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「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (4)」
株式会社オージス総研

2019年08月号
  • 「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (4)」
株式会社オージス総研   山海 一剛

1.2019 年4 月10 日

行き詰っていた私にとって、「デザイン思考」は救いになるかも知れない。まだデザイン思考を詳しく学んだわけではないし、他にもっと良い何かがあるかも知れないけど、今の自分は何かひとつのことに真摯に向き合わないといけない。それには入門編ではだめだ。思い切ってワークショップ中心の研修でしっかり学ぼう。そう考えた。
でもあまり先の予定だと困る。すぐに成果が出ないのは仕方ないにしても、アクションすら起せていないようでは、新組織の管理者として失格だ。ちょっと焦りながら検索すると、ちょうど来週後半に東京で開催される3 日間の研修が良さそうに思えた。
せっかくなので大森君と2人で参加しよう。相場はわからないものの受講料は1人でも少し高め。でも調査・研究費用はもともと予算に計上してあったし、室長権限で決済できる金額だ。「せっかく室長になったんだから、これぐらいは裁量のうちよね」そう自分に言い聞かせながら、Web で申込みボタンをクリックする。我ながら平社員感覚がぬけてないなぁと心の中で苦笑いしながら。帰宅後夫にもOKがもらえたが、良く考えたら夫も出張だったら困ったことになっていた。

2.2019 年4 月19 日

3日間の研修は非常に刺激的だった。せっかくの機会なのに息子がまた熱を出さないかだけが心配だったが、これも杞憂に終わった。 まず一日目の午前はレクチャーで、デザイン思考の概要を学んだ。デザイン思考は5つのステップから成り立っているとのことだ。
 Empathize:観察・共感
 Define:問題定義
 Ideate:アイデア創出
 Prototype:プロトタイピング
 Test:検証
そして一日目午後から2日半は「新しい映画の楽しみ方を提案する」という”お題”で、5人ずつのグループに分かれてワークショップを行った。かなり実践的な内容で、実際に街頭に出て道行く人にインタビューを行い、その内容をもとに掘り下げて、「映画に対する不満や不便と思うことは何か」、「もっとこうなればいいと思うことは無いか」等をインタビューしたりもした。道行く人にいきなり声をかけてインタビューするのはかなり勇気が要ったし、私以外の人も慣れていないので、どうしても「挙動不審の男女数名」といった光景になってしまう。声をかけるのもぎこちないし、みんな不安なので数を頼んで、一人か二人の人を取り囲むようにして、声をかけるのでたいていの人は怖がって逃げてしまう。

ワークショップ

途中からそれに気付いたので、2-3 人に分かれることにしたが、もう少し気づくのが遅かったら、通報されていたかも知れない。
でも幸運なことに、コアな映画ファンを数人見つけることが出来て、映画愛を熱く語ってもらえた。これをインプットに顧客(この場合は映画を観る人)のインサイトを得て、アイデア出しを行い、プロトタイプを作って評価する。
3 日目のプロトタイピングでは、ちゃんとしたものを作るのではなく、むしろ安くても早く作ることが重要というのが講師の方の説明だったので、段ボールや色紙、カラーペンなどで「新しいアイデアを盛り込んだ映画館」を作り上げたが、小学校の図工の時間のようで楽しかった。3 日目の午後は「テスト」として、グループ毎にプロトタイプを使ってのプレゼン。人気投票で私のチームが一位になり、結構テンションがあがった。

さて、ワークショップを通してデザイン思考の考え方や進め方はわかった。「他のやり方があるかも知れない」という気持ちはまだ残っているものの「これでやってみよう」と腹をくくることができたのは大きな収穫だった。さっそく学んだことを実践しよう。来週の月曜は朝から、まる一日大森君と会議室にこもることを決めて、会場を後にした。

3.2019 年4 月23 日

昨日、まる一日かけた「2 人ぼっちワークショップ」では、まずお題を「若者層の読者を呼び戻す」と決めてスタートした。もともと新事業企画室設立のきっかけは、定期購読者や広告収入の減少であり、特にスマフォの普及などを背景にした若者世代の紙メディア離れが最大の要因であるのは明らかだ。そこで、なぜ若者が新聞を読まなくなったのかを必死に考えてみた。本来ならワークショップのときと同じように、街中で若者を捕まえてじっくりインタビューすべきだったのかも知れない。でも大森君も若者なんだし、私もまだ若者だ(…と言い切ってしまおう)。それに新事業企画室は設立1ヵ月を経て未だアウトプットがゼロ。「教科書通り」よりもスピードを優先すべきと考えた。
付箋とペンを用意することで、無口な大森君も思ったより多くの意見を出してくれた。これもワークショップで学んだことのひとつだ。大森君とのコミュニケーションのコツをちょっとつかんだ気分だ。
大森君とまる一日かけて導き出したアイデアは以下のようなものだった。
1. 若者の新聞離れの理由(インサイト)
. 自宅に配達されても、自宅にいる時間が少ないので読む時間が無い
. 持ち歩くにはスマフォに比べて大きすぎる
. 読みたい記事はごく一部で、興味の無い記事や広告が多い
. いちいち紙面を開いて、興味のある記事を探さないといけない
2. 解決策
. 日本海新報の紙面をデジタル化し、スマフォ等のデジタルデバイスで参照できるようにする
. ユーザーからは月間購読料を徴収することとするが、主な収入源は広告料とする
結果的に解決策は、すでにどこの新聞社でもやっている 「〇○新聞デジタル版」といったものだが、これをベースにして、地方新聞としての強みを加えていけば何とかなるのではないかと考えた。しかしそこまで具体化するのではなく、まずは社内の意見を聞いて協力を得よう。
今週末には大型連休に入るので、連休明けに会議を設定することとして、会議で説明したいこと、各部署から協力を得たい内容などを、それまでにまとめておくことにした。
<つづく>

*本コンテンツはフィクションです。
*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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