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「イノベーションの育て方 ~ハナさんのストーリー~ (19)」

2020.06.24 株式会社オージス総研  山海 一剛

2019年8月22日(1)

この日も全員でエンパシーマップを取り囲んで議論。インタビュー結果をもとにエンパシーマップを作ってから、こんな風に集まるのはもう4回目だ。

「いきなり何らかの結論を出そうとするのではなく、まずは対象となる人を深く理解することに専念してください」
という佐野さんの言葉に従って、マップをインタビュイーひとりひとりにバラして貼りなおしたり、逆に似た境遇や似た考え方を持っていそうな人をグルーピングしてみたり。おかげで付箋を貼り付けた模造紙も貼られた付箋もヨレヨレになってきている。
キャラ的に、そろそろイラついて投げ出すのではないかと心配していたメンバーも、今のところ根気強く参加してくれている。特に一昨日の打合せあたりからは、インタビューのときの表情や声のトーンを思い出しては伝えあいながら進めるようになってきた。またインタビューでは聞き出せなかった家族や地元に対する考え方についても「こうなんじゃないか?」と推測するような意見も出始めた。すると佐野さんがタイミングを見計らったように、「では、ペルソナを作りましょう」と言い出した。

ペルソナとは、マーケティングの分野で使われる手法で、想定する顧客を一人の人物として描写したもの。年齢、性別、家族構成などの情報に加えて、家族への思いや、仕事に対する考え方、趣味や休日の過ごし方など、いろいろな側面を考えることで、ユーザー像を立体的に浮かび上がらせるのがポイントとのことだ。少々手間がかかったものの、似たインタビュイーの情報を組み合わせて、その日のうちに典型的な4つのペルソナを作ることができた。

ペルソナ絵はまだ

「重要なのは、そのペルソナが持っている価値観です。地元で生きることをどう考えているのか?その人にとって家族とは何なのか?例えば、ちょっとしたトラブルが起こった時、その人はどう行動するか想像できますか。それを類推できるぐらいまで理解すること。自分ならどうするか?ではなくて、その人ならどうするか?を考えられないとダメですよ。デザイン思考が言う"共感"とは、そういうことなんです。」
この佐野さんの説明を聞いたときには、皆顔を見合わせた。言ってることは理解出来るけどハードル高いなぁ、みんなそういう表情をしていた。でも、やってみるとそれなりに、しっくりくるものが出来たように思う。もちろん正解かどうかはわからないけど。

「今日は、インタビュイーの矛盾しているところや、違和感がある部分を見つけてみましょう」エンパシーマップやペルソナを眺める私たちの背中から、佐野さんが声をかける。
矛盾?違和感?みんなの表情に少し戸惑いが現れる。またまたハードル高いこと言うなぁ、今日もそんな感じで顔を見合わせる私たち。

「難しく考える必要はないですよ。例えば、"こう思うと言っている人が、なぜこういう行動をするのだろう"とか、"自分だったら、その状況でそういう行動をしないだろうな"とか、そんな部分が無いか考えて欲しいんです。」
佐野さんの言葉を聞いて、みんなあれこれと思いついたことを言葉にし始めた。

「なんか、まどろっこしぃ人が多いな」
いろいろな意見が出たけど、この萩原さんの言葉を聞いたとき、何かが見つかったような気がした。
「え、まどろっこしぃ?」
「そうそう。子供は親のことを気にしているのに、こまめに連絡するのは気が引けるとか。親も子供から電話がかかってきたら嬉しいって感じているのに、自分達に気を遣う時間があるなら孫たちの面倒を見てやってくれればいいのに...とか。まったく素直じゃないよね。」
いかにも萩原さんらしいストレートな物言いだ。

「確かにそうですね。気持ちはわかるけど、冷静に考えるとこれって違和感ですね」と、私。

「みんな、優しいんですよ」
と、大森くん。最初は遠慮がちだった彼も、最近はこのように会話に入ってくることが多くなった。
「子供とのつながりは保ちたいけど、子供の生活の邪魔はしたくない。俺も親だからわかるけど、親の気持ちって複雑だな。」
福石さんが胸で腕を組んでつぶやく。
大森くんが続ける。
「母が入院していた時、見舞いに行ってもすぐに帰れって言い出すんですよ。せっかく時間をかけて東京から戻ってきているのに。でもその時の母の気持ちって、こういうことだったんですね」

親が子供を思う気持ち、子供が親を思う気持ち。もっと自然体でいいのに、相手を思いやるばかりに距離を取ろうとしてしまう。みんな優しいんだ。そしてみんな切ないまでに不器用だ。

「いいポイントにたどり着けましたね。では次に作ってもらいたいものを説明しましょう。」
と佐野さんが切り出した。
「デザイン思考の2つ目のステップ、問題定義に入ります。」

佐野さんが説明してくれた問題定義ステップの作成物とは、「着眼点」というものだった。

<つづく>

*本コンテンツはフィクションです。
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