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「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (2)」
株式会社オージス総研

2019年06月号
  • 「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (2)」
株式会社オージス総研   山海 一剛

1.2019 年4 月1 日

「岩崎華 新事業企画室 室長を命ず」
予想通り私の抵抗は完全にスルーされて、発令が出た。新事業企画室は総務フロアだと教えられ、行ってみるとテーブルが2つだけ。あまりに小所帯過ぎて少しがっかりしつつ、天井を見上げると花柄のマスキングテープで縁取りされた「新事業企画室」の看板がぶら下がっていた。
こういう細かなところに無駄に女子力を発揮するのは京子しかいない。同期の京子も私と同じく営業部に配属されたのだが、私より1 年早く産休に入り、産休明けからは総務部に配属されている。
「ようおこしっ、室長さま!」
机を眺めていると、いたずらっぽい眼をした京子が話かけてきた。久しぶりに彼女の関西弁を聞く。「えーっと、室長はシルジャンニムやな」。筋金入りの韓流ドラマファンの京子は、ムダに韓国語を使う傾向がある。

新事業企画室

「この看板、気に入ってくれた?なんせ会社の社運をかけた新組織やからね。看板も特別バージョンやで」
全くありがた味は感じないけど、気持ちだけは受け取っておこう。なんだか母親になってから、持って生まれたおせっかいに磨きがかかってきた。特に最近は大阪のおばちゃん化が進んでいるような気がする。そのうち周りの人に飴を配りはじめるだろう。
「ところでかわいい部下はまだ来ぃへんの」
「部下?」
「あれ、異動通知みてへんの。あんた室長様やねんから部下の一人や二人おらへんとおかしいわ。言うても一人だけやけどね」
どうやらもう一人配属になっているらしい。席の片づけやら引継ぎやらで、じっくり目を通す暇なんてなかったのだ。
「あの、お疲れ様です」
ノートパソコンを持った若い男性社員がやってきた。
「あの、大森佑介です。よろしくお願いします」
ぺこっとアタマを下げた彼が、どうやら唯一の私の部下らしい。一応ちゃんと挨拶はできているけど、声が小さくて自信なさそうな感じだ。私は急に不安になった。

2.2019 年4 月3 日

とりあえず新部署に移っての2日間は、営業企画の引継ぎも残っていたので、何も出来ないまま過ぎていった。大森君には、とりあえず新事業開発室の目的などを説明したものの、具体的な指示を何も出せていない。彼もあまりしゃべらないタイプなのか、席でパソコンに顔を突っこんで何やらやっているけど、何をやっているのかわからない。さすがに私もこれではいけないと思い始めた。
「ねぇ、大森君」
「は、はい」
相変わらず声が小さい。
「前にも説明したように、社長の言う”IT を使った何か”を実現するのが、私たちのミッションなの。」
「あ、はい」
「大森君は何かアイデアない?」
「はぁ、アイデア…です…か…」
どうも反応が薄い。やっぱり今の若い子は具体的な指示を出さないと動いてくれないのね。大森君はまだ入社4 年目、先月までIT推進室にいた。「ITを使った何かをするためには、ITスキルを持った人材が必要」、おおかたそんな発想なのだろうけど、もう少し頼れる人を配属してほしかった。
社長からの要望は曖昧、部下は具体的な指示を出さないと動かない…、そのあいだにはさまれた私はどうすればいいんだろう。”中間管理職の悲哀”、唐突にそんな言葉が心に浮かんだ。でも新事業開発室は2人だけ。大森君にも何か仕事をしてもらわないと。
私はいら立ちを抑えて、質問の仕方を変えてみた。
「大森君が私の立場なら、どうする」
「僕が…室長だったら…ですか… … …」
しばらく沈黙
「とりあえず…ですね。えと、あの、ググってみます」
思わず椅子から転げ落ちそうになった。なんじゃそら。今どきの若いもんは何でもネットで解決なのか…と頑固爺さんのような言葉を口にしそうになる。でもここで私がキレても解決にはならない。
「じゃぁ、ネットで調べてみてくれる」
「はい、了解しました。でも何をですか」
どこまでも具体的な指示が必要らしい。アタマの中で必死に考えながら言葉にしていく。
「えーっと、例えばITを使って、画期的な新しいビジネスを立ち上げたとか、経営的な危機を乗り越えたとか、そんな事例は見つけられないかな」
心の苛立ちを見透かされないよう、精いっぱいの笑顔を作って優しくて理解のある上司を演じる。「もし目じりに小じわが増えたら、コイツのせいだ」と思いながら。

3.2019 年4 月5 日

「IT推進室から来ただけあって、情報処理能力だけは高いのかも」
翌日、大森君がまとめた資料に目を通したが、意外とコンパクトに要領よくまとめられていた。詳細な記事へのURLも貼り付けられているので、詳しく知りたいと思えばすぐに参照できるようにもなっている。大森君はおしゃべりが少ない分、黙々と仕事をするタイプのようで、短時間のわりにはたくさんの事例が載っていて、しかも4つのカテゴリに分類までしていた。
  1. 新しいアイデアをもとに、新たに会社を立ち上げる(ベンチャー型)
  2. 既存ビジネスとは全く違うサービスを立ち上げる(副業型)
  3. 既存ビジネスを補足したり相乗効果を狙った新サービスを立ち上げる(相乗効果型)
  4. 社内向けに構築したサービスを対外に提供する(外販化型)
最近よく耳にする企業も含まれているが。全く知らないものもあった。
「じゃあ今日は残りの時間で、これを参考に各々で新しいアイデアを考えておくことにしましょう。月曜の午前にそれぞれのアイデアを披露し合うということでいい?会議室だけ予約しておいてね」

*本コンテンツはフィクションです。
*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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