WEBマガジン

「イノベーションの育て方～ハナさんのストーリー～　（５７）」

2022.03.02 株式会社オージス総研　　山海　一剛

2020年3月2日

午前中、さっそく佐野さんとTV会議で打合せをした。
「これは以前、ご説明した資料ですが...」
資料が画面に映し出される。

Customer Problem Fit、Problem Solution Fit、Solution Product Fit、Product Market Fitの4つの検証段階の図だった（41話参照）。

4つの検証段階

「このうち、左の3つの検証はかなり進んでいると言っていいでしょう。でもProduct Market Fitについては、まだまだ不十分な状態だと思います。つまりテストマーケティングでも検証しきれていない部分ですね」

Customer Problem Fitは、想定した潜在課題をユーザーが本当に抱えているかの観点の検証。Problem Solution Fitは、解決策（アイデア）が、その潜在課題の解決策になるかどうかの観点の検証、Solution Product Fitは解決策が製品やサービスとして実現できるかの観点の検証である。実際の検証では前後することもあるし、1つの検証に複数の観点が含まれることもある。でも基本的には、この順番で検証していかなければならない。

「Product Market Fitの検証、つまり、ビジネスとして成り立つかの検証をもっとしないといけないんですね」
と、大森くん。
「はい、そうです。もちろん全く検証できていないというわけではないですよ。テストマーケティングでかなり本番に近い検証ができています。例えば、価格帯はユーザーへのインタビューで、感触がつかめているわけです。でも本当にその価格でじゅうぶんな数のユーザーを獲得できるのかは未知数ですし、一度獲得したユーザーをつなぎとめるだけの魅力があるのかに至っては評価できていませんよね」
確かにそうだ。

「一方、広告宣伝のコストや、運営コストなどは、経営会議のために概算したものの、鉛筆を舐めながら積み上げたにすぎません。机上の想定では無理があるからです。だからここから先は、実際にサービスを運営しながら検証していくしかありません」

経営会議を突破したからといって、喜んでいるヒマはないということだ。事業化が承認されたと聞いたときから、手放しで喜ぶ気分にはなれず、不安な気持ちだったが、その不安が今、具体的なかたちを見せ始めた。

「そのための体制が必要です。ここから先に進むには、今までの検討チームの形態では無理があります。また専任者も増やす必要があるでしょう」

「はい。おっしゃることは理解できました。でも具体的な体制のイメージがピンと来ていないんですけど」
と、私。正直な今の気持ちだった。

「そうですね。考え方だけお伝えしておくと...」
佐野さんが画面のページをめくる。
「大きく分けて、この3つの領域があるので、それをもとにチーム編成してはどうかと思います」

画面に3つのサークルが表示された。

1.サービス企画チーム
2.マーケティングチーム
3.運用チーム

佐野さんの説明はこういうものだった。

サービス企画チームは、獲得したユーザーの維持に責任を持つ。そのために魅力的な機能を追加したり、使いにくい部分を改善したりする。マーケティングチームは、新規ユーザーの獲得に責任を持つ。いろいろなメディアを通じて、このサービスの認知度を向上させ、サービスの魅力を伝える。運用チームは原価低減に責任を持つ。日常運用の中のムダを排除し、利益率向上に貢献する。
つまり3つのチームは、それぞれ異なる責務を持ち、その責務に応じた評価指標で評価されることになる。

3つのサークル

「あの、聞いていいですか」
画面越しの佐野さんが気づくようにと、大きく手を挙げる大森くん。
「IT機能は、どのチームが考えるんですか」
そうだった。テストマーケティングまでは、大森くんが手作業でやっていたが、さすがにITで機能を作り込む必要があるだろう。社内にITエンジニアなんていないので、外注するしかない。
「サービス企画チームの配下に置くのがいいでしょう。御社の場合、ITの開発は外注されることになるでしょうけど、ひとつ気を付けていただきたいことがあります」
佐野さんが続ける。
「事前に仕様と納期を決めて発注するという従来型の発注はしないことです」
確かに。どのような機能が必要か事前に決めようが無い。ではどうすればいいんだろう。
「作業工数をベースにした契約にして、必要になった都度、仕様を具体化して開発してもらうんです」

「あ、それって、アジャイル開発ですね」
気のせいか、大森くんの目が鋭くなったような気がした。
「おっしゃるとおりです。アジャイル開発の中でも、スクラムという手法をお勧めします。企画チームは、スクラムでいうところのプロダクトオーナーとして振舞うことになります。さすが大森さんですね」
去年に受講した社外セミナーで、デザイン思考と組み合わせると相性がいい手法として、アジャイルやスクラムが紹介されていたのを私も思い出した。

「スクラムは勉強していたので。でもスクラムというやり方を知っていて、工数ベースの契約に応じてくれるIT企業ってあるんでしょうか」

「まだ少数派ですがありますよ。今回はそれほど大規模な開発にならないでしょうから、ハードルは高くないでしょう。うちの会社にも、そういう仕事の仕方をするエンジニアチームがありますよ」
そういえば、佐野さんの会社もIT企業だった。

「体制について、話を戻しましょう。この3つは、協働しないと機能しません。えと、こんな感じで」
3つのサークルの間に、相互に矢印が表示された。

＜つづく＞

*本コンテンツはフィクションです。
*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

『WEBマガジン』に関しては下記よりお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ

さらに見る

「イノベーションの育て方 ～ハナさんのストーリー～ （５７）」

2020年3月2日

同一テーマ 記事一覧

「イノベーションの育て方～ハナさんのストーリー～　（５７）」

同一テーマ　記事一覧