WEBマガジン

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (10)」

2019.11.25 株式会社オージス総研  山海 一剛

1.2019 年6 月14 日

いよいよ、AIの当日。会場にはなるべく広めの場所をと佐野さんに言われていたので、一番大きい会議室を予約していた。さらにそこから机を全て運び出して、椅子だけを扇形に並べ、扇の要にあたる場所には、小さな花の鉢植えを置いた。

「こういう対話の場には、プロセスのデザインと同じように空間のデザインも重要なんですよ。」一緒に机を運び出しながら、佐野さんが説明してくれた。「プロセスデザインとは、事前の段取りや当日の段取りを詳細に決めておくこと。空間デザインとは、安心して自分の思いが語れる空間を提供することです。まぁ、ざっくり言うならば、ですけどね。」

手分けしてリーフレットを椅子の上に置いてまわりながら、佐野さんが説明してくれる。リーフレットはワークショップの主旨や流れなどを書いたもので、口頭で説明しても済む程度のシンプルな内容だが、草花のイラストも配した少し凝ったものにした。リーフレットからも安心して気楽に参加してもらいたいという気持ちが伝わるようにしたのだが、白状するとこのデザインも京子の女子力に助けてもらったのだ。

レイアウトも考え方があるらしい。他の人との間に机があるだけでも心の距離が大きくなってしまう。また列にしたり、横長に席を並べてしまうと、近くに座っている人と遠くの人とで差ができてしまう。「だから円形に椅子を並べるのがベストなんですけどね。今日は冒頭の説明はでプロジェクタを使うから、半円にしました。」と佐野さん。
ふ~ん、そういうものなのか?と思いながら机や椅子を動かしていたけど、試しに佐野さんと並んで座ってみると、なんとなく分かるような気がした。他の人との間に机が無いだけで、何となく自分の心が見透かされているような不安感を感じると同時に、仕事用の自分を捨てて素のままでいいんだよと言われているような心地よさも感じる。
真ん中のお花も派手すぎず、いい感じだ。でもせっかく一番広い会議室なのに、1/3ほどしか使っていない。総務から文句を言われないか少し気にしながら、リーフレットを椅子の上に置いて回った。「こういう空間デザインやリーフレットを通じても、参加者にどういう風にこの場を過ごしてほしいかを伝えるのが主催者の役割です。」
佐野さんによるとそういうことらしい。

やがて役員や部長たちが集まり始めた。見慣れない会議室の様子に、誰もが入口で驚いた表情をする。

いよいよ予定の時間。社長から号令してもらったせいか、遅刻、欠席はなく、予定通りの時間にワークショップはスタートした。

最初に社長から、今回のワークショップで何が起こるかわくわくしている、みんな伸び伸びとやって欲しい、といったことを挨拶してもらった。次に私から主旨と進め方を説明した。本来は専門家である佐野さんから説明してもらうべきことではないかと抵抗したのだが、「これは新事業企画という取組みを、出席した皆さんにとって自分事にして欲しいから開催するんです。そのためには、まず岩崎さんが自分事としてとらえていることをアピールする必要があります。私にふってしまっては、それが伝わらないですよ。」と言われて、反論できなくなった。不安げな私に「ご心配なく、骨は拾いますから。」と、さわやかな笑顔で怖いことをいう佐野さん。

とてもいい感じです

ハイポイントインタビューは、2人ペアになって互いにインタビューしあう。相手から聞き出してほしい内容は、以下の3点にした。これはリーフレットにも書いてある。
  • これまでで最も達成感を感じた仕事の話を聞かせてください
  • この会社にいて良かったと最も実感したエピソードを聞かせてください
  • これまでで最も一体感を感じたチームの話を聞かせてください
そして、おおまかな流れは次のようなものだ。
(1) 二人ペアになって、互いにインタビューしあう(20 分×2)
(2)ペア単位にインタビューの結果を以下の観点で報告する(各5分)、
 ・インタビューに答えていて気付いた自分や自分たちの強み、大切にしている価値観
 ・聞いていて気付いた相手の強み、相手が大切にしている価値観
(3) 休憩(10 分)
(4) 全員でディスカッション(50 分)

参加者は8人なので4つのペアを作った。それぞれ椅子を移動させて、会議室のあちこちに散らばり、インタビューが始まった。互いの声が邪魔し合わない距離が必要なので、広すぎると感じた会議室は、むしろ少し狭いぐらいだ。

私もワークショップの1メンバーとして参加。私の相手は坂根部長。ずっと苦手意識を持っていた相手だ。でも「自分は部長のことを知ろうとしてなかったのではないか?」、準備している過程でそんな思いが強くなってきたので、あえて向きあう機会にした。

最初のうちは、「聞く値打ちがあるような話なんて、私には無いよ。」と言っていた部長だったが、その言葉を聞きつけた佐野さんが寄ってきて「どんなことでもいいんですよ。」と声をかけてくれたのをきっかけに、ようやく朴訥ながら話し始めてくれた。でも部長が語るお話しに、私は引き込まれてしまった。
<つづく>

*本コンテンツはフィクションです。
*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

『Webマガジン』に関しては下記よりお気軽にお問い合わせください。

同一テーマ 記事一覧

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (18)」

2020.05.21 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (17)」

2020.05.21 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (16)」

2020.04.20 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (15)」

2020.04.20 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (14)」

2020.03.10 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (13)」

2020.02.18 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (12)」

2019.12.16 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (11)」

2019.12.16 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (9)」

2019.11.25 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (8)」

2019.10.24 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (7)」

2019.10.24 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (6)」

2019.09.17 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (5)」

2019.09.13 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (4)」

2019.08.23 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (3)」

2019.07.16 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (2)」

2019.06.24 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛

「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (1)」

2019.05.27 共通 株式会社オージス総研  山海 一剛