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「イノベーションの育て方～ハナさんのストーリー～　（４７）」

2021.08.31 株式会社オージス総研　　山海　一剛

2020年1月14日

あっという間にテストマーケティングの前日になった。今日まで決して順調とは言えない状態が続いたけど、何とか人並みに年末年始を休めたのは奇跡だ。

まずご協力いただくご家族の募集は、思いのほか早く進んで、1週間ほどの間に10家族を集めることができた。萩原さんが中心になって、以前にインタビューさせてもらったご家庭に声をおかけしてみると、思いのほか協力を申し出ていただいたご家族が多かったのだ。

配達員さんについては、福石さんが中心になって販売店さんにお願いした。早い段階で試行する家族が決まったせいで、そのご家庭をエリアに持つ販売店さんにお願いするという流れを作ることができて少し楽ができた。大半の販売店さんには今回初めて説明するので、サービスの概要を理解してもらうのに少し時間がかかったものの、一旦理解してもらえると、積極的に配達員さんの人選に協力していただけた。

結局、3つの販売店さんから合計5人の配達員さんに協力をお願いして、2家族ずつ担当していただくことにした。1家族あたり1週間なので、2週間で2家族だ。

ウェアラブルカメラは、予備を含めた6台を用意した。動画の共有については、基本的にYouTubeの限定公開（検索結果や関連動画に表示されない、URLを知っている人だけアクセスできるような設定）でアップし、そのURLをメールで送ることにした。毎日手作業が発生することになるが一時点で5家族なので何とかなるだろう。

配達員さん向けのマニュアルは、荒田くんと大森くんが作成した。年明けに見せてもらったが、結構ちゃんとしたマニュアルになっていたので驚いた。特にウェアラブルカメラの操作やYouTubeへの動画のアップロード手順は、不慣れな配達員さんを想定してかなり丁寧に記述されていた。

パンフレットやHPなどマーケティング材料は、大崎さんと水沼さんが中心で作ってくれた。とはいえ素人デザインでは検証にならないので、営業部が普段お付き合いしているデザイン会社に発注した。もちろん費用が発生するが、なんと萩原さんが坂根部長に直談判して許可をもらったらしい。

テストマーケティングに向けて

デザイナーさんへの説明やレビューには私も参加した。類似するサービスが他に無いこともあって、最初のうちはしっくり来るものができあがらなかったが、徐々に納得のいくものになっていった。結果としてデザイナーさんの手を煩わせることになったが、最後には「素晴らしいサービスですね、私の周囲の人にも教えてあげたいので、本格的にサービス開始になったらゼッタイ教えてくださいね」と言ってもらえた。

価値検証ボードに貼られた付箋のほとんどは、「検証済み/作成済み」のエリアに移っている。ほとんどの準備は先週中に終えることができた。でも余裕があると言えるような状態ではなく、とくに昨日や今日は、みんな最終確認に大忙しだ。

大森くんは、テスト用動画をアップして、子世代の皆さんに動画が視聴できたかどうかを確認していたし、福石さんと萩原さんは、カメラ操作や動画アップロードなどについての配達員さんのリハーサルのために、今も販売店さんの間を飛び回っているようだ。

今日は16時に全員が集合して、準備状況の最終確認を行うことになっているが、10分ほど遅れて、ようやく福石さんと萩原さんがオフィスに戻って来た。
「ようやく配達員さんも大丈夫な感じになったよ」
と福石さん。

配達先のご家庭との関係が良好な配達員さんとなると、どうしてもベテランになる。ベテランとなるとIT機器に慣れていない人が多いのが悩ましいところだった。
「マニュアルの改善点もたくさん見つかったんじゃないでしょうか」
と大森くん。
「うーん、それはむしろ福石さんの功績が大きいかな」
と、水沼さんが少し意地悪な顔を福石さんに向ける。
「こらこら、余計なこと言うな」
と福石さん。
どうやら福石さんが、前もってマニュアルを見ながら操作方法を習得してみようとしたらしい。その過程でかなりマニュアルが改善されたようだ。

「早いもので、いよいよ明日だな。もう準備は万全だ」
と萩原さん。
「こら萩原、お前がそれを言える立場じゃないだろう」
福石さんがたしなめる。

12月の中頃に萩原さんが
「テストマーケティングなんだから、準備はざっくりで、そこから改善点を出せばいいんじゃね」
と、ちょっとお気楽な発言をして、佐野さんに叱られたことがあるのだ。

テストだからと言って、侮ってはいけない。万全に準備をしていても、想定外のことは起こるし、準備が万全であれば、そこから学ぶことも多い。逆に準備が適当だと、学びの量も質も低くなる。佐野さんにしては珍しくお説教モードだったので、すごく記憶に残っている。
「なによりもそんな感覚では、ご協力いただくご家族に申し訳ないですよ」
佐野さんにバシッと言われて、小さくなっている萩原さんだったのだ。

佐野さんが釘を刺してくれたせいもあってか、前日にバタバタするような事態までにはならなくてよかった。胸をなでおろして会社を出ると、お正月の浮いた雰囲気はすでに無く、街全体が厳しい冬の到来に姿勢を低くして身構えているような気配を感じる。

最初は思いつきと言ってもいいようなアイデアだったのが、徐々にかたちをとり、限られた範囲ではあるが、とうとうサービスとして提供されることになったのだ。そのことを考えると、何が心配というわけでもないのに、そわそわ感が止まらない。まだまだ独り立ちできる状態ではないのに、世間に送り出して大丈夫だろうか。ふと、息子を初めて保育園に預けた日のことを思い出した。

＜つづく＞

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