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「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (6)」
株式会社オージス総研

2019年09月号
  • 「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (6)」
株式会社オージス総研   山海 一剛

1.2019 年5 月14 日

その後の気分は最悪だった。経営会議から席に戻った私の表情をみて、京子が華厳ランチに誘ってくれたのと、会議が金曜日だったのが幸いして土曜と日曜で随分冷静になることが出来た。息子や夫と過ごす2日の間は、会社での悲しい記憶を心の片隅に追いやっておくことができる。

しかし月曜日、息子を保育園に送り届けて会社に着けば、片隅に押し込んだ記憶を引っ張り出して向き合わないといけない。なんとか冷静になれたのはいいが、冷静になればなるほど、どうすれば良かったのかが分からなくなってくる。

もう一度、アタマを整理してみよう。やはり客観的に見ても、地方新聞というビジネスに将来は無い。それをあえて私の資料の冒頭でも、いろいろな数字をあげて説明したつもりだ。もちろん部長達が言うことは間違っていないとは思う。でもあれでは総論賛成、各論反対ではないのか。あげくのはてに、責任の押し付け合いのような状態になってしまった。この会社が好きなのに、好きな会社の中で、あんな場面を生み出してしまったことすら、自分ひとりのせいに思えて本当に気が滅入った。

「それに…」
なぜ社長は助け舟を出してくれなかったのだろう。それが一番気になる。社長の命令で新事業企画室が設立されたわけだし、社長が私を選んだわけよね。
そこまで遡って考えると、だんだん社長に腹が立ってきた。「あなたにも任命責任というものがあるんじゃないですか」そう言ってやりたい。とはいえ、心の中で罵っても仕方がない。半日悶々とした結果、社長に直接言ってやろうと心に決めた。思い返せば、3月の中旬に社長に呼び出されたことが全ての発端だ。よし、ここは原点回帰だ。スケジュールを確認すると、今日の午後はこの本社オフィスにいるようだったので、怒りのエネルギーに身を任せて、アポなしで社長席に向かった。

行ってみると席に社長の姿はあったものの、携帯で誰かと電話しているようだ。出直しても良かったのだが、このまま怒りモードを持続できる自信がなかったので、席の横に立って待つことにした。やがて通話が終わり、携帯を胸ポケットに戻すと、いつものように、にこやかな顔を向けてきた。

「おおっ、ハナさん、この前の会議ではご苦労だったね。本当によくやってくれた」

梯子を外されたことをどう責めてやろうかと思っていたのに、まさか「よくやってくれた」と言われるとは思わなかったので気勢が削がれた。
「いえそんな、あの、力足りずですみません。わたし何もできていませんから」と、つい予定していたことと真逆のことを口にしてしまう。

「いや、本当によくやってくれたよ」
いぶかしげな私の表情を面白そうに見ながら言葉を続ける。
「残念ながらあれがうちの経営陣の実態なんだよ。みんな真面目だし責任感も強い。でも…いや、だからかも知れないな、みんな自分の組織や役割を最優先に考えてしまう。」

そんなことを、私なんかに言っていいのかしら。近くに他の人がいないことを確かめつつ、やはり社長室は残しておいた方が良かったのでは…と、そんなことまで気になりだした。

「私もことあるごとに、このままではダメだと言っておるつもりなんだが、やはり届いていなかったということがわかったよ。それにハナさんの資料では、そのことを根拠ある数字で説明してくれた。何をするかの以前に、なぜ必要なのかを説明してくれた。それだけでも、本当によくやってくれたよ。さすがハナさんだ。」
「でも、結果的に私のせいで議論が荒れてしまいました。」
「いや、ハナさんのせいじゃない。むしろ厳しい現実を突き付けられたからじゃないかな。不都合な真実ってやつだよ」
つまり私が社長の危機感を、代弁したということか。それにしても、いやそうであればなおのこと、なぜ助け舟を出してくれなかったのだろう。やはりそこは言っておかねば。
「そこでだ、ハナさん。ちょっと考えたんだが…」
言葉を選んでいるうちに、話題が先に進んでしまった。

「ハナさんにお願いした、"新しいビジネスを立ち上げる"なんて、今までうちの会社ではやってこなかったことだ。特にアタマの固い連中を引っ張っていくのは大変だろう。そこでだ」
にっこりして話を続ける。
「ハナさんを手伝ってくれそうな会社があったので、相談してみたんだ。実は先月、東京で日本地方新聞協会の集まりがあった機会に、その会社のセミナーを受講してみたんだよ」

「はぁ」
突然の展開に戸惑ってしまう。
「その会社が言うには、新しいビジネスを立ち上げるためには、手法に頼るだけではうまくいかない例が多いらしいんだ。関わる人たちのマインドセットを変えるとか、チームビルディングのようなものも重要らいしい。」
「で、その会社は、そういう人間的な側面も含めて手伝いますよと言っていたので、たった今電話してみたところだ」
どうやら、さっきの電話がそれだったらしい。

「そうしたら、ちょうど優秀なコンサルタントが空いていて、まずはこちらの状況を聞きに来たいと言ってるんだけど、来週でハナさんの都合のいい日はいつかな?」

急な展開で状況が呑み込めない。
コンサルタントを頼むなんて、そんな大げさな話だろうか。「必要なときには来ん(コン)、やばくなると去る(サル)、金だけはたんと(タント)取る…がコンサルタントという人種だ」…とか言ってた人がいたなぁ…やっぱりお金かかるんだろうなぁ…なんて思考がアタマを巡る。

「いえあの、そこまでしてもらっても、ご期待にお応えする自信がありません」
正直な気持ちだった。

「心配しなくても、すでに期待に応えてくれているよ。特に経営会議ではぐっじょぶだった。」
最後の単語は、あまりに社長のキャラに合わないので、脳内でひらがなに変換された。

goodjobプ

2.2019 年5 月22 日

この日、オージス総研という会社から来た人は、コンサルタントという未知の人種へのイメージとは随分違っていた。まず女性であることに驚いたし、一人で来るとも思っていなかった。

「はじめまして、佐野静香と申します」

薄手の黒のセーターと黒の上着、黒のスカートという服装、丸縁のメガネ、そして何よりも腰まである髪を2本の三つ編みにしているのが印象的だ。うちの会社にはいないタイプだな。年齢は…う~ん、私より若いということはなさそうだけど…不詳。コンサルタントというよりも、学校の先生のような感じ。これが私の佐野さんへの第一印象だった。

<第一章終わり、二章につづく>

*本コンテンツはフィクションです。
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