第123回 リモートワーク環境とチームワーク形成 ~集団力学的視点から~

2021.03.02 山口 裕幸 先生

 リモートワークの普及にはメリットとデメリットの両面があることについて前回考えた。今回は、デメリットとして指摘されることの多い対人的コミュニケーションの希薄化の問題を踏まえつつ、リモートワーク環境におけるチームワーク形成、チームビルディングのあり方について考えてみたい。

 チームワークはメンバー同士の対人的コミュニケーションを通して徐々に形成されていくものである。そのプロセスはディキンソンとマッキンタイア(1997)が示した図を見るとわかりやすい。

 チームワーク形成の基盤は緑の枠で示されたコミュニケーションである。そしてチームで活動する際の行動のあり方が右半分の黄色の枠で示した4つのプロセスである。まず、自分の仕事の進捗だけでなくチームメンバーの仕事ぶりを見守りながら(モニタリング)、仕事をしながら気づいたことや助言等の情報を伝えたり(フィードバック)、仕事を手助けしたり(支援)、より円滑に仕事を進めるために互いの役割を調整しあったりして(相互調整)、実際のチーム活動を経験していく。この経験はチームメンバーで共有され、互いに「こんな状況の時には、このようにメンバーと連携して対応しよう」という認識が醸成され、それが調和しはじめると目に見える形で協調関係を体験できるようになる。

 その結果、チームで仕事に取り組む際の考え方や方針、価値観といった心理的特性が共有されるようになり、チームの指向性として働くようになる。「このチームで仕事をするときは目標達成を最後の最後まであきらめない」とか「このチームで働くときは、必要なことであれば他のメンバーにとって耳の痛いことでも率直に伝えあうようにしなければならない」といった観念が、ここでいうチームの指向性である。対人関係重視、規律厳守、前例主義など、様々な指向性がチームに醸成される。併せて、各メンバーがチームの目標達成を促進するように他メンバーに働きかけるチームリーダーシップの醸成も進んでいく。

 チームワークは、上記のプロセスを繰り返し何度もチームメンバーたちが経験することによって、チームで学習することで形成され、成熟していく特性を持っている。一言で言えば、時間をかけて創り上げていくものである。もちろん、常にチーム活動が成功裡に展開することばかりでないし、時にメンバー間に対人的軋轢が生じることもある。そんな危機的状況を乗り越えて、優れたチームワークを形成し醸成していくための要所は、コミュニケーションにある。

 リモートワークの普及は、チーム・コミュニケーションのあり方に大きな変化をもたらしている。業務に関連する情報伝達、情報交換に関していえば、オンライン・コミュニケーションの導入によって、それまでよりも円滑で精確性も増していることが考えられる。ポイントは、対面状況であれば自然と認知することのできた互いの表情やしぐさ、服装などの情報を、リモートワーク環境では認知するチャンスが限られて十分に理解しにくくなってしまうことである。

 集団力学(group dynamics)を提唱したK.レヴィンは、人が集まると、互いに周囲の人々に影響を及ぼし、また及ぼされて、そこには心理学的な「場」が生まれると指摘している。この「場」は、日常的に雰囲気や「空気」と表現される特性と考えても良いだろう。我々は、一緒に働く職場の同僚たちの表情やしぐさ、服装等の情報から、職場の雰囲気や「空気」あるいは、同僚の気分や感情、考え方を、無自覚のうちに推測し、自分の行動選択に活かしながら生活を送っている。人間の認知システムは無自覚のうちに多種多様の情報処理を行っており、その活動は「メンタルショットガン」と呼ばれるほど矢継ぎ早に多方面に向かって行われている。対面状況のチームコミュニケーションでは、メンバーの思いや気持ち、何気なく感じていることが互いに自然とやりとりされているのである。それは言葉では表現するのが難しいことがらも含まれていて、その非言語的特性こそが、チームワークの形成、醸成に大きく影響を及ぼしている。

 メンバー各自が配分された仕事を的確に完遂すれば、チームとしての成果が保証される性質の仕事であれば、リモートワークは時間的ゆとりを生み、さらなる高業績を導く可能性を秘めている。他方、成果をあげていくには、メンバー間の連携が必要な性質の仕事の場合には、いわゆる「つなぎ」の仕事や「隙間を埋める」仕事を、メンバーで協調して行うことが大事になるため、リモートワークで実践するには、メンバー間でコミュニケーションをとる機会を増やす工夫をする必要がある。その際、仕事の話はもちろん重要であるが、それ以外の日常で感じることや、日々のニュースを巡る意見交換など、仕事とは直接関係のないことでも意見や感想をやりとりする機会を意図的に作ることがチームワークの醸成には不可欠であることに留意したい。適度な職場のおしゃべりは、チームワーク醸成の鍵を握っているのである。

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