WEBマガジン

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (35)」

2021.02.26 株式会社オージス総研  山海 一剛

2019年10月17日(2)

「アイデアを細分化して検証項目にする」
言葉ではわかったつもりでも全くピンと来ていない私たちは、とりあえず佐野さんのファシリテートでワークショップをスタートした。

「まず、さきほど見せていただいた課題一覧、これをみると...」
と、壁に貼りだした模造紙に近づいて行く佐野さん。前回、佐野さんが出席できなかったときに、みんなで洗い出したものだ。

・販売店さんや配達員ご本人がやる気になってくれるかどうかわからない
・見ず知らずの人より安心感があるとはいえ、お年寄りが受け入れてくれるのだろうか
・カメラで撮影されることに抵抗感はないだろうか
・録画した動画を子世代に見てもらえるシステムが必要
・そもそも、どれぐらいの料金だと使ってもらえそうか

「検証には2つの段階があります。まず1段階目は、"その課題は、ユーザーにとって本当に課題なのか"、次は"どうすればその課題を解決できるのか"。たとえば、えーっと」
佐野さんが3行目を指さす。

「この"カメラで撮影されることに抵抗感はないだろうか"ですが、まずお年寄りが実際に抵抗感を感じるかどうかを検証しないといけないですね。そしてその課題が存在するなら、アイデアがその課題を解決できるのか。例えば"ウェアラブルカメラの大きさや着ける位置などで、違和感を提言できるか"などを検証しないといけないわけです。」

「あと配達員さんに関係する検証項目をもっと洗い出さないといけませんね。今のところ1行目の"新聞の配達員さんがやる気になってくれるか"だけですが、これも重要な要素なので、もっと洗い出しましょう。そうすると検証項目は、ユーザー視点と配達員さん視点の大きく2つに分けることが出来そうですね。」
と言いながら、佐野さんが会議室の壁をマスキングテープで2つに区切った。

検討項目を考えて付箋に書き、貼っていきましょうということだろうな。もう佐野さんのワークショップの流儀は心得ているので、みんな説明を聞きながら付箋とペンを手に取り始めた。

「ユーザーは、さらに2つに分かれるんじゃないでしょうか。地元の親世代と、都会の子供世代」
と大森くん。

「あ、そうですね。いいご指摘です」
追加でマスキングテープを貼って壁を3区画に区切り、それぞれの上の方に、「親世代」「子供世代」「配達員さん」と描いた付箋を貼りつけた。

「課題一覧にもあったけど、料金や報酬についても検証しないといけないのでは」
と、水沼さん。

「はい。料金体系をどうするのか、配達員さんへの報酬はどうするのか、ビジネス観点での検証項目も必要です。でもそれはもう少し後にしましょう。サービス自体に価値が無いとビジネスとして成立しないですから。」

その後、私たちはたっぷり時間をかけて、いろいろな検証項目を考えては、付箋に書き出していった。もともと課題として挙げていたものも含めて、以下のような付箋が貼られていった。

1. 親世代
・訪問するには、何時頃がいいのか
・配達員が話しかけることを、お年寄りが受け入れてくれるのだろうか
・配達員に撮影・録音されることに、お年寄りが抵抗感を持たないか
・もし訪問時に不在だった場合、どのように対応すべきか
 ...

2. 子供世代
・どの程度の長さの動画が必要か
・動画だけで十分にご両親の様子が伝わるか
・どのようにして動画を見てもらうか
・動画を見てもらえたかどうかを把握するべきか / どうすれば把握できるか
・動画はどの程度の期間保管すべきか
・動画を編集したり、音楽を付けたりする必要はあるか
 ...

3. 配達員さん
・配達員さんが引き受けてくれそうか
・単に新聞を配達するだけに比べて、どの程度余計に時間がかかるのか
・動画をアップするにはどの程度手間がかかるか
 ...

「みなさん、ありがとうございます。実際にデモなどを通して、ユーザーからのフィードバックが得られると、さらに検証しないといけないことが見つかってくるものですが、とりあえずスタートポイントとしては、これだけあれば十分だと思います。ではいったん考えるのを止めて、優先順を付けて行きましょう。」
少しペースが落ちたところで、佐野さんが声を掛ける。
「優先順の軸は、サービスとしてより本質的かどうか、ユーザーへの価値提供に直結しているかどうか、という観点でお願いします」

「あーっと、それは3つの分野を混ぜてかな、それとも3つ分野それぞれに優先順をつけるの」 福石さんの質問に対して、
「そうですねぇ、3つの分野それぞれに優先順に並べることにしましょう」
と、佐野さん。

みんなでワイワイ言いながらやってみると、大きな意見の相違もなく、並べ替えることが出来た。
「みなさん、いい感じですね。このアイデアで実現したいことのイメージが揃っている証拠ですよ」
と、佐野さんも満足そうだ。

検証項目の洗い出し
検証項目の洗い出し


改めて優先順の先頭の方だけを見ると、親世代については、"配達員さんの訪問に抵抗感はないのか"、子世代については、"動画だけで親の様子が把握できるのか(安心感につながるのか)"、配達員さんについては、"そもそも訪問員をやってもらえるのか"といった内容が集中している。

「もうご理解いただいているようですが、ちょっとだけ説明しておくと...」
プロジェクターに新たなページが投影された。
「そもそもアイデアが、本当にユーザーにとっての課題解決になるのか、言い換えるならユーザーに新しい価値を提供できるのか、その検証が最優先です。そのために小さく早く検証していく必要があるわけですね。もし大きなプロトタイプを作って多くのことを検証すると、それに価値が無かった場合、無駄が大きいだけでなく、それに気づくまでの時間もかかります。」

佐野さんの説明を聞きながら、以前佐野さんに教えてもらった事例を思い出していた。
"主婦のために、近所のスーパーマーケットで売られている食材を使った夕食のレシピを提案するサービス"というやつだ。そのアイデアを検証する初期の段階では全て手作業でやった...という話は衝撃的だった。

すると、「なんだかリーン思考っていう考え方にも似ているな」
水沼さんが言った。
「リーン思考?」
と萩原さんが尋ねる。
「製造業の考え方で、安く早くムダの無いように製品を精算するっていう考え方だよ。印刷作業の効率化に応用できないかと勉強したことがある。」

「そうなんですよ!まさにそれです!」
いつになくテンションの上がった佐野さんの声。 「先ほど大森さんがおっしゃったアジャイル開発という考え方もリーン思考に強く影響を受けています。そのリーン思考を、新しいビジネスの立ち上げに応用するという考え方があります。それをリーンスタートアップと言うんですよ。」

安く早く検証する...、それはまさに私たちに必要なことだ。大企業のように巨額の事業開発費を捻出できるわけではない。時間がかかれば労務費もかさむ。佐野さんが言う通り、まさに知恵と工夫のしどころだった。

<つづく>

*本コンテンツはフィクションです。
*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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