「島津製作所に学ぶDX時代における製造現場の品質維持の取り組み」
セミナー開催レポート(株式会社島津製作所様)
2023年6月21日(水)に、Zoomにて『島津製作所に学ぶDX時代における製造現場の品質維持の取り組み』のセミナーを実施しました。本セミナーでは、弊社とお付き合いのある島津製作所様に、医療機器製造現場での技術継承のありかたについて行動観察を用いた事例を紹介いただきました。
本コラムでは、ご講演の一部をご紹介します。
※本コラムは登壇者様の発表内容を可能な限りそのまま載せておりますが、読みやすさ向上のため一部改編しております。
株式会社島津製作所 植原様
『ちがいは宝~ちがいがあるから高められるものづくり~』
これまでの取り組みと行動観察との出会い
まず、行動観察導入に至るまでの背景です。弊社では技能承継促進の一環として、職場作業者を対象にコミュニケーションに関する調査を行い、教わる側と教える側の意見を収集しました。調査結果から、教わる側は手順書等教える元になるものに即した指導を求めており、教える側は関係性や相手に合わせた指導方法を重視していることがわかりました。教える側の力量だけに頼ると技能継承が困難であり、お互いの認識のズレがコミュニケーションを通じて誤って伝わると重要なノウハウが失われる可能性があるという問題意識を持ち、技能承継のやり方自体を新たに開発する必要性を感じました。
そこで、ノウハウを残していく方法の一つとして、アイトラッキングという技術を活用することで熟練者の知識や技術を視覚化し、若手とのギャップを埋めることができると考えました。しかし、アイトラッキングの導入による視点や作業の比較ではわずかな違いしか見られず、具体的な技術差の原因を把握できませんでした。アイトラッキングは便利なツールですが、適切な見方と作業者の意図を引き出すファシリテーションが必要であることを理解しました。
解決策を模索している中で行動観察という方法に出会いました。行動観察はさまざまなシーンで人がどのように行動しているかを観察し、定性的な情報を収集することで、無意識のノウハウやニーズを理解する手法です。違いのわかりづらい視点や作業の差を見出し、その意図を引き出すことに役立つのではと考え、導入に至りました。
現場への導入から実践へ
行動観察を導入した部署は、医用機器に組み込まれるX線管球を製造する職場です。新人の配属を機に、作業者が持つ必要な技能やノウハウを定量化・数値化し、部署内で共有する必要性がありました。
準備段階として、メンバーのインサイトを発掘し、行動観察の対象とする具体的な作業を絞りこむため、オージス総研の原井氏により、実際の現場で作業工程を確認・アイトラッキングで記録された動画の確認・作業者へのヒアリングを行いました。
準備段階を経て、アイトラッキングの動画を用いて、職場の方と行動観察を行いました。視聴時には、動画を0.5倍速で再生、短時間の動画を繰り返し観察し、細かな動作やパターンの違いを捉え、事実と解釈を書き出すようにしました。視聴後には、参加者同士で気づいた点を共有し、討論しました。
行動観察によって見えた、作業のちがいとその意図の事例の一部を紹介します。
・同じ作業でも視点が違う
(挿入した部材が中心にあるか確認するため、中心側の隙間間隔を見ている/外側の隙間間隔を見ている)
→それぞれの理由は違うが目的は同じ。アプローチが違っているだけで間違いではない。
・若手は部材のエアブロー時に、PC画面でロット番号を確認している、ベテランは部材を見て傷がないか確認している。
→若手はエアブローの工程前のピッキング時部材チェックを行っていることがわかった。
実践を通した参加者の感想は次のようなものでした。
若手の方は、教わる側との「ちがいは間違いではない」という言葉で安心できた。ベテランの方は、同じ作業でも、考えていることの違いで動作が変わることを体感できた。職長は、ベテラン、若手両方がすべての作業に意図を持って臨んでいることがわかって、頼もしいと喜んでいました。
行動観察実施後の変化
行動観察のワーク実施後半年を経た変化を紹介します。作業者同士がお互いのやり方を意識して合わせるようになり、ベテランの技術やノウハウが新人にも伝えられるようになりました。反対に、新人の意図を汲んだことによりベテランが新人の作業を参考にするなどの改善も行われました。行動観察でわかった気遣い作業をきっかけに、作業環境に関する改善が自発的に行われ、作業スペースが従来よりも広くなり、作業効率や作業者の動きのスムーズさが向上しました。
行動観察のワークに参加された方からは、「行動観察によって先輩の作業を細かく学ぶことができた」という声や、「行動観察の経験を活かし、手順書には書ききれない細かな要素を教える際に意識的に説明するようになった」との声もありました。
技能継承とは何か
行動観察を通じた技能継承について、新たな気づきがありました。技能継承とは、「お互いのやり方を理解し合い、その意図を共有することが重要」ということです。
行動観察のワークではベテランも若手も作業の裏に理由や意図、過去の経験からの学びがあることを目の当たりにすることができました。考えてみれば当たり前ですが、作業者のカン・コツとは、過去の経験を元に作業者が考えたことが動きになって表れており、その意図を知らず動きを真似するだけでは技能継承とはなりません。また、動きを見ていても「これがカン・コツだ!」とはわかりません。
しかし、相手の意図まで踏み込んだ作業理解は、双方向で共有するのは大変難しく、「ちがい」を前提とした議論が必要です。それを解決する手段の一つが行動観察でした。
今回の活動を通じて得られた学び
今回の活動を通じた一番の学びは、技能継承がモノづくりの高度化や組織力強化のチャンスである、ということです。
しかし、単なる「やり方の横展開」ではうまくいったとしても現状維持にしかならず、冒頭のアンケートにもあったように、教える側・教わる側、各人の認識ズレがあるので現状維持以下にしかなりません。さらに言えば、教える側の顕在意識下でのカン・コツしか伝えられないので、結果でつながる関係性では、引き継ぐたびに情報量は小さくなります。技能を磨いた作業者同士がお互いに意図を伝え合うことで、組織としてモノづくりの情報が増え、さらなる改善活動や、異なるやり方の取り入れ、つまり技能承継が促進され、結果モノづくりの高度化、組織力強化につながるのです。
技能継承とは、モノづくりの高度化のチャンスです。個人同士に任せるものではなく、組織で時間をかけて取り組むことだと学びました。
2023年8月29日公開
※この記事に掲載されている内容、および製品仕様、所属情報(会社名・部署名)は公開当時のものです。予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。
※本ページに記載の内容および画像等の無断転載不可
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