プロが解く観察力の鍛え方 第3回
あなたのユーザーインサイトはユーザーが見えるか?

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ユーザーインサイトは、「ユーザーの隠れた本音」とも言われます。ユーザーの本音を捉えることは、商品・サービスのコンセプト作りにおいて重要であり、関心の高い領域です。「隠れた本音」を引き出すにはどうすればいいのか。観察やインタビュー、データ分析のテクニックを磨いてそれを目指している方も多いでしょう。
でもその前に、どれだけの人が「自分の本音」に意識を向け、自覚しているでしょうか。
些細なことのようですが、「何食べたい?」と聞かれた時に、「何でもいい」と答えていませんか。自分の本音を曖昧に表現することが当たり前になると、他人の本音である「ユーザーインサイト」をクリアにしていく際にも、その癖が影響してきます。

【連載コラム】プロが解く観察力の鍛え方
第1回「気づき力」を高めるために必要な2つのこと
第2回気づきだけではまだ足りない~インサイトが刺さらない理由~
第3回あなたのユーザーインサイトはユーザーが見えるか?

今回のコラムでは、当社のメンバーが「ユーザーインサイト」を導出する際に、どのような苦労や気づきを得たのかをご紹介します。

目次

はじめに

ユーザーインサイトとは

おさらいになりますが、我々が気づきからユーザーインサイトを導き出す時には、以下のステップで進めていきます。

 1. 気づきデータを複数集める
 2. 集めた気づきデータを類型化する
 3. 全体を見ながら、ユーザーインサイトを導き出す

前回は刺さるユーザーインサイトを導くための下準備として、気づきの類型化を行いました。今回は「3.全体を見ながら、ユーザーインサイトを導き出す」過程で、私が以前、"コロナに関する気づきデータからのユーザーインサイト導出"の際に、曖昧な言葉のユーザーインサイトになってしまった例をご紹介します。

ユーザーインサイトの良し悪しはセンスに左右される!?

"コロナに関する気づきデータからのユーザーインサイト導出"に際し、私は約100個の気づきデータから類型化を無事に完了させていました。
類型化された気づきデータを見渡し、ここがユーザーインサイトではないかという何かを見出すところまで進めたのですが、それを表現する言葉がしっくりこないのです。自分で考えたり、類義語辞典を見てあてはめたりしましたが、どれだけ探してもぴったりくる表現が見つかりません。

どこかで見たような表現から抜け出せないながらも、絞り出したユーザーインサイトが以下になります。

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それらしくできているけど、言いたいことがよく分からないユーザーインサイトです。自分でも見出したユーザーインサイトをちゃんと表現できているとは思えなかったのですが、これ以上どうしたらよいかが分かりません。
「自分はセンスがないから、いいユーザーインサイトが出せないんだ・・・・。」
と落ち込んでいました。

見出したユーザーインサイトを上司に見てもらう機会があり、アドバイスをもらうことにしました。ユーザーインサイトを受け取った上司は、ぱっと見ただけで私に言いました。
「センスの問題じゃないわ。このユーザーインサイトだと、まだ深掘りが足りていないんじゃない?"不要なものがない"という言葉だけど、"~ない"という否定語を使っている段階で、読みが浅いと分かっちゃうんだよね。結局そこには何が"ある"の?」
上司はなぜ読みが浅いと分かったのかをしっかりと説明してくれました。

ユーザーインサイト関連の研修と資料をご紹介します

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● 研修・トレーニング

行動観察入門

ユーザーインサイト導出の基礎情報となる、ユーザー実態を収集する方法を学べます。

ユーザーインサイト入門

ユーザーの実態を紐解き、事実・実態の背景を掘り下げていくための実践知を学べます。


● 資料ダウンロード

弊社で調査したユーザーインサイト事例

「キッチンの商品開発に 関するエスノグラフィ調査」にて、ユーザー実態把握からインサイト、新たな製品アイデア導出までの事例をご覧いただけます。

「~ない」は、深掘できていない証拠

そもそも私の出した「不要なものがない」とは、どのような状態なのでしょうか。
このユーザーインサイトを出した時のイメージは、以下のようなものでした。

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ところが他の人に「不要なものがない」のイメージを聞いてみると、人によって感じ方が違うことが分かったのです。

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このように「不要なものがない」という言葉では、自分の伝えたいことを表現できていないと気が付きました。

みなさんの日常でもこんなことはありませんか?
「今日のランチ、何を食べにいく?」という話題の時に、Aさんは「中華じゃないもの。」と答えました。「じゃあカレーは?」と聞くと、Aさんから「カレーの口じゃないんだよなー」と返ってきます。
この時、ランチをどうしたらいいか悩んでしまいますよね。
この「中華じゃない、カレーじゃない」という言葉では範囲が広すぎて、本質を捉えていないのです。

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Aさんが本当に食べたいものを見極めるためには、「中華じゃない」という言葉がでてきた背景を考えていく必要があります。

