしてじっくり読んで気持ちに寄り添っていたのに、無意識のうちに気づきを「要素分解」していたのです。 どのようなことをしていたのか、実際の気づきデータを参考にご紹介します。

グループタイトル:【スーパーでのちょっとした安心感】
■コロナ以後、夕飯後にスーパーに行くことが増えた。品揃えは良くないが、混雑していないので安心感がある。
→ コロナ、スーパー、混雑していない、安心感
■旦那と一緒に近くのスーパーに買い物に行く。コロナ前は会話しながら買い物をしていたが、なんとなくしゃべることが気になってしまう。スーパーを出ると、気が抜けて、すぐにおしゃべりをしてしまった。
→ スーパー、コロナ、周りの目、気が抜ける、おしゃべり

全体を見るのではなく、気づきデータの中にある要素だけを見て、要素同士を無意識にグルーピングしていました。
さらに作業を進めるうちに、要素分解すらやめ、深く読み込むことなく「要はこういうことね」と、自分が理解できる部分だけピックアップして類型化するようになったのです。 データの中の状況や心情が理解しきれないものは、無理やりに何かに当てはめたり、「分からないから使わないでおこう」と横に置いたりするようになっていました。
これが「自分にとって共感できるところだけを、つまんで使う」です。

なぜ、ピンとこないインサイトになってしまうのでしょうか。
本来インサイトは「気づき→エッセンスの読み解き→新しい枠組み」という順番を経て、導き出すものです。しかしその時の私は、要素分解して簡単に当てはめようとしたり、さらには要素分解すらせず、自分の理解できる部分しか使わなかったりしていました。つまり「自分の考え(既存の枠組み)→気づきを当てはめる」ということをしていました。

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これでは気づきにもとづいたインサイトではなく、自分が元々持っていた考えにもとづいたインサイトになってしまいます。結局自分の考えの枠組みから脱することができず、いつまでも新しいインサイトを生むことができません。

無意識のうちに「自分の枠組み」に気づきデータを当てはめないようにするためには、自分の読み解きは、気づきの中の事実にもとづいてできているか、自分の余計な考えが入り込んでいないかを確認しながら、「類型化」を進めていく必要があります。

細かいニュアンスに気づかず、どんぶりにまとめる

上記の例を教訓として、類型化をやり直すことにしました。その中で、以下のような類型化がありました。

グループタイトル:【コロナに対するネガティブな感情】
■実家のグループLINEで母が「みんなと夕飯食べて帰ります」と父に連絡していた。緊急事態宣言中なのに、と心配になったが、「本人の判断」と自分に言い聞かせてスルーした
■電車の中で鼻水を噛んでいる人がいた。花粉症の可能性もあるけれど、「具合悪いの?コロナですか・・!?」とびくびくしてしまう自分がいる

どちらもネガティブな感情にフォーカスしており、自分としては問題がないと感じた類型化ですが、上司に指摘を受けました。 「1つ目は、家族に対しての『不満』。2つ目は、他人に対しての自分の『不安』の事実を表しているよね。『不満』と『不安』は思っている感情や感覚、気持ちの向き先が違うのに、なぜ同じグループにまとめるの?」と。この言葉を聞いて、はっとしました。

「不満」:何かに対して少し怒りのような感情がまじりつつ、言いたいけど言えない、我慢している状態
「不安」:置かれた状況によって自分に悪影響があるのではないかという落ち着かない状態

私は異なる思いのものを、ネガティブという大きなくくりにしていたのです。詳しく読み解いていくと、違いが理解できるのですが、実際に行っている時にはなかなか気づきにくいものです。

ここまで細かく読み解く必要はないと思われるかもしれませんが、実はここが重要です。 というのも、「不満」と「不安」ではその後のインサイトは違う上、出てくるアイデアの方向性もまるで違ったものになります。

「不満」のインサイトに対するアイデア:その我慢している状態を解消させるための施策
「不安」のインサイトに対するアイデア:落ち着きを与えるような方向性の施策

このように上記2つのアイデアは全く違ったアイデアになりそうです。もし、元々のように「ネガティブな感情」でくくってしまうと、
「ネガティブな感情」に対するアイデア:ポジティブにする施策
となってしまいどこにも刺さらないアイデアになってしまいます。

「なんとなく」の読み解きにならないために、筆者が上司からもらったアドバイスをご紹介します。

「その気づきの中の人の表情を思い浮かべるといいよ。不満と不安では、表情がぜんぜん違うはず。どのような表情をしているかを気づきデータから想像してみて。」

「ネガティブな感情」として一括りにしていた気づきデータの登場人物の表情を思い浮かべると、それぞれ全く違う表情であることに気が付きました。表情が違うということは、その人がその時に抱いている気持ちも異なるため、一括りにはできません。 このように、表情を思い浮かべ情景を想像することで、精緻に読み解きができるようになります。ちょっとしたコツで深いインサイトを導き出す手がかりが得られるようになります。

おわりに

類型化からのインサイトの導き出しは、表層的に読み解かず、しっかりと内面まで意識して読み込むことが重要です。

もし自分が過去導き出したインサイトを見て「ピンとこないな」と思ったら、気づきを類型化するところから見直してみてください。理解が難しいもの、自分の発想にはない変わったものがあればしめたものです。 もう一度、そこから何かを探してみましょう。

(2022年6月22日 株式会社オージス総研 行動観察リフレーム本部 水澤 麻衣)

当社がお客様からご相談いただく時、「ユーザー調査を行ってインサイトを出したけど、いまいちピンとこない」というお話がよくあります。インサイトを出すまでのプロセスを伺っていくと、「グルーピング」の部分を出てくる人や物で分ける単純な作業として行っていた、というケースがよくあります。 しっかりと読み解かないままグルーピングを行ったことが原因で、最終的なインサイトがピンとこないものになってしまっていたのです。そうならないようにするためには、事実データから人の表情や情景を思い浮かべる丁寧な読み解きを実践していくとともに、身に着けるための練習が必要です。

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