第93回 新入社員をひとくくりにして「レッテルを貼る」行為はなぜなくならないのか-社会心理学的視点で素朴な疑問に向き合う④-

2018.04.13 山口 裕幸 先生

 桜の季節を迎え、新年度が始まった。希望を胸に、晴れやかな笑顔の新人たちの初々しい姿に、活気が増している職場も多いことだろう。この季節になると思い出されるのが、先輩たちが「今年の新入社員はどんな特徴があるんだろう」と話をしている光景である。筆者自身も入社2年目以降は、「今年の新入社員はどうなの?」と結構気にしていたものである。

 こうした興味や関心は、時代を超えて多くの人々が抱くもののようである。事実、公益財団法人日本生産性本部は、独自に実施している新入社員意識調査の結果に基づいて「新入社員の特徴とタイプ」を昨年度まで発表してきている(https://www.jpc-net.jp/new_recruit/typehistory.html)。「キャラクター捕獲ゲーム型(平成29年度)」、「ドローン型(平成28年度)」等、その年度の新入社員全体を特徴づける工夫がなされていて、参考になるところも多い。

 新入社員だけでなく、「ゆとり世代」や「団塊の世代」、古いところでは「新人類」「しらけ世代」など、特定の年齢層をひとくくりにして、そこにレッテルを貼って理解しようとする行為は、普遍的に見られるものである。社会心理学の領域では「ステレオタイプ化」と呼ばれている認知行為であり、多くの場合、我々が無自覚のうちに瞬時にやってしまうところに特徴があって、誰もが日常的に行っているものである。

 それにしても、なぜ誰もがこんな認知の仕方をしてしまうのだろうか。人間の認知様式には不思議な特徴が見られる。たとえば、画用紙に描かれた長さの異なる10本の線分の平均の長さを問われると、ものさしを取り出すまでもなく、すぐに、しかもほぼ正確に回答することができてしまう。しかし、全部の線分の長さを足すとどれほどの長さになるかを問われた場合には、なかなか答えが出てこないばかりか、人によって回答の数値にはばらつきが多く、正確さを欠くものになりがちなのである。つまり、我々人間は、たくさんのものがあるとき、その平均的な特徴を直感的に把握することは得意であり、しかも、その能力は非常に優れたものなのである。

 こうした優れた直感的能力が備わっているが故に、新入社員はたくさんいて、一人ひとりに個性があることはわかっていても、ついつい全体的に見て、平均的にどんな特徴があるのかを把握しようとするし、できてしまう。しかしながら、こうした直感的認知には、深刻な問題も付随するので注意が必要である。

 ひとつには、新入社員に一度レッテルを貼ると、それ以降は、どの新入社員も同じ特徴を持っていると思い込んでしまうことがあげられる。新入社員だけでなく、「○○課の人たちは仕事が早い(遅い)」とか「○○社の人は元気が良い(おとなしい)」といったステレオタイプ的な知識は、その対象となる集団に所属する人々全員に当てはめることにつながる。対象となる集団の人々にしてみたら、自分はそうではないのに、一方的に特定の特徴を持つ人間としてひとくくりにされてしまうことは不本意であることも多い。好意的な認知ならまだしも、ネガティブな特徴で認知されてしまうことは、差別や偏見を受けることであり、容易には認めたくないことになる。

 弱ったことに、我々は「自分の見たものがすべてだ(What You See Is All There Is)」と呼ばれる無自覚で瞬時に発動する認知様式を身につけていることが知られている。自分が見聞したことに基づいて「今年の新入社員は○○な特徴がある」と思うと、それをすべての新入社員に広げて当てはめる認知様式に陥りやすいのだ。これはステレオタイプ的知識を作り上げる認知行為といえる。そして、新入社員と話をするときがくると、たとえ初対面の相手であっても、今度は、自分が作り上げたステレオタイプ的知識を当てはめて、相手を評価したり理解したりするのである。

 この問題は、偏見や差別につながり、相手を傷つけてしまうだけでなく、対象となる集団のメンバーを一面的にしか理解できなくなってしまう点でも問題をはらんでいる。たとえば、日本人は集団主義(個人の利益よりも集団全体の利益を優先する傾向)的であり、アメリカ人は個人主義(集団全体の利益よりも個人の利益を優先する傾向)的であるという調査結果の報告を聞く機会は多い。その意味するところは、「平均的に言えば」そうした違いがあるということであり、日本人でも個人主義的傾向の強い人は一定程度いるし、アメリカ人でも集団主義的傾向の強い人はそれなりにいるのである。あくまでも平均値に差があるということを意味している。ところが、人間の認知としては、日本人は全員集団主義的で、アメリカ人は全員個人主義的であるという、白黒をはっきりとつけた認知になりがちなのである(図を参考にしていただきたい)。

 よく考えれば、どんな国でも色んな考え方の人がいるということはわかりきったことなのに、我々は、認知する対象となる国や民族、集団の特徴を、ついつい一面的に捉えがちなのである。その理由のひとつに、人間が進化させてきた無自覚のうちに瞬時に発動する認知システムの働きがあることは皮肉なことではある。とはいえ、注意を払っていないと、自分の見聞だけにしか基づいていなくても勝手にステレオタイプを作り上げ、対象となる集団のメンバー全員にそれを当てはめて認知してしまうことを、誰もがやってしまうと知っておくことは価値のあることだろう。

 自分はそんな身勝手な色眼鏡で他者を評価したり理解したりしていないか、振り返ってみることで、新たな気づきに巡り会えることも多いだろう。新入社員はたくさんいてひとかたまりに見えても、個々に観察すれば、十人十色の個性を持っていることだろう。ひとくくりにしてレッテルを貼るばかりでなく、一人ひとりの特徴を興味深く見守り、彼・彼女たちの長所と強みを引き出して、組織の将来力の育成につなげたい。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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