なぜ「中華じゃない」のかを考えると、
 1. 昨日も中華を食べたので、違うものが食べたい
 2. 今日は暑いので、こってりしている中華は避けて、あっさりしたものが食べたい
 3. 健康診断で引っかかったので、カロリーが低いものが食べたい
などの、背景が考えられます。

「中華じゃない」と答えた理由が2番だった場合、「カレー」という提案は、Aさんにとって求めているものではありません。この場合、Aさんが「今日は暑いので、あっさりしたものが食べたい」と言っていれば、蕎麦や寿司といった提案がもらえていたでしょう。

このように背景をしっかり考えると、自分の出したいユーザーインサイトがはっきりとし、表現する言葉も変わります。
「~ない」では、少なくともそれではないということを言っているだけで、本当に求めることを表現しきれていません。
上司はそのことを指摘してくれたのです。

早速、「不要なものがない」の言葉がどういう状態なのかを深掘してみました。 なぜ「不要なものがない」ことを求めているのかを考えると、
 ・物や色が沢山ありすぎると圧迫感があり落ち着かない
 ・視覚的にもゆとりのある空間を求めている
 ・必要な時に欲しいものだけを手にしたい
でした。

ユーザーインサイトのでてきた背景を深掘することで、表現したいことが鮮明にイメージできるようになりました。
言葉のセンスがないから表現ができていなかった訳ではなく、表現すべきものを明確にしていなかったために、言葉にできなかったのです。

それらしい言葉は琴線に触れない

「不要なものがない」の部分は、上手く表現ができるようになりましたが、次につまずいたのが「価値がある」の部分でした。 みなさんも「価値観」や「違和感」というような言葉をユーザーインサイトに使ったことはないでしょうか。

大事なことやしっくりこないことなどは、人それぞれ違います。それを「価値観」「違和感」といった言葉を使えば、さまざまなニュアンスを包括的に表現できるので、耳あたりがよく、便利に使うことができます。
しかし、包括的に誰にでもあてはまる言葉というのはそれらをまとめた表現なので、「分かるけど当たり前だよね」という感想になってしまいます。

「価値観を尊重する」や「違和感をなくす」という言葉では、何に対してどうしたらいいのかが分かりません。
今回の場合も、「価値」という言葉では人それぞれ捉え方が異なってきます。 気づきデータの中の人にとっての「価値」とは何かを表現する必要があったのです。

再度類型化されたものを眺めることで、この人にとっての「価値」は 「モノや情報を減らすことで、心が落ち着き、ゆとりを持てること」なのではと考えました。

ユーザーインサイト関連の研修と資料をご紹介します

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● 研修・トレーニング

行動観察入門

ユーザーインサイト導出の基礎情報となる、ユーザー実態を収集する方法を学べます。

ユーザーインサイト入門

ユーザーの実態を紐解き、事実・実態の背景を掘り下げていくための実践知を学べます。


● 資料ダウンロード

弊社で調査したユーザーインサイト事例

「キッチンの商品開発に 関するエスノグラフィ調査」にて、ユーザー実態把握からインサイト、新たな製品アイデア導出までの事例をご覧いただけます。

紆余曲折の末、何とか出せたユーザーインサイト

導出しなおしたユーザーインサイトが以下になります。

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最初のユーザーインサイトに比べると、求めている状態がはっきりと分かるユーザーインサイトになりました。

おわりに

このようにユーザーインサイトが否定語になっている時や価値観といった大きな言葉を使っている場合は、深掘が完了していないということになります。そのようなユーザーインサイトからアイデア出しをしても、範囲が広すぎて誰にも刺さりません。

「不自由なく暮らしたい」「危険がない」などの否定語ユーザーインサイトや、「価値がある」「違和感がある」という大きい言葉のユーザーインサイトは、意外と出してしまいがちです。 その人にとっての「~がない」「価値がある」とはどういうことなのか。曖昧な言葉を明確にする習慣をつけていくことが大事だと気づきました。

(2022年9月9日 株式会社オージス総研 行動観察リフレーム本部 水澤 麻衣)

現在多くのビジネスシーンで「ユーザーインサイト」という言葉をよく耳にします。しかし、世の中で使われているユーザーインサイトの表現を見ると、あまり内容がはっきりしないものや、単なる文章の要約として扱われていることも多々あります。
ユーザーインサイトを単なる文章の要約と捉えていると、そこから新たなアイデアを生み出す際に、ターゲットやアイデアがはっきりしないものになってしまいかねません。刺さるユーザーインサイトを導き出すには、ファクトから類型化、そしてユーザーインサイトという過程とそれぞれで重要なポイントを押さえつつ、伝えるべきことの輪郭をはっきりさせ、適切な表現にしていく練習が必要です。

オージス総研の「高付加価値の実現に向けたDX実践基礎講座」

オージス総研では顧客理解を深める糸口が欲しい方を対象とした、実践的な研修プログラムをご提供しています。

・ユーザーインサイト入門
・行動観察入門

(関連資料)

・リモートワーク時代の暮らしにおける6つの生活者インサイト 【調査レポート】(2020年10月公開)

※この記事に掲載されている内容、および製品仕様、所属情報(会社名・部署名)は公開当時のものです。予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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