第161回 人手不足解消への道筋を考える(4)~女性を積極的に雇用するアプローチ~

2024.5.15 山口 裕幸(京都橘大学 特任教授)

 産業現場で深刻化する人手不足を解決する方向性を4つ掲げて議論してきたが、最後となる4つめのアプローチは、女性を積極的に雇用することである。「何をいまさら」と思う人もいるかもしれないが、女性を社会で活躍できるようにする制度や仕組みづくりは進んでも、女性の雇用状況は男性に比べて「劣悪」とさえ言える状態にある。

 具体的なデータに基づいて見てみよう。内閣府の男女共同参画白書令和5年版によれば2022年度の男女(15〜64歳)の就業率は、男性84.2%、女性72.4%である(男女共同参画局(外部サイト))。なんと12%弱もの格差がある。しかも、女性の就業は、25〜45歳の年齢層に偏っていて(この年代の就業率は79.8%)、25歳未満および46歳以上の年齢層の女性の就業率はかなり低いことをこのデータは示唆している。

 さらに気になるのは、女性の正規雇用比率は、20代は60%近くあっても、30代以降は次第に低下していることである。上記の男女共同参画白書に掲載されているデータをグラフ化してみると、その実態が手に取るようにわかる(左図参照)。女性は20代には正規雇用されていても、20代半ばから30代前半にかけて、結婚、出産、育児を契機に勤務を辞めなければならず、一度正規職を離れてしまうと、その後は年齢が上がるにつれ、元の職場に復帰することは非常に難しくなることが、このグラフから見てとれる。

 政府は1985年の「男女雇用機会均等法」制定以来、最近でも「子ども家庭庁」等の新たな官庁を設立し、法律や制度の整備を続け、女性が結婚・出産・育児を迎えても、働き続けることを支援する姿勢は明瞭に示している。それらでは不十分だという批判もあるので、それにはよく耳を傾けて、さらなる改善につなげて欲しいものだ。

 ただ、社会心理学の視点で捉えてみると、法律や制度の整備よりも、社会に浸透している文化や規範の影響が気になるところである。というのも、結婚すると、家事や育児は女性が中心に担うという考え方が、古来、我が国の歴史のほとんどの時代で続いてきた。そして、そうした伝統的な考え方を受け入れると、それが「当たり前」のことで「常識」であるといった感覚に陥ってしまいがちである。そうした自分なりの「当たり前」や「常識」は、無自覚のうちに自分の判断や行動に影響する。しかも、文化や規範は、社会の大多数の人々が共有する「当たり前」であり「常識」なので、その影響力は強力である。もちろん、さまざまな出来事や時間の流れを経て、文化や規範も変化していく。しかし、その変化には時間がかかる。法律や制度で表面的な行動は変えることができても、人々の本音を変えていくことは容易ではない。

 結婚し、出産しても、働きたいという希望を持ち続けている女性はたくさんいる。結婚や出産、あるいは育児を終えた女性が正規職に復帰する道筋を塞いでいる主要な原因を洗い出し、それらの障壁を克服しやすくする法律や制度の整備は、女性が積極的に正規職復帰を目指すことを動機づけるだろう。特に、子育て支援は、保育園や学童保育の拡充を核に、安心して子どもを預けられる社会の早期実現が切実に望まれる。

 他方、男性の意識を変えていく取り組みも大切だろう。ただ、「男性も家事・育児に参加し、育児休暇も取得して、女性と平等に負担を受け持つように!」と注意喚起を図るだけでは、男性の本音までは変えることは難しいように思う。「行動を変えるように求める」というやり方は、言ってみれば、「押す」ことに主眼がある。これは究極のところ、強制によって人を動かそうとするやり方で、主に政治や行政がやり続けてきたパターナリズムの方略である。しかし、上述したように、このやり方では、なかなか心の奥深いところに根づく本音に変化を及ぼすところまでは行かない。そこで、「押しても駄目なら引いてみる」など、やり方を工夫してみてはどうだろう。このコラム119回で紹介したナッジを活用したやり方である。

 人間、誰でもできなかったことができるようになりたいものである。家事、育児にはたくさんの仕事がある。それらを単に半分ずつ受け持つのではなく、仕事の種類ごとに分担して、男性ができるようになりたい家事、育児の仕事を選んでもらい、トータルでは負担が半分ずつになるように分担を決める。もちろん、最初から円滑に行くわけではないだろう。女性にしてみたら、「もう自分がやった方がずっとまし!」と嘆きたくなるような仕事ぶりのこともあるかもしれない。それでも、少しでも上手にできることが増えてきたら、そこで「なかなか上手になってきたね」というような褒め言葉が、さらにがんばる発奮材料になる。男性が家事、育児に関心を持ち、進んで取り組みたくなるような仕掛けのナッジはないか、普段から気にかけておくことが、思いつく確率を高めてくれるだろう。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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