第85回 職場集団をチームとして機能させる取り組み-「やらされ感」からの脱却への道筋-

2017.08.09 山口 裕幸 先生

 組織の中間管理職の方々にお話をうかがう機会があるたびに、「やらされ感」で仕事に取り組んでいる部下が多いと嘆く声をよく耳にする。「指示待ち族」の多さを嘆く声も同様に聞こえてくる。受け身の姿勢で働く人の多さや増加を感じることは、管理職にとっては悩みの種のようである。

 「やらされ感」の問題は、組織成員一人ひとりの職務に取り組むモチベーションの低下や精神的ストレスの高まりという問題に留まらず、職場で解決すべき問題に直面しても、自ら解決に向けた努力をせずに「誰か何とかして欲しい」というお客様的態度の蔓延にもつながる。いかにすれば「やらされ感」で仕事をしている状態から脱却をはかることができるだろうか。

 まず、「やらされ感」がどこからやってくるのか考えてみよう。「やらされ感」の根底には、単に受け身の方が楽という思いだけでなく、「責任をとらされるような羽目にはならないようにしたい」という動機が存在しているように思われる。「指示待ち」の姿勢にもこれは共通するだろう。とはいえ、責任をとる事態は避けたいという思いは誰もが抱くものであり、責めることはできない。問題は、この責任回避の動機を刺激して、実際に責任回避を優先した行動を選択させる要因の存在である。職場にそうした要因はないだろうか。

 皮肉なことに、職務には必ず責任が伴う。それは当然のことで、その責任をなしにしてしまうことはできないだろう。しかし、部下の視点に立てば、「上司の言われたとおりにやったのだから、結果の責任は上司にある」と考えたいところである。指示されたことをそつなくきちんとやっていることは、責任を回避とまでは行かずとも、軽減する効果は期待できる。

 そもそも多くの組織が、指示命令で人を動かすことを日常的にやっていて、上司の方も、ついつい指示命令で部下を動かすことに終始してしまいがちである。しかも、成果が上がらないと、部下の責任を追及しがちでもある。部下の方は、一層、上司の指示でやったことだという言い訳ができる方策を考えるようになる。

 この責任をめぐる上司と部下の心理的せめぎ合いは、部下の「どうぞ指示してください。指示してもらえばきちんとやります」という態度を促進し、上司の「やらされ感で仕事する部下が多い」という嘆きにつながっているところがあるように思われる。

 この問題の解決への道筋を示してくれるのは、前回紹介した「組織の心理的安全」を構築する取り組みの基盤となっている「学習する組織論」(Senge, 1990, 1994, 2006)である。一般に、多くの職場では、メンバーに共有されている暗黙の目標は「仕事を片付ける」ことになっていて、一人ひとりは責任をとらされるリスクを回避し、自己保身をはかることを優先しがちである。このような組織では、職場はメンバーからは「作業の場」としてフレーミング(枠取りされて認知)されていることになるという。

 これに対して、メンバーが、職場を「学習の場」として認識するように、フレーミングをシフトすることによって、失敗から学ぶことを大切にして、自律的にプロアクティブに仕事に取り組むことを促進することが期待できると、「学習する組織論」では指摘している。つまり、「失敗=責任を追及されるもの」の図式から「失敗=将来のために学び生かすもの」という図式への転換をはかることが、「やらされ感」が蔓延する職場を変革して、失敗を恐れず、失敗から学ぶことを大切にして、イノベーションに挑戦するような組織に成長させるというのである。前回紹介した学習する組織論に基づくチーミングの取り組みにおいて、メンバー同士が気兼ねなく自分の考えを伝えあえる「心理的安全」の構築が重視されるのも、やはり失敗から学ぶことを促進する狙いからであった。

 私自身、日々の職務に前向きに自律的に取り組めているかと自問してみると、他人事ではなく、自分自身も、「やらされ感」で仕事に取り組んでいることが多い。そして、確かに「仕事をこなす、片付ける」といった感覚で働いていることも多い。こうした働き方は決して幸福なものとは言えないだろう。

 自分で考え、自分で行動して、成果をあげるところに仕事の醍醐味はある。その醍醐味を味わう喜びを感じられるように職場を学習の場ととらえ、失敗から学ぶことを大切にした働き方へとフレーミングをシフトさせる工夫が大事になってくる。どんな取り組みが鍵を握るのか、次回も引き続き考えていくことにしたい。

【引用文献】
◆ Edmondson, A. C. (2012). Teaming: How organizations learn, innovate, and compete in the knowledge economy. San Francisco: John Wiley & Sons.(Edmonson, A. C., & 野津智子. (2014). チームが機能するとはどういうことか. 英知出版)
◆Senge, P. (1990). The fifth discipline: The art and science of the learning organization. New York: Currency Doubleday.
◆Senge, P. (1994). Building learning organizations. The training and development sourcebook, 379.
◆Senge, P. M. (2006). The fifth discipline: The art and practice of the learning organization. Broadway Business.(ピーター・センゲ. (2011). 『学習する組織-システム思考で未来を想像する』 枝廣淳子・小田理一郎・中小路佳代子(訳)、英治出版)

※先生のご所属は執筆当時のものです。

関連記事一覧