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「イノベーションの育て方～ハナさんのストーリー～　（２８）」

2020.10.27 株式会社オージス総研　　山海　一剛

2019年9月11日

先週、佐野さんと相談したとおり、この日はいったんアイデア出しのワークショップを見送って、宿題になっていたチームビルドのワークショップと、ITの使い方の発想を柔軟にするワークショップの２つを行うことになっていた。

ひとつめの"実はわたしトーク"と名付けたワークショップは京子のアイデアの借用。ひとり２分のミニスピーチをぐるぐると回すだけのシンプルなものだ。ルールは"実はわたし"という言葉からスタートするということ、ただひとつ。

いざ始めてみると、どれも初めて聞く話ばかり。なかには、小さいころの思い出、奥さんのことやお子さんと言ったご家族のことなど、プライベートな面を積極的に語ってくれる人も少なくなかった。それまでと比べると単なる同僚ではなく、人としての全体像が見えてきたような気がしてきた。

でもその反面、こういう活動をすることで本当に強いチームに近づくことが出来ているのかと考えると、ちょっと違う気もする。みんなも楽しんでくれたようだけど、目的を達したのかどうかわからない。企画した私としては、そんなモヤモヤが残った。

次は大森くんオリジナルのワークショップ。「業務システムに、遊び心を加えよう」というタイトルだ。

全国紙の大手新聞社ほどではないものの、うちの会社もそれなりに情報システムを導入している。グループウェアや、経理システム、人事給与システムといった業種にかかわらず必要なシステムはもちろん、記事や写真をもとに紙面を構成する新聞制作システム、印刷した紙面を各販売店に送り届ける配送システムなど新聞社ならではのシステムもある。私は詳しく知らないけど、多くはパッケージだとのことだ。また中には、他の地方新聞社と共同で開発・運用しているシステムもあるとも聞いたことがある。

ワークショップ

「...要するに、普段仕事で使っているITシステムに、スマフォアプリなどにあるような機能がついていたら、仕事がちょっと面白くなる...そんなアイデアをたくさん考えましょうという企画です。ウケを狙うこと、実現性は気にしないこと、他人のアイデアに乗っかること、この３つだけがルールです。」
大森くん自身が説明とファシリテート。

「"もし○○システムに△△する機能があったら楽しい"、こんな感じで付箋に書いていってください。」
流暢とは言えないけど、説明のときもファシリテーションのときも安心して見ていられるようになってきた。前回任せたのは佐野さんが準備していたワークショップだったが、今回はワークショップの内容から彼に考えてもらった。でも今日の様子をみていると、任せる範囲が大きいほど、かえって自信をもってのびのびとやれているように思う。

おとなしい、頼りない、まだまだ任せられない...、こう決めつけていた自分が間違いだったのかも知れない。もっと早くから権限を委譲して、任せてみるべきだったのだろう。

「えーっと、じゃあこんなのどうかなぁ。"就業管理システムにいいねボタン"とか」
ベテランの福石さんが、まず付箋を貼ってくれた。どうやら「率先して場の空気を作るのが自分の役割」と思ってくれているようで、いつも頭が下がる。
「あ、面白そうですね。どんな風に使うんですか」と、大森くん。
「がんばってくれているメンバーに上司がクリックすると、それが伝わる」
「なるほど、それって上司だけでなく、メンバー同士でも"いいね"をやりとりできるといいんじゃないかな」と大崎さん。
「頑張りすぎているメンバーのために"無理すんなよ"ボタンとか」と荒田くん。
大森くんも嬉しそうにツッコむ。
「それはいいですね。そんな就業管理システムだったら、もっとこまめに入力しますよ」

いや大森、そうでなくても就業管理システムにはこまめに入力しろよ。
それはさておき、単に就業時間を登録するだけのシステムが、コミュニケーション活性化のツールに変わったような気がする。

「最近はAIを使えば、顔の画像をもとに感情分析とかできるんだよね。パソコンの内蔵カメラで感情分析する機能が、ワークフローシステムについているといいな」
と、営業の萩原さん。
「どうしてワークフローシステム？」と荒田くん
「坂根部長の機嫌がいいときに、申請ボタンを押すと、承認してくれそうじゃない」
あ、それなら僕も欲しい、とみな口々に言う。
「いやー、機嫌のいい坂根部長なんて、あまり記憶にないなぁ、それってAIの能力外じゃないの」
との水沼さんの発言に一同大爆笑。
怖いもの知らずの水沼さんの発言はいつもどおりだけど、坂根部長ネタで全員が屈託なく笑い合えることは少々驚きだ。なによりも以前は少し斜めに構えていた萩原さんが、最近積極的に発言してくれるようになったことがうれしい。

この他、がんばってくれている配達員さんに投票できる機能とか、ブログのような経理帳票とか、いろいろなアイデアが飛び出した。さすがに斬新とまで言えるアイデアは無いが、そこそこの数が出た。そして何よりもみんなが楽しそうにしていたのが、印象的だった。

２つのワークショップが終わって振返ってみると、やはり大森くんの企画が秀逸だった。それと比べると、私の考えた...といっても半分は京子のアイデアだが、ワークショップは不発だったような気がする。
終わってから、そんなことを口にすると
「そんなことは無いと思いますよ」
と佐野さん。

「むしろ岩崎さんのワークショップの効果で、大森さんのワークショップが活性化したんじゃないでしょうか」
「でも、強いチームに近づけたのかどうかすら、よくわかりません」
「チームビルドって、そんなにすぐに実感できるものではありません。でも心理的安全性はかなり高くなったと思いますよ。なによりも"実はわたしトーク"というアイデアは素晴らしかったです。」

そうだったら嬉しい。でもこれは半分以上京子のおかげだ。こんどは私から飴ちゃんをあげることにしよう。

＜つづく＞

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