第11回 どうすれば優れたチームワークを育むことができるか(2)-チーム・マネジメントの心理学②-

2010.12.17 山口 裕幸 先生

 効果的なチーム・マネジメントを模索するとき、大きく分けて二つのアプローチが考えられる。ひとつは、チーム・デザインのアプローチである。これは、チームの目標と、その達成に向けて行うべき活動内容を明確に示して、有能なメンバーを集め、チーム活動を実践する際の基本的ルールも定めたら、あとはメンバーどうしの自律的な相互作用が優れたチームワークを生み出すとい観点に立つものである。複雑系科学を基盤に近年注目されてきたセンゲ(1990)やガーヴィン(1993)に代表される「学習する組織論」の流れをくむものである。

 もうひとつのアプローチは、チーム・ビルディングのアプローチである。核となるメンバーを設定し、そのメンバーのリーダーシップのもとに、必要に応じて、研修やトレーニングも取り入れて、メンバー間の円滑なコミュニケーションと連携を実現に導きながら、チームを作り上げていくアプローチである。これは、長年にわたってチーム・マネジメントの主流をなすアプローチである。航空機運航チームを対象に行われているCRM(クルー・リソース・マネジメント)はその代表である。ただ、どのような介入を行えば、優れたチームワークの発達につながるのか、という問いに対しては、必ずしも明確な正解が見つかっているわけではない。メンバー間の相互作用は、多種多様な様相を呈し、時間の経過やチームが直面する状況の特性によってもダイナミックに変動する。「こうすれば大丈夫」と断言できるような方法はなかなかないというのが実情である。

 さてどちらのアプローチが有望なのだろうか。極端なことをいえば、チームで活動し、その目標を達成することの重要さをよく理解して、連携する能力の高い、いわばチームワーク能力の高いメンバーを選抜して集めることができるのであれば、的確なチーム・デザインで十分だろう。しかし、現実には、そんな贅沢なメンバー集めができるチームはごく少数に限られている。経験が少ないメンバーや、仕事に求められる技能が必ずしも得意ではないメンバーも混じっている中で、優れたチームワークを作り上げていかねばならないのが実情である。

 下図に示したように、チームワークは、チーム活動を通して醸成され、発達していく中で、次第により高品質のものへとグレードアップしていくことのできるものである。それを実現するには、チームワークの発達の方向性を的確に見定め、それがぶれないように注意しながら、着実に、そしてより高度なレベルへと発達を促進することがチーム・マネジメントの重要課題になる。とすれば、やはりチーム・ビルディングを基盤にして、チーム・デザインの長所を取り入れて、チーム・マネジメントを考えることが理に適っている。yamaguchi11_1.jpgのサムネール画像

 ここで再認識されるのが、リーダーシップの重要性である。多様な特性と能力を持つメンバーが集まる中で、チームとして達成すべき目標を正確に理解させ、各自の果たすべき役割と、取るべき連携を明確に認識させて、実際に行動に移すように導くことがチームの核となるメンバーに求められる役回りである。円満な人間関係は極めて重要であるが、ただ仲が良いだけでは、チームの目標達成はおぼつかない場合もある。時には他のメンバーの心理的反発を覚悟しながらも、叱咤激励する役目を取る必要に迫られることもある。目標達成を目指した「仕事への厳しさ」と、円満な人間関係の実現を目指した「メンバーへの思いやり」の両方を、状況の特性に応じて十全に実践することで、核となるメンバーの影響力は高くなることが期待される。そうした影響力は、メンバーたちを心理的にも行動的にも有機的な連携へと導く原動力となるだろう。

 多様なメンバーをまとめて、優れたチームワークを育むチーム・マネジメントを考えるとき、核となるメンバーの的確なリーダーシップ育成が鍵を握ってくる。その育成に関して、重要な視点を与えてくれるのが、このコラムの第6回目で紹介したコーチングの方法論である。指示・命令ではない「観察」と「傾聴」と「質問」を基軸とする取り組みは、メンバーからの信頼に基づく影響力の獲得への道筋を示すものとして再認識しておきたい。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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