第131回 社会心理学的視点で社会と組織の活力の源泉を考える 2 ~"奇想天外"を面白がる心のゆとりはどこから来るのか~

2021.10.29 山口 裕幸(九州大学 教授)

 前回は、活力あふれる組織や社会を作り上げていくには、多少は奇想天外であっても皆で他者の発言や行動を受け入れ、面白がって聞く雰囲気あるいは風土を、組織全体、社会全体に醸し出していくことが鍵を握っていることについて論じた。そして、それを可能にするのは、一人ひとりが心にゆとりをもつことにあるだろうと考えた。さて、心のゆとりは、どのようにして整えていけばいいのだろうか。

 人間の心のゆとりと関連の深い社会心理学の研究テーマにリスクテイキング行動がある。心にゆとりがあればリスクテイキング行動は促進されると考えられる。具体的には、どのような状況が心にゆとりを生むのか、筆者が携わったリスクテイキング行動に関する研究を参考にして考えてみよう。

 その研究は、企業研修の一環として実施された経営ゲームを対象として行われた。参加者は、4人ひと組で商事会社を経営するシミュレーション・ゲームを2日間にわたり行った。4人は、商品仕入れ、市場動向把握、販売促進、財務管理の、いずれかの役割を担当し、3種類の商品それぞれの市場動向調査費、在庫仕入れ数、販売促進費、銀行からの借入額・返済額、等について話し合いながら、集団決定していった。

 商品Aは長年にわたる販売実績を持つ利益率の安定した主力商品であり、商品Bは発売から多額の販促費をかけて売り出し中で現状の利益率は低いが将来成長を期待している商品、また商品Cは新発売であり利益率は高いが販売の見込みは未知数の商品として説明された。集団決定は繰り返し18回行われ、集団決定の都度、その回の各商品の売上げ数、売上金額、銀行から融資を受けている借入額、そしてその回の利益額がフィードバックされ、利益額は累計されていった。

 なお、各商品の売れ行きはあらかじめプログラムされていて、商品Aの場合、最初の6回の間の売上げは順調であるが、残りの12回になると次第に売れ行きは減少していった。商品Bの場合、前半9回の間は少しずつ売上げが増加していくが、後半の9回に入ると売れ行きは増加も減少もせず停滞した。商品Cの場合、序盤6回はほとんど売れないが、中盤6回で売れ行きが少しずつ伸び、終盤6回で急速に売上げが伸びた。4人は、適切な情報を買い入れて3つの商品の売れ行きを市場動向から予測し、売上げを伸ばすために販売促進費を適切に投入しつつ、商品を適切に仕入れて在庫を健全に管理しながら会社を経営し、最終的にできるだけ大きな利益をあげるように求められたのである。

 この経営ゲームが行われていく過程を分析した結果、リスクテイキング行動に関して顕著に見られた傾向は、売上げの上昇が続く状況では、市場動向調査費も販売促進費も仕入れ数も積極的にリスクをとる反面、売上げの減少が続く状況ではリスクを避けて確実な利益確保を優先する意思決定が行われることであった。ポイントは、参加者たちの意思決定は、同様の結果が続くトレンド(傾向、趨勢)に敏感に反応したことである。また、一度リスク回避が優勢になると、その傾向は持続し、リスクテイキング優勢へと転じることは容易ではないことも示された。

 この研究が示唆するのは、先々、ポジティブな結果が続きそうだという明るい予想、予感を持てることが、リスクテイキングを可能にすることだ。すなわち、心のゆとりは将来をポジティブに予感できるところから生まれてくるといえそうだ。我々は明るい将来を予想、予感できる毎日を過ごすことができているだろうか、と考えると否定的な気持ちになってしまう人も多いだろう。しかし、認知の枠組みを転換することで、将来に対してポジティブな予想や予感を持つことは難しいことではない。認知バイアスに関する研究は、それを実現するためのヒントを与えてくれる。次回は、自分の認知の枠組みを転換するところから、心のゆとりを生み出す道筋を探ることにしよう。

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