京都嵐山駅で見かけた、観光気分を盛り上げる配慮

2015.10.15 行動観察リフレーム本部メンバー

 終わり良ければすべて良しといわれるが、プロセスが大きな要素となる観光では、終わりだけではなく初めも重要である。観光客の気分を盛り上げ、観光が終わった時にまた来たいと思ってもらうためには、入口と出口の役割を果たすことの多い駅がとりわけ重要である。そんな駅での工夫を京都嵐山で見ることができる。

 京都北西部に位置する嵐山は、京都中心部からやや距離があるにもかかわらず人気の高い観光スポットで、JR、阪急、京福鉄道の3社が鉄道駅を構えている。また、京都市内からのバスも多く、足の便は至極良い。

 こうした交通事情もあり、京都でも有数の景勝地ということで、休日平日問わず、また国内外を問わず年中多くの観光客が嵐山を訪れる。渡月橋、嵐山公園、桂川、天竜寺など観光スポットには事欠かず、1日中かかっても楽しみつくすことは難しい。周辺にも観光スポットは広く点在していて、嵐山中心地から少し足をのばせば、保津川下り、嵯峨野、湯の花温泉など見どころ満載である。そんな嵐山や周辺を効率的に観光するため、レンタサイクルを利用する人も多い。

 その中で、嵐山に数多くある観光スポットを効率的に観光するには程遠いスローツールではあるが、当地で非常に目立つ乗り物に人力車がある。渡月橋の周辺では、車夫が汗だくになって人力車を引いている光景がよくみられる。辻々では客寄せの声も威勢よく響く。人力車は細い路地にも入ってくるので渋滞の原因になることもあるが、嵐山を象徴する風景のひとつにもなっている。

 人力車が嵐山の顔のひとつであることを感じさせるのが、阪急嵐山線終点の嵐山駅ホームにあるこのような人力車をデザインに取り入れたベンチである(写真 1)。このベンチはそれだけで見ると何をモチーフにしているかわかりにくいが、嵐山駅のホームにあることで、人力車をデザインしたものであることが容易に理解できる。

 また、同じホームに設置してあるごみ箱にも、親子格子に切妻屋根という京町屋を思わせる意匠が用いられている(写真 2)。このごみ箱には、3種類の形状で4つの投入口があり、野暮な説明や表示は見当たらない。それでも、どのように分別するのかがわかるように工夫されている。写真2左奥の円形の投入口は缶、瓶、ペットボトルなどの飲料容器、中央の長方形の投入口は雑誌や新聞、右楕円の投入口はその他のごみの投入口であろう。これらは投入口の形状によって十分伝わるのである。

 さらに、ホーム天井から下がる照明は、京町屋を連想させる行燈をイメージしたものらしく、オレンジの照明色がホームにレトロ感を漂わせる(写真 3)。そこまで計算してのことかどうかは不明だが、阪急電車のシンボルカラーであるマルーン色のボディーに行燈型照明のオレンジ色が美しく反射している。よく見ると、行燈型照明の上下の枠には、打ち抜きで景勝地嵐山の春秋の見どころである桜と紅葉があしらわれているのも粋である(写真4)。

 一方、阪急嵐山駅から1kmほど北にある京福電鉄嵐山線(嵐電)嵐山駅のホームには、このような足湯の設備があり、電車を待つ間や電車からホームに降り立った際には誰でも利用可能である(写真5)。

 駅は嵐山観光の入口であり出口である。入口としては、嵐山駅のホームに降り立った時、上記のような工夫されたデザインを見てこれから始まる観光への期待を高揚させる。出口としては、観光が終わって帰路につこうとホームに出た時、その日の嵐山観光で疲れた足を足湯で癒しながら、一日を思い出させる。順路はこの通りとは限らないが、嵐山観光を盛り上げ、またクールダウンして記憶に焼き付け、また来たいという気にさせる効果は抜群である。

 観光においては、駅から始まり駅で終わるというパターンは今でも王道である。最初と最後が良ければ、全体に非常に印象が良くなり、良い印象は長く記憶に残ることとなる。

これは、初頭効果(人は最初の情報が重要と考える)と新近効果(人は最後の情報に影響される)の理論にも当てはまる。駅が観光の入口および出口として重要な役割を果たすように、観光以外でも特にプロセスが重要であるとされる分野では、始めと終わりを押さえておくことがトータルでの満足感を高めるポイントとなるのである。

